その来訪者は突然やってきた。 「邪魔するぞ」 突然開かれた談話室の扉。そして、懐かしい声。 談話室にいた私を含めた5人の視線がいっせいに声のほうに向いた。 入り口に立っていたのは、黒をまとった大好きな彼。気づいた時には走り出していた。 彼は私が抱き着きやすいように地面に膝をついてくれる。そして、私は勢いよく地面をけって彼に飛びついた。 とたん、感じるぬくもりと、鼻孔をくすぐるこれまた懐かしい香水と珈琲の匂いに胸の中が暖かくなる。 「紫杏。久しぶりだな」 しっかり、抱きしめ返してくれる彼、もといリボーンの低い声が耳をくすぐった。リボーンの手がゆっくりと私の頭を撫でる。 メールでのやりとりは、結構頻繁に、というより毎日やっていた。律儀に、任務でいった土地のきれいな景色とかを写真で送ってくれたりする。それを絵にするのもまた、日々の日課の一つだ。 「……不法侵入もいいところだね、リボーン」 「よう、久しぶりじゃねえか。バイパー」 リボーンは立ち上がると同時に私の体も持ち上げ、抱っこしてくれる。高くなった視界で、声のした方を見れば、マーモンが口をへの字に曲げてリボーンを睨んでいるようだった。 というか、バイパーって誰? 「その名前で呼ばないでくれる」 「つーか、いったい今更何しに来たわけ?」 「う゛お゛おぉい!ボスはてめえが来ることしってるんだろうなあ!?」 「いいじゃない。感動の再会なんて泣けるわ〜!」 ハンカチでサングラスの下の目元をぬぐうふりをするルッスに向かって、ベルはいらだたしげにナイフを投げていた。 「紫杏に会いに来るついでに、お前たちに任務を持ってきてやったんだぞ」 「報酬ははずむんだろうね」 「ししし、任務がついでかよ」 「当り前だぞ」 「う゛お゛おぉい…。黒の死神ともあろうものがずいぶん溺愛してるじゃねえかあ」 「フッ、人のこと言えねえぞ。スクアーロ。紫杏からいろいろ聞いてるしな」 にやり、とニヒルな笑みを浮かべるリボーンの言葉に、4人の視線がいっせいに私の方を向いた。 え、なに?と首をかしげると、思いっきり溜息をつかれた。スクとかは、何をいいやがったんだあ、とか頭を抱えてぶつぶつと呟いている。 ついでに、スクに関して話したのは、結構世話焼きだってこととか、このまえしたうさぎさん結びのこととかだ。ついでに、ベルがおもしろがってその写真を添付してメールを送った。 「まあ、任務の話はあとだ。しばらく紫杏を借りるぞ」 「何、紫杏本部に戻すのかよ」 「………いや、まだツナたちは日本だぞ」 「ししし、綱吉に伝えとけよ。腑抜けてっと全部零れ落ちるぜ?そのちっせー手から」 ベルは、椅子の前足を浮かせてぐらぐらさせながらリボーンの方は一切見ずに言い放った。自分の手を前にだし、上に向けた掌をそっと傾けさせる。まるでその上に載っている粉か何かが落ちていくのが見えた気がした。その言葉を最後まで聞き終わるや否や、リボーンは私を抱えたまま談話室をあとにした。 無言であるくリボーンを見上げる。 疲れているのか、少しだけ目の下に隈ができていた。そのあとに指を伸ばし触れると、リボーンは目を瞬かせる。 「?どうした?」 [くま] 「…ああ、最近まともに寝てなかったからな」 [おしごと、いそがしい?] 「こんなのしょっちゅうだぞ」 口角を上げたリボーンは、私と額を合わせた。息もかかる距離になったリボーンの顔をまじまじと見つめる。黒曜石のような瞳が私をまっすぐに見ていた。でも、その眼はとても優しくて、安心感に包まれる。 「紫杏が元気そうで安心したぞ」 かかる息のくすぐったさに身をよじらせれば、リボーンは喉の奥で笑う。 帽子の上のレオンまで、私に顔を近づけたかと思ったら、頬をなめられた。 