シークレットルーム

隠し部屋探しと言う名の任務を始めて早1時間。今は2階に移っていた。つくりが同じ部屋なら、同じ仕掛けがしてあって、結構簡単だった。ヴァリアーでも同じような仕掛けだったし。


二階にやってきた私たち。


「さて、紫杏疲れてねえか?」


たけ兄の問いにうなずき返してから一番近くにあった扉を開いた。開いた扉の向こうはどうやら衣装室らしい。ヴァリアーにもあった衣装室。同じようにたくさんのドレスやスーツ、コスプレのような衣裳。


「お、衣装室だな」


嬉々としてはいっていくたけ兄は、いろいろな衣装を見ては、昔小僧もコスプレごっこしてたなーと笑っている。


たけ兄の小僧というのはリボーンのことだ。


今は、小僧というにはあまりにも不似合なきがするけど、癖なんだと前に言っていた。で、リボーンは不服だけどあきらめたそうだ。それに、雲雀さんには赤ん坊って言われてるしね。


もうあだ名と化しちゃってるそれに否定するのもめんどくさくなったみたい。小僧はともかく、赤ん坊はさすがにないんじゃないかと思うけどね。だって、リボーンはどう見ても赤ん坊じゃない。


「ここはどこにあるんだろーなー」


洋服をかきわけながら壁際を探していくたけにいをよそに、私は、ヴァリアーの屋敷の方にはなかった洋服ダンスを見つけてそこにかけよった。


古い箪笥は、昔の洋館にありそうなイメージで、かなり精巧な模様が掘られている。シンメトリーのそれはとても美しかった。こういうところに仕掛け扉があったりするよね。と思いつつ、扉を開けてみると、予想に反してそこの中は空。


触ってみてもやっぱりかわらずに空。


古いドレスとかが入っていそうだなとかちょっと期待していたから肩透かしを食らった気分だった。


それにしても、大きな箪笥。きっとたけにいよりずっと背が高いだろう。もしかしたら、彼も余裕で入れるかもしれない。


そう思いつつ、とりあえずここも調べるために箪笥の中へと入ってみる。ちょっとかび臭いけれど、ほこりが積もっている様子もない。


箪笥の壁にぺたぺた触ったりしてみる。私の身長ほどの奥行きがあるここ。かなりの収容量だろう。ここに布団を敷けば余裕で寝れちゃいそうだ。


一番奥まで行ってみるとそこにはボンゴレのエンブレムが掘られていた。それは光によってきらりと光る。どうやら掘られた線が金色らしい。


それに指で触れてみると、不意に自分の指がどこかに沈んだ。穴でも開いていたのかと思って興味本位でさらに押してみるとカチッという軽い音がした。


あきらかになんらかのスイッチらしきものを押してしまったかのような音に驚いて指を引くも時すでに遅し。


ガコンッと何かが動く音とともに、錆びついたものが何年振りかに動き出そうとするかのようにぎこちなくきしみ始める。


慌ててたけ兄の方を振り向くも、気づいていないみたいだ。


そうこうしているうちに、なぜか視界が動いた。そして今まで見ていたボンゴレのエンブレムの横に隙間が生じるとともに、私が立っていた場所が回転し始める。その反動でしりもちをついてしまった。


忍者の扉を移動するときのような動き。箪笥の後ろに見えてきた先は真っ暗で、背筋が凍った。あわてて、目の前の壁を叩く。


「!!紫杏!?」


どんどん暗闇に飲み込まれるように反転していく。


たけ兄の声が聞こえたのと同時にあとわずかになっていた光の筋が完璧に途絶えてしまった。


真っ暗闇の中に一人ぽつんと取り残され、恐怖に動けなくなる。目の前にあるはずの壁をどんどんとたたいてみるも、手が痛くなるだけで何もならない。


後を振り返れば、やっぱり暗闇で何も見えない。


怖い。


リボーン、と口を動かしてみる。


声にならない言葉は胸の中に響くだけ。


それでも、幾分か心が落ち着いた。


とにかく、戻る方法を見つけないと。たけにいが心配しているだろうし、何よりこんなくらい中にずっといたくない。自分の手も見えないような状態で、ここがどんな場所かわからないから下手に動くわけにはいかないだろう。


とりあえず恐る恐る手を伸ばしてみると、さっきのボンゴレのエンブレムがあった壁に触れた。そっとなぞっていくと、少し凹んでいる線が指先に感じられる。


さっきのスイッチをもう一度押してみようと手探りで探してみるも、なかなか見つからない。だいいち、自分が今どんな場所を触っているのかすらよくわからない。


もし、このまま出られなかったら?


嫌な考えが頭をよぎり、背中を冷や汗が伝った。その考えを振り払うように首を振ってみるも、こうも真っ暗だと目を開けているのか閉じているのかすらわからなくなっていく。


自分ではどうすることもできな恐怖に、泣きそうになると、いきなりまた地面が揺れた。


そして、ゆっくりと回転していく地面。光の筋が見えてきて、反対側からたけにいの声が聞こえて安堵した。


「紫杏!って…、この先もなんかあるのか?」


ガコンという音とともに止まった壁。強い光に目をくらませながらもあたりを見回すと、そこにたけにいはいなかった。


もしかして、反対側に同じように乗っていた?


