銀色のうさぎさん…?

室内に、新聞紙をめくる音だけが響く。


私の手の中ではさらさらと髪が流れていき、それをどんな形にしようか考えていた。


今、私の前におとなしく座り、その長くきれいな銀とも白ともとれる髪を好きにさせてくれているのはスクだ。イタリア語で書かれた新聞を読みながら、頭を動かさないようにしてくれている。


スクの髪はストレートな白銀の髪だから、以前からずっと触ってみたいと思っていたのだ。やっぱり、これだけ長い髪って女の子ならちょっと憧れるんだよね。


そして、今日それを思い切って言ってみると、かなり変な顔をされたけどあっさりと好きにしろと言われたから、今好きにしている。


どうしようか。手始めにポニーテール?でも、それじゃあ普通すぎてつまらない。お団子にでもしてみようか。


うーん。


片手をあごに当ててそれらしいポーズをしながら、スクのきれいな髪を眺める。


その間もスクは、ペラリと一枚ページをめくった。


よし。うさぎさん結びにしよう。


どうせすぐに外すんだし、私が見るだけなら怒られないだろう。ということで。


さっそく結び始めてみることにした。


さらさらと流れる髪に一応櫛を通していく。


といってもほとんど必要なく、どうやって手入れいているのか本当に気になる。


スクの長い髪を前髪をよけてから後ろで二つに分ける。


大体同じくらいの量にしてから一つを頭の上の方でまとめ上げる。そして、持っていたゴムを使って止めてみる。


ついでに言うと、ゴムとかその他もろもろはルッスに借りた。かわいいシュシュとかも持っていて、女の子のようだった。これを言ったら、怒られるんだろうけど。


片方をきれいにまとめ上げてから、もう片方も始める。


スクはいつの間にか新聞を読み終わり、次は本を読み始めていた。しかも、かなり集中しているのか、微動だにせず文字を読み進めていく。


本のタイトルを見ると、かなりおどろおどろしい表紙に、イタリア語で『ヴェネチアの剣士』と書かれていた。少しだけ内容を覗き込んでみると、どうやらヴェネチアに住む少年が剣士に成り上がるまでを描いた本らしい。


私が1ページ読み終える前に、スクはページをめくってしまったから本から目を離した。


再びスクの髪に意識を向けて、もう片方も結っていく。


最後に両方にかわいいシュシュをつけてできあがりだ。


耳の上、斜め45度くらいから垂れ下がった銀の髪はうまくまとまったようだ。


せっかくだから前から見てみようと思って、乗っていたソファーから降りてスクの前に回り込む。


「あ?」


そこでようやくスクが顔をあげて私を見た。


うん。顔がいかついだけに、結構ミスマッチ。


後ろから頭だけを見たら女の子にも見えなくもないのに、前からみると顔がきりっとしているせいで、女装をして失敗した人にしか見えない。


これは失敗だ。


この髪型はだめだった。


とうなだれると、スクはわけがわからなかったようで首をかしげた。


私はもう一度やり直そうとソファーに上ろうとしたところで、スクの部屋の扉がノックもなしに開かれた。



「スクアーロ、紫杏しらねー…って…」


入ってきたのはベルとフランだった。


しかも、部屋の中のスクに目を止めるとその動きを止めた。


「あ?紫杏ならここにいるぜえ」


スクが振り返ってベルたちのほうに顔を向けながらそう言葉を発した途端、ベルはおなかを抱えて笑い出してしまった。


「しししっ!先輩、その髪型どうしたんだよ!イメチェンかよ。王子びっくりなんだけど」


「にしても、気持ち悪すぎますよねー。まるで女装に失敗したみたいですよー。これならオカマ先輩の方がずっとましですねー」


やっぱりフランもそう思ったみたい。


ベルはなおもスクを見て爆笑している。


でも当人はなんで自分を指さしベルが爆笑してるのかわからないらしく、眉間のしわを深くしてベルをにらんでいる。


「あれ、紫杏がやったんですかー?」


フランがづかづかとこっちに近寄ってきて私を抱き上げた。フランの問いにうなずくとベルがひーひーいいながらお前天才といって褒めてくれた。


「おい、てめえらあ!さっきから意味不明だぞお!特にベル!お前いつまで笑ってやがんだあ!」


いつもの調子で怒鳴るスクだけど、今は二つ結びなので迫力が半減する。そして、さらにベルはおなかを抱えて笑う羽目に。


それを見て、フランは溜息を一つつくとどこからともなく鏡を取り出した。


「アホで鈍感なロン毛隊長。とりあえずこれみてくださーい。紫杏の集大成ですよー」


スクに鏡を見せると、スクは見る見るうちに顔を真っ赤にさせていった。そして、勢いよく鏡を床にたたきつける。


パリーンとわれる鏡に思わずビクッと肩を震わせると、フランが私を抱えなおしてくれた。


「いいじゃないですかー。子供のお遊びですよー。なかなか似合ってますよー。モテるんじゃないですかー?その筋の人に」


「適当いってんじゃねえぞお!しかも、子供って中身はお前17歳だろうがあ!てめえら、覚悟しやがれえっ!」


その言葉と同時に髪をほどいてしまうと刀を手に襲い掛かってきた。それを見て一目散に逃げるベルと、私を抱えているフラン。


「しししっ!まじ紫杏最高!これで、マーモンに金返せるな!」


「先輩もあくどいですよねー。ロン毛隊長を売るつもりですかー」


「そういうてめえも、ちゃっかり写真撮ってただろ」


え、いつの間に?


「当り前じゃないですかー。あんないい脅しのネタ」


「あくどいのはどっちだっつーの」


とか言い合いながら逃げているとスクが後ろから般若のごとく顔を怒りにゆがませて走ってきた。


「てめえらあ〜〜っ!今日こそは、3枚に卸してやる!」


「しししっ、誰が捕まるかよ!」


「まあ、あとはベル先輩が頑張ってくださいね。ミーたちはトンずらするんで」


「は!?てめっ!逃げんな!糞ガエル!」


ベルが焦ったような声を出したと同時に私の体は浮き上がり、一気にまぶしい光が目を刺激した。フランに必死にしがみつけば、トンという軽い衝撃が走るだけだった。


「ふー、なんとか逃げ切りましたねー。ドンマイ、先輩」


うん。もう、好奇心に任せて変なことをするのはやめよう。そう誓った一日でした。後日、ちゃんとスクには謝りました。


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あきゅろす。
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