部屋につくと、二人でベッドの上に座った。 [いきなりでびっくりした] 「驚かせるのが目的だからな」 してやったりという顔をするリボーンは、本当にあまり変わっていなくて安心した。取り残されるような気がするのだ。このまま忘れ去られてしまうのかもしれないと思うと怖くて仕方なかった。 「紫杏、顔、見せてくれないか?」 そういわれて、そういえばずっとお面をつけていたことを思い出した。お面をつける行為にもずいぶん慣れてしまって、今では違和感を感じない。ザンザスさんと二人っきりの時とか、寝るときは外してるんだけどね。 そっと、お面をとりはずし、開けた視界の中にリボーンを収めると、彼は微笑みを浮かべた。 「久しぶりに、紫杏の顔が見れたな」 そういって、リボーンの大きな手が私の頬を包み込んだ。その暖かさにすり寄るようにして、目を閉じる。 リボーンは、私をだきあげ、自身の膝の上に横向きに座らせると、私の髪をいじりだした。 「ここの生活はどうだ?」 [みんなやさしい] 「ザンザスもか」 頷くと、あのザンザスが、と呟いていた。だから、この前ベスターを残して行ってくれたことを話すと、さらに驚かれた。 「ずいぶん気に入られてるな」 長い沈黙から紡ぎだされたことばは、どこか信じられないというような響きがあった。 でも、本当にみんなによくしてもらっている。というか、子ども扱いされるのに慣れてきたから、忘れそうになるんだけど、ヴァリアーのみんなは私が17歳だったって知ってるんだよね。 目の前のリボーンを見つめる。 もし、リボーンがこのことを知ったらどうするんだろう?私のことを嫌うかな。もう、今のようには接してもらえなくなるかもしれない。 「紫杏?」 [いつまでいられるの?] 「ああ、今日は泊まってく。久しぶりに一緒に寝るぞ」 ああ、もう決定事項なんだ。と思いながらも、うれしいからうなずいた。 あれ、でもザンザスさんがよく許したよね。 「ああ、ザンザスには今から伝えにいく」 今、思い出したとでもいうような様子で言ったリボーンの言葉に、固まった。ザンザスさんが静かに怒る姿が目に浮かび、その八つ当たりがスクに行くのを想像して今のうちに心の中で手を合わせておいた。 「ざけんじゃねえ」 呟かれた一言は、とても低く、威圧感たっぷりで、私に向けられた言葉じゃないとわかっていても、身震いした。それを感じ取ったリボーンが、私の背をゆっくり撫でるが、もともとの元凶はこのリボーンなのだ。 さっき予想した通り、目の前のザンザスさんはお怒り中。持っていたグラスは、すでに壊れて床を赤く染め上げている。 「誰がそんなこと許可した」 「俺が決めたことだぞ」 「知るか」 「もう決定したことだ」 「ざけんな」 「大丈夫だ。部屋は紫杏の部屋でいい」 「虫唾が走る。出てけ」 「それは無理だ。もう俺が決めたんだぞ」 「………」 「………」 「………」 「………」 「…チッ」 繰り返される問答に終止符を打ったのは、たぶんめんどくさくなってしまったのであろうザンザスさんの舌打ちだった。 そのあと、ヴァリアーのいつものメンツと、リボーンというなんとも奇妙な晩餐会が開かれたのは言うまでもない。 (じゃあ、紫杏。また来るからな) (もう来なくていいよ。来るなら入場料払ってって) (こいつらに何かされたら言えよ?俺がハチの巣にしてやるから) (ししし、それ王子のセリフだし) (っていうかー、この人本当に何しに来たんですかー) (う゛お゛おぉい!任務の話はどうしたあ!) (じゃあ、風邪ひくなよ?ちゃんと寝る前には歯磨きするんだぞ。それと…) (まあ〜過保護ねえ) ([けが、しないでね]) (…ああ。じゃあ、またな) (なんか、一気に疲れましたー) (同感) |