こっちに戻ってくればたけ兄がいるものだとばかり思っていたから、思わず目が点になる。


はっと我に返って、再びさっきのボタンを押すと、また動き出した。闇が見えだしたところで、たけにいの声も聞こえてくる。


「お、戻ってくな」


あ、このままいったら、堂々めぐりじゃない?と気づき、あわてて立ち上がろうとしたところで、いきなり地面の動きが止まった。


「ハハッ、2度目は勘弁な」


その言葉とともに、たけにいの顔がこっちがわにひょいと現れた。


「お、紫杏無事か?」


コクコクと何度も首を縦に振ると、安心したようにたけ兄が息をついた。


どうやら、半分まで回転したところで、たけ兄が動きを無理やり止めたらしい。


たけ兄が私の方へ移動してきたところで再び手を放した。


あれ?今私って暗闇の方に移動するところじゃなかったっけ?と思った時にはやっぱり時すでに遅く。たけ兄が手をはなしたことによって動き出す床。


そして、どんどん光が閉ざされていく。


完全にとざされたことに呆然としていると、たけ兄が私の名前を呼ぶと同時に、私の体を引き寄せた。


「まっくらで何もみえねえなー」



ひきよせられるままに、肩らしきところに手をつくと、そのまま抱き上げられたのか地面から足が離れた。私のひざ裏に回された腕はとてもがっしりしていて、腕に座っているような状態だが安定感がある。


「よっと。ちょっとがまんしろよ?何があるかわかんねえしな」


暗闇の中に声が響く。


それなりに反響しているところからみて、結構狭いのかもしれない。


「んー、あかりあかり。あ、指輪ならまだともるか?」


そういうが早いか、たけにいは顔の近くに青い焔を十もした。それは以前も見せてもらった雨のボンゴレリングにともる水色の炎だった。ゆらゆらと揺れるソレはここを照らすにはちょっと頼りないが、とても暖かい光だった。


「んー、やっぱなんもみえねえなー」


苦笑しているらしいたけにいの声。


「どうすっか。一応ツナの任務なら、ここも調べねえといけねえんだよな」


そう、お父さんからの任務は隠し部屋をすべて探し出すこと。


まあ、一日で全部探し出すのはこの状況を見ればさすがに無理そうだ。


「とりあえず、電気とかねえのかな?」


そういって歩き出すたけにい。真っ暗闇で歩くなんて怖くないのかな?と思いながら私はたけにいにしがみつく。


んー?といいながら片手でさぐっていくたけにいはしばらくして何かを発見したのか声をあげた。


「なーんか、ボタンがあるぜ?よし、押してみっか!」


あいからわずのテンションで、特に何も考えずに、それがなんのボタンかもわらかないのにそれを押したようだった。


「!!」


突然、たけにいの体が沈んだ。もちろん、私も予告なく体が沈むような感覚にあわててたけにいにしがみつく。


「くっ!」


鋭い風が通り過ぎるような音がしたと思ったら、どこからともなく金属音が響いた。


たけ兄の体は休むことなく動いていく。


私はただ振り落とされないように必死にしがみつく。


たけ兄が何か腕を動かしたかと思ったら、指輪の炎が何かに吸い込まれた。それを確認するとほぼ同時に、金属音が鳴り響く。


その余韻が響く中、たけにいは警戒を解かないまま、息をひそめるようにそこに立っていた。


「ふぅー」


やがて、もう何もないと判断したのかたけ兄が息を吐きだした瞬間、まるでそのタイミングを計ったかのように明かりがともった。


暗闇になれていた眼に突然の光。まぶしくて目をつぶるも、瞼からすけてみえる光に恐る恐る目を開けてみる。


「……弓、か?」


ようやく目が慣れてきたころ、たけ兄を見てみれば、私を抱きかかえていない右手にはいつのまにか刀が握られていた。そして、地面には真っ二つに切られた弓矢が3本。それと、後ろの壁に刺さっている弓が3本。


どうやらたけ兄が押したボタンによってこの弓矢が飛び出してきたらしい。それを察知したたけ兄がどこからか刀を取り出して第二弾を切り落としたというわけだ。


今、私たちがいる場所は、ほぼ真四角の狭い部屋だった。しかし、一つだけ木でできた壁があって、そこにはあの箪笥にあったボンゴレのエンブレムが書いてある。


「へえ、こんな部屋があんだなー」


本当にただ四角いだけの部屋には、特に何も目立ったものは見当たらなかった。あえて言うなら、突き刺さっている弓矢だろう。


「っと、紫杏。怪我ねえか?」


その言葉にうなずくと、何があるかわからなねえから、しばらくこのままなと言われた。


この部屋のことをたけにいが慎重に調べていると、突然さっきも何回かきいたガコンという音が響いた。驚いてボンゴレのエンブレムが書かれた壁の方をみやると、なぜか一人でに回転している。誰かが入ってきたのかと思ったが、誰もこっちがわにあらわれることはなかった。


違和感のなくなった壁に、完全な密室になったようだ。


「………さっきもこうやって勝手に戻ってったのな。…こりゃ、進むしか道はなさそうだな」


何もない部屋に、たけ兄の声だけがこだました。


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あきゅろす。
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