男の似顔絵を描いた後、やっとベルたちは動き出して私は談話室に向かった。私は、フランに抱えられて。 抱えられているときに、いまだにフランの頭に刺さっているベルのナイフを抜き取ってみた。とても不思議な形をしていて、普通のナイフじゃない。空気抵抗が少なくなるようにできていたりするんだろうかと思った。 でも、ナイフをとったはいいけどどうすればいいかわからなくて迷っていると、それをフランに盗られた。どうするのかと思っていると、無言のままそのナイフをポキリと折った。そして、後ろ手に捨てる。しかし次の瞬間、捨てんなっ!というベルの声とともに、フランの後頭部にナイフが3本突き刺さった。 うん、もうほっとこう。そう思って、私はフランの肩に頭を預けた。 「う゛お゛おぉい!見つかったかあ!」 談話室に入るとともに出迎えられたのはお決まりのスクの大きな声だった。 「まあ〜っ!心配したのよ〜!生きててよかったわ!」 体をくねんくねんさせながら言ったのはルッスだ。ついでに、あの時のメールもルッスだった。今から帰るからまっててねというメールで。語尾にハートがついていた。 まるで、カップルのメールのようだと思ってしまったけど、まあルッスだし、と片づける。 「おい」 わあわあとみんながそれぞれ好き勝手に話していると、ザンザスさんが低く呟いた。私はフランからおろしてもらい、スケッチブックを持ってザンザスさんのもとに行く。 ザンザスさんの傍に行けば、赤い瞳が私を見る。私は急いでスケッチブックのさっきのページを開いて絵を見せた。それから、もともと書いてあった文字も見せる。 [criminale] 犯人とイタリア語で書いて見せれば、ザンザスさんの眉間にわずかにしわが寄った。そして私の絵をじっと見た後、ぼそっと呟いた。 「ティグリーノファミリーか」 ティグリーノ?たしか、鬼百合だっけ?たぶん。 そういうマフィアなんだろうか。そういえば、この人がつけているエンブレムは花のような形にも見えた。 「上出来だ」 突然、頭の上に手を置かれた。そして、呟かれた言葉に褒められたんだと理解した途端、ものすごく恥ずかしくなった。もちろんうれしかったんだけど、頭に乗せられた手が、とても大きくて、心底安心した。 「まさか、こんなところで役に立つとはなあ…。ボス、もちろんつぶしに行くんだろお?」 いつから覗き込んでいたのか、いつのまにか後ろにスクがいて、絵を見ていた。そして、凶悪な笑みをザンザスさんに向けて物騒なことを言い放つ。そして、ザンザスさんも一言。 「…カッ消せ」 「クククッ、てめえらあ!今すぐ準備をしやがれえ!」 「まあ、スクちゃんったら、せっかちなのねえ。今任務から帰ってきたばかりじゃないのー!」 「もちろん報酬はつくんだろうね?」 「えー、ミーはひと眠りしたいですー」 「ししし、めったざきにしていいの?」 「むっ、ボスのお望みとあらば」 文句をいったり、やる気満々だったりとバラバラだけど、みんな立ち上がったところをみると、どうやら今からもう行くのは決定しているようだった。 そして、そのあとはザンザスさんが何か指示することもなく。みんな出て行ってしまった。 夜、どうしても眠れなくて、私は廊下に出ていた。 どうやら敵のアジトは結構遠いらしく、任務は今日中に終わるもののあっちで泊まってくるらしい。とベルとメールでやりとりをした。 なので、この屋敷にいま頼れる人はザンザスさんだけだ。 だから、怒られることを承知でザンザスさんの部屋に向かっている。 どうしても、あの男のこととかを思い出してしまうのだ。だから、安心したくて、ボンゴレの方にいたときなら、こういう時はリボーンがいてくれたんだけど、今は残念ながらいない。 ザンザスさんの部屋の扉を押し開けば、中は暗かった。その暗闇に一瞬ひるむけど、恐る恐る中へと足を踏み入れる。 「誰だ」 ザンザスさんの声が聞こえて、その音を頼りにそちらに足