お守役は君に決めたっ!

朝、起きるとザンザスさんはもう起き上がりワイシャツに袖を通しているところだった。


昨日、眠れないと思っていたのに、すぐに眠れたおかげで頭はすっきりしている。それにしても、ザンザスさんもよく私の我儘とか聞いてくれるよね。意外と、面倒見がいいのかな?


「起きたか」


書くものを周りに探すが、見つからず、とりあえず頭を下げた。


そういえば、昨日の夜、ベルが今日はみんな任務だって言ってたっけ。気をつけろって言われたけど、どう気を付ければいいのかわからないよね。


「今日は幹部全員任務だ。おとなしくしてろ」


淡々と言葉を吐き捨てる間も、ザンザスさんが着替えを済ませていく。


私はザンザスさんの洋服をくいっと引っ張った。


下を見下ろすザンザスさんと瞳がかち合う。彼の眉にしわがよった。


「…なんのつもりだ」


もう一度くいっとザンザスさんの服を引っ張る。しばらく見つめあうこと数秒、ザンザスさんは舌打ちをした。どうやら伝わったらしい。


「……ベスターを置いていく」


おおっ、ベスター!


どうやら、私の思いは正確に伝わっていたらしい。さすがザンザスさんだ。


以前お留守番した時のことを思い出したのと、昨日の夜見たはずの夢が原因で今は一人になりたくなかった。


こくこくと何度もうなずくと、もう一度忌々しげに舌打ちをして、匣からベスターを出してくれた。


ごろごろと喉を鳴らすベスターに抱き着けば、ふわふわの毛並が頬をくすぐる。


「ベスター」


ザンザスさんの声にベスターが返事をすれば、彼は颯爽と部屋を出て行ってしまった。


今更になって任務に支障はないのだろうか、と思ったけど、まあおいて行ってくれたんだし大丈夫だということだろう。第一、ザンザスさんがそう簡単に死んでしまうようには見えない。


なにはともあれ、一人ですごさなくてよくなるのだから私はうれしかった。


みんなが、任務に赴いた後、私たちは庭にいた。


庭の日向でベスターが寝そべっている。その背中を私がブラッシングがけしている。


まるっきり犬の世話のようになっているが、ベスターが気持ちよさそうに寝息を立てているからよしとする。


たまに揺れる尻尾が面白い。


毛が生え変わる時期なのか、ブラシをかければ結構な量の毛が抜けた。禿るんじゃないかと心配したものの、ベスターの毛並は相変わらずつやつやふわふわだった。


ぽかぽかの日差しをうけて、暖かくなっている体に覆いかぶさるようによしかかる。ベスターのおなかがゆっくりと膨れ、ゆっくりしぼんでいった。暖かいそれを堪能していると、ベスターが、ビクッと体を揺らした。


何か夢でも見ているんだろうか、とベスターの顔を覗き込もうと体を起き上がらせたとたん、ベスターも一緒に起き上がった。その勢いに驚いてしりもちをつく。


目の前ではベスターが4本足で立った状態だ。いきなりどうしたというのか。あたりを見回しても何もわからなかった。


しばらくベスターを眺めていると、ベスターは私の方を向いて、ペロっと頬をなめた。そのくすぐったさに身をよじらせる。


しかし、どこまでも追いかけてくる舌に、ベスターの顔を押しやると、ようやく離れた。


なんだか、ライオンの子供になったような気分だ。


べとべとになった頬をこすりつつ、再びベスターをみやると、屋敷の一角をじっと見つめ、うなり声をあげている。何かが近くにいるのかもしれない。


怖くなって、立ち上がってベスターの傍による。


四つ足で、私と同じくらいの高さのベスター。その背中にそっと手を添える。


まるで、守るように私の前に立つベスター。その巨体でそこに何がいるのかはまったく見えなかった。


でも、イタリア語が聞こえてきたから、たぶん屋敷の人とかじゃないだろうか。それでも警戒をやめないベスターは、しばらくすると私の方に向き直ったかと思うと体制をわずかに低くした。


どうやら乗れというらしい。


私はベスターの背中に手をついて、頑張ってよじ登った。最後はベスターが揺れた振動で背中に収まった。


いつもより高い視界に感動していると、屋敷の方にヴァリアーの隊服をきた男3人がこちらをじっと見ていた。


さっきからベスターが威嚇していたのはあの3人なのか、と納得しているうちに、突然ベスターが動き始めた。


のっそのっそとゆっくり私が落ちないように歩いてくれるベスターはそのまま出てきたテラスから屋敷の中に入ると、ザンザスさんの部屋に向かって歩き出す。


どうやら、日向ぼっこはもう終わりらしい。


外に出ても、熱いというわけではなくなった最近。季節は夏から移り変わり始めているようだった。


ヴァリアーに来てから、それなりに時間がたっていることに驚きつつ、ボンゴレのみんなを思い出して少しさびしくなる。


ベスターの背中に顔をうずめるようにすると、ベスターがゴロゴロと喉を鳴らした。


ザンザスさんの部屋についたらしく、ソファーの横で下された。


そのあとは、部屋の外に出ようとするも、ベスターに阻止され、あきらめて窓際で寝そべるベスターを描くことに決めた。


そうこうしている間に、私は寝てしまい、そんな私を守るように寄り添っているベスターをザンザスさんが見るのはそれから数時間後のこと。


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