マーモンのところに帰ると、そこにはやっぱりベルとフランがいた。それもたくらみを聞いたのか、にやにやとした笑みを浮かべている。 「ししし、かわいくなったじゃん」 「そうですねー。後のオカマが邪魔ですけど」 「んもう、素直に褒めてくれてもいいじゃないの」 「紫杏、こっちにおいで。最後の仕上げだ」 マーモンに呼ばれ、彼の傍によると、その手には赤いリボンが持たれていた。 マーモンは、それを私の首に巻きつけ、苦しくない程度に結ぶと鏡を見せてくれる。 首に巻かれた赤いリボンはとてもかわいかった。 『ゴ主人様、オ帰リナサイマセ』 どこからともなく女性の奇怪的な言葉が発せられて、あたりを見回す。周りにいたマーモン以外のみんなも固まって私の方を見ていた。 『ゴ主人様、今日モカッコイイデスネ!』 再び流れてくるその声に、びくっと肩をはねさせる。女性の声は、どこか嬉々としてはずんでいるようだった。 それにしても、どこから流れてくるんだろう?かなり近くから聞こえるんだけど。 そう思ってあたりをきょろきょろしていると、マーモンが説明してくれた。 「これは、ある奴が作ったリボンで、小型のスピーカーとマイクロコンピューターが仕込まれているんだ」 『ゴ主人様。ワタシ、欲シイモノガアルノ…』 「にしても、片言ですねー」 「それはしょうがないよ。これはお遊び程度でつくったものらしいからね。もちろん、ただで奪ってきたさ」 「いや、そんなこと聞いてないですよー。さすが守銭奴」 「侮辱罪で慰謝料を請求するよ?」 「勘弁してくださいよー。先輩が後輩にたかるなんて前代未聞ですー」 『ソンナ!ゴ主人様ハ忙シイカラ、私ガ買ッテキマス』 「つーか、このこんなセリフいつ使うんだよ」 『オ金ダケ…、ダメ?』 「確かに紫杏の方から音が出てるのに、口が動いてないから不思議よねえ」 『日本円デ一億』 「うっわー、いきなりかなりの金額要求してきましたよー?」 『ヤッパリ…、無理デスヨネ…』 「ししし、これ、レヴィなら簡単に引っかかるんじゃね?」 『ゴ主人様…』 「あー…、でも、紫杏が無表情じゃ意味ないんじゃないですかー?」 「だからこそ、今から動作の練習をするんだよ。表情はいつものことだから問題ないさ。第一、仮面をつけてる時点で表情も何もないからね」 『ジャア、30分以内ニコノ、口座ニ振リ込ンデ!』 『振リ込ンデクレタゴ主人様ニハ、ゴ褒美ヲア・ゲ・ル』 その言葉が最後だったのか、リボンはカチッという小さな音を立てて、それ以上話さなくなった。 「じゃあ、紫杏。今から動作を覚えてね。これが最後の仕事だよ」 コクンとうなずけば、さっそく音声に合わせた動作を決め始めた。フランやベルが茶々を入れてくる中、なんとかできあがったそれに、珍しくマーモンの口元には笑みが浮かんでいて、レヴィのもとへと送り出された。 レヴィの部屋についていた鍵は、フランが開けてくれた。中に入り、ベッドの上に座って任務に行っているレヴィの帰りを待つ。 ガチャ、という鍵の開く音がして、扉が開かれた。ミッション開始だ! 『ゴ主人様、オ帰リナサイマセ』 ベッドから立ち上がり、レヴィのもとに駆け寄る。私の恰好を見て、固まってしまったレヴィに首をかしげながら、彼の手を引いて中へと招きいれた。 『ゴ主人様、今日モカッコイイデスネ!』 その言葉に、レヴィの頬に赤が走る。 「なっ!紫杏!?こ、これは…、よ、妖艶だ…」 まじまじと見られ思わず一歩後ずさりそうになるが、なんとか耐えて、小首をかしげて彼を見上げる。 『ゴ主人様。ワタシ、欲シイモノガアルノ…』 「よし!俺がかって来よう!」 『ソンナ!ゴ主人様ハ忙シイカラ、私ガ買ッテキマス』 「だが、しかし…」 『オ金ダケ…、ダメ?』 レヴィの服の裾をつまみながら、彼を見上げ、もう一度首を傾げてみる。ついでに、ネコ耳は垂らし、尻尾もうなだれさせる。 「だ、ダメじゃない!い、いくらでも出そう!」 『日本円デ一億』 「う…っ」 お金を請求した途端、顔を固まらせるレヴィ。それを見て、そっとつかんでいた服の裾を離し、一歩後ずさって見せる。 「な、何にそんな高いものを買うのだ!?それを、聞いたら俺は…」 『ヤッパリ…、無理デスヨネ…』 レヴィが話している途中で、遮るように流れる言葉。それに再度レヴィは言葉を詰まらせる。 『ゴ主人様…』 最後の仕上げとばかりに、彼の手を取り、まっすぐに見上げる。 「い、いや!今用意してくるから待て!俺なら払える!」 『ジャア、30分以内ニコノ、口座ニ振リ込ンデ!』 もとから持たされていた紙をレヴィに渡す。そこには振込先が書かれている。それを受け取ったレヴィは、また悩むように視線をさまよわせた。 それを見計らっていたかのように、ちょっと顰められた声が言葉を発する。 『振リ込ンデクレタゴ主人様ニハ、ゴ褒美ヲア・ゲ・ル』 その言葉が効いたのか、レヴィは勢いよく自分の顔をたたいた。いや、たたいたんじゃない。口と鼻を覆い隠すように添えた手の隙間から、赤い血がぽたぽたと落ちていた。 「す、すぐに行くぞ!」 その言葉を最後に、まるで忍者のように消えたレヴィ。床には、レヴィの垂らした鼻血の跡が残されていた。 「ししし、あいつ本当に救いようのない変態だな」 「本当ですよねー。一回頭診てもらえばいいと思いますー」 そんなことを言いながら、私は再びベルに抱えられ、マーモンのもとへと向かうのだった。 それから数日後、念願だったケーキを前に浮かれ気分な私と、お金を吸い取られてげっそりしてしまってるレヴィの姿があったとかなかったとか…。 (なあ、マーモン) (なんだい?ベル) (あの時とってた紫杏の写真、誰に売ったんだよ) (売ったことはもう決定なのかい?冤罪で訴えるよ?) (ししし、お前が売らないわけないだろ) (まあ、しっかり稼がせてもらったさ。ボスからね) (………マジで?) |