萌な悪戯で金儲け大作戦Part1

「紫杏、これあげるよ」


そういって渡されたのは、大きな飴玉。


このとき、私は失念していたのだ。


ほら、よく知らない人には物をもらっちゃダメっていうでしょう?


それと同じで、マーモンから物をもらう時は気をつけろってあれだけスクから言われていたのに…。


守銭奴のマーモンが、人にものを上げるなんて行動するわけないのに。


私は失念していたのだ。








音を聞き取るたびにぴくぴくと動く耳。歩くたびに揺れる尻尾。


そっとその両方を手で触ってみれば、確かに感触がある。そう、触っているという感触とともに、触られているという感触が。


「!!!???」


「うん。成功だね」


マーモンにしては珍しいほどの嬉々とした声でそう言われて、思わず涙目になってマーモンを見上げた。


現状を説明しましょう。


マーモンから飴をもらい、なんの疑いもなくそれをなめた私。そして、それをじっと観察するマーモン。いったいなんなんだろう?と首をかしげながらも、オレンジの味がする飴をなめ続ける。


そして、その飴は飴にしてはとても速いスピードで無くなった瞬間。なぜかお尻と耳がむずむずしだした。


そして、耳は先がとがり、毛が生えてふさふさのふわふわに。むずむずしていたお尻は、スカートの下からぴょっこりと生えた尻尾がのぞいていた。


いつもより、音や気配が敏感に伝わってくる感覚におどおどしながら、その両方を触ってみていると、マーモンに成功だといわれて冒頭にもどる。


どういうこと?と見上げると、マーモンはまるで大丈夫とでもいうように私の頭を撫でた。


「ちょっと、僕の金稼ぎに付き合ってね」


金稼ぎって…。私にいったいなにさせるつもりですか!?というか、拒否権なし!?


「イタリアで一番有名なケーキ屋さんでケーキかってあげるから」


[わかった!]


甘いモノには目がありません。


それにイタリアで一番人気といえば、テレビでもよくやっている、最近できたなんとかっているコンテストに優勝した人が出したお店だ。画面に映っているのをみるだけでも、その甘い香りが伝わりそうなほどおいしそうで、釘付けになったものだ。


イタリア語の勉強のためにテレビを見るようになったんだけど、こんなときにその話題がでることになろうとは。


[ぜったいだよ?やくそくだよ?]


「僕は、金が絡んだ約束なら守るよ。まあ、紫杏がしっかりやってくれればね」


不敵に微笑むマーモンに、ちょっと顔がひきつりそうになったけど、これもケーキのためだ!


ということで、引き受けた私にはきっちり演技指導をされ、すでにいうことが書き込まれたボードと段ボールを渡される。


「じゃあ、紫杏。がっぽり稼いで…じゃなかった。貢いでもらっておいで」


いや、それ言い直す意味ないと思います。


そして、私はマーモンに首にリボンをかわいく巻いてもらい、いざ出陣。


向かう先は、玄関です。


玄関のドアから少し離れた壁際に箱型の底の浅い段ボールを置き、その中に座る。そして、段ボールの前にマーモンから渡されたボードを置き、準備完了。尻尾がゆらゆらゆれるのを視界に収めながら、お目当ての人物が来るのをただひたすら待った。


そして、だんだん退屈になり始めたとき、その人物は帰ってきた。


「なっ!か………、可憐だ」


そう、今回マーモンにターゲットにされたのは、やっぱりレヴィ。若干頬を染めて、目を輝かせている40近くのおっさんを前に思わず顔をゆがめそうになるが、そこはケーキのためだと抑えた。


そして、私は、耳を若干垂れさせて、尻尾を揺らしながら、レヴィに上目づかいをする。


そして、段ボールの前に置いてあるボードを少しだけ指さして、控えめに両手を差し出した。


ついでにボードには、


[みなしごです。あなたの親切心だけのお金をめぐんでください]


