言い渡された指令

外はすっかり秋模様となっていた。緑の葉っぱがついていた木はいまじゃ茶色に変わり、屋敷の庭には、大量の枯葉が落ちている。それを集めるメイドは毎日大変そうだ。


一度焼き芋をやってみたいとひそかに思っている。


そんな庭が見下ろせる、お父さんの執務室。


大きな執務机の上にうずたかく積まれた書類に手を掛けながら、お父さんは大きな椅子に座っている。黒い回転式のソファーはふかふかで、私にとってはとても大きく、座っても足が届かない。


一番上から取った書類に目を通しながら、お父さんはようやく口を開いた。


今、執務室にいるのは、私と、もう一人。私の隣に立っているのはたけ兄だ。


たけ兄は、今日は任務がないらしく、私と遊んでくれるといっていたのだが、お父さんから急きょ呼び出された。そしてなぜか私も行くことになり今に至るのだが、先ほど発せられたお父さんの言葉に、唖然としていた。


「うん、だから、紫杏と一緒に本部内の隠し部屋を全部探し出してほしいんだ」


「ぜ、全部か?」


「そう、全部」


「今日中に?」


「そう」


たけ兄の方を一切見ることなくうなずくお父さんに、たけ兄は顔をひきつらせた。


「……本部を、だよな?」


「うん、本部を、だよ?あ、もしかして別館の方も探したいって?」


そう、本部内のものを全部、とお父さんは言ったのだ。しかも一日で。


ボンゴレ本部はもちろんどこかのお城並にでかい。それはもうでかい。はじめて入った人なら間違いなく迷い、餓死してしまうほどでかいのだ。


私だってまだいったことのない場所がある。それなのに、全部、というのだ。


「………ツナ。それさ、無謀じゃね?」


さすがのたけ兄も苦笑していた。もっと人員がいれば別だろうが、全部のフロアを周り、各部屋を調べるというのはかなり厳しいところがあると思う。


「大丈夫だよ。紫杏はヴァリアーで場所を知ってるし、だいたいつくりは同じだろうからすぐに見つかるよ。それに、見落としの一個や二個ならまだ許すから」


どうあがいても、この任務は受けなければいけないらしい。


お父さんは、さっき見ていた紙に何かサインをすると、その紙の上のほうに死ぬ気の炎をともした。死ぬ気印というらしいそれのことは、以前リボーンが教えてくれた。


さて、正直に言おう。めちゃくちゃ私はわくわくしていたりする。だって、初めての任務だよ?お父さんを手伝えるんだよ?それに、まるで冒険みたいだし。


最近、何かと暇をしていたのだ。


リボーンは任務だし、お母さんの傍にはハルさんがいる。お母さんが妊娠中だからか、警戒態勢が取られていて、外にも遊びに行けない状態。つまり缶詰なのだ。


それでいて、幹部は皆任務。お父さんは執務漬け。ひとりさびしく遊ぶにも限界があるというもの。だからこそ、今日はたけ兄と遊べると聞いてうれしかったのだ。


「まあ、休暇だし?無理にとは言わないよ。紫杏はどうする?引き受けてくれる?」


お父さんの視線はデスクに向いたまま、新しい書類に取り掛かっている。


私はすぐにうなずいた。たとえ一人だとしても、楽しいであろうことに変わりはないからだ。それに、屋敷内ならたぶん危なくないと思うし。たぶん。


「…ハア、なあこれってさ、俺断れなくねえか?」


「俺は命令してるわけじゃないよ?」


今読んでいた紙は、そのままゴミ箱いきとなっていた。


たけ兄はもう一度溜息をつくと、まあいっか。と持ち前の明るさで開き直った。


「ありがとう。助かるよ」


「よしっ!紫杏!今から、探検家ごっこしようぜ!」


私は、了解と伝わるように敬礼してみせた。


「んじゃ、俺たちは行くな」


「行ってらっしゃい」


そういいながらも、器用に書類を手に取りながら手を振っている。うん、忙しそうだ。


日本に帰っていたから、溜まっている仕事がたくさんあるらしい。もちろん日本でも仕事はしていたけど、やっぱり持ち込めるものにも限度があるから、日に日にたまっていく一方だったとリボーンが悪態をついていた。


「じゃあ、まずは下から攻めてくか!」


[たけにいが、たいちょう?]


「お、いいな!それ!じゃあ、紫杏が副隊長か?」


[たいちょう!がんばります!]


「おう!」


私たち二人は、とりあえず一階から攻めていくことにして、たけ兄と手をつないで玄関へと向かった。







そのころ、紫杏と武に任務をいいつけた綱吉は、山積みの書類を見て溜息をついた。これじゃあ麻衣にも会いに行けない、と拗ねたくなる気持ちを抑えつつ、武の笑い声が遠ざかっていくのを聞く。


二人に任務としていいつけたのは、もちろん屋敷内を把握するためというのも本当だが、それ以上に最近は紫杏に誰もかまってやれない状態なため、おもしろいことをさせてあげようと思ってのことだった。


もとから全部探し出せるはずがないと思っているため、後者の理由のほうが大きい。武もそれに気づいていたようだし、無理はさせないだろうと結論づける。


「…あ」


ふと、何かを思い出したように声を上げた綱吉。サインを書こうとしていたペンが止まった。その顔には、やばい、という言葉がありありと浮かんでいる。


「…罠もあるから気を付けてっていうの忘れてた」


血の気が引くが、それも一瞬のこと。すぐに紫杏と一緒に行ったあの天然で生粋の殺し屋な彼のことを思い浮かべ、大丈夫かと一人納得する。


「ま、山本が何とかしてくれるでよね」


この屋敷には、侵入者用の罠が多数仕掛けてある。もちろん、屋敷内の人間は、普段通るところならちゃんと把握しているため引っかかることなどない。


とりあえず紫杏は死守してくれるはずだ。と若干ひどいことを思い浮かべながら、再びペンをうごかすのだった。


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あきゅろす。
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