親切心ってのがみそだよね。少なすぎたら、親切じゃないとけなされてしまうから、必然的にそれなりな額を出さなきゃいけなくなる。という心理的作戦らしい。


レヴィがそのボードを読み上げるのを待ってから。ちょっと首をかしげて、両手をおわんのようにしてレヴィにおずおずと差し出した。


この動作も、全部マーモンに教わったことだったりする。


「い、いやっ、し、しかし!俺は今は金はもっていない!」


焦りながらも目を明後日の方向にそらすレヴィ。それを見て、私は差し出していた手をそっとおろし、悲しい影を背負ってうつむいた。


「な、お、落ち込むなっ!」


焦ったように私の前にしゃがみおろおろとしているレヴィ。次に私がした行動は、そんなレヴィの服をちょんとつまんで彼をじっと見上げることだった。


「なっ……っ!!」


いっきに顔を赤く染めるレヴィと見つめあうこと数秒。


レヴィはしばしまっていろ!と大声を出してどたどたとどこかへかけて行ってしまった。やっぱり失敗だろうか?ケーキはお預け?それは嫌だなあ…。


そんな風に思っていると、誰かが再び玄関の扉を開いた。


「つーか、お前がさっさと匣開口してれば、もっと早く終わったっつーの」


「だからー、ミーは匣を開口するにはポーズが必要なんですってばー」


「まじでお前死ね」


「いやだなー…、センパ…」


「なんだ……よ…」


二人は、私に気付いたのか、言い合いをしていた言葉を止めてじっと見つめてきた。


そして、口を開くことなく私の前に来ると、ボードを見て私を見て、ついでに私の耳と尻尾を順番に見て行った。


「……紫杏?」


このさい、ベルとかでもいいかな、って思って、レヴィにやったようにボードを指さし、手をおわん型にして差し出してみた。


「…つーか、何やってんだ?しかも、その耳、本物?ししし」


「んー、幻覚ってわけじゃなさそうですねー。あ、触っていいですかー?」


って私が答えを返す前に二人は手を伸ばしてきた。ベルは私の獣耳を。フランはゆらゆら揺れている尻尾に手を伸ばす。


「ししし、やっわらけー。しかも、めっちゃぴくぴく動いてっし」


「これ、絶対にマーモン先輩でしょー。いやー、あの人のやることって意味わかんないですねー。つーか、無駄」


「ししし、これってあれだろ?レヴィ相手の金稼ぎだろ」


「あー、なるほどー。納得」


「ししし、で?レヴィにはもうあったのかよ」


私はうなずいて、レヴィが走って行ったほうを指さした。


「金は落としていった?」


それには首を横にふってうなだれる。せっかく、あのパティシエのケーキが食べられると思ったのにな。レヴィのばかー。


「あーあ、あの変態親父何やってんですかねー。紫杏明らかに落ち込んじゃってるじゃないですかー」


「つーか、普段無表情なだけに、尻尾とか耳とかで感情がわかりやすいな」


ベルいわく、耳がうなだれているらしい。尻尾も嬉しそうだとピンと立ち、悲しそうだと下の方でゆらゆら揺れているんだとか。そんな感じで話していると、再びばたばたと走ってくる音。3人で顔を見合わせて、その音の根源の方を見てみると、何やら重厚そうな銀色のケースを抱えたレヴィが走ってきていた。


「も、持ってきたぞ!」


といって、差し出されたケースの中を開くと、びっしりとお金が。


「こ、これでどうだ!」


うわー。本当にもってきちゃった。しかも、なんかよくサスペンスドラマでやっている身代金要求のときの金を入れるようなケースにいれて。


というより、なんでこんなにお金持ってるんだろうこの人。マフィアって高給取りなのかな。


私は、そのお金に気をとられていたのをなんとか意識を呼び戻し、レヴィのほうを見る。そして、彼の手を両手で握りしめ、ぶんぶん振った。ついでに、尻尾も振って耳もピンと上にあげる。


「かかかか、可憐だ…。このまま、持って帰って…」


「はい、そこまでー。ししし、誰がお前なんかに持って帰らせるかよ変態」


レヴィの手が伸びてきたかと思ったら、いきなりベルに抱き上げられた。


そして、フランはボードと段ボール、それと金の入ったケースを持つと、じゃあ、変態は置いといていきましょー。といって歩き出した。


「ししし、にしても、本当に結構な額持ってきたな」


「でも、ミーたちの手当からいったら、これでもまだはした金ですよねー。だって、たぶんBランク2回分ぐらいしかないですよー?」


「あいつ、ケチりやがったな…。ししし、マーモンの反応が楽しみだな」


「とばっちりくらわなきゃいいですけどねー」


フランが遠い目してあさっての方向を見る中、私を抱えているベルはとても楽しそうに笑って私の頭を撫でた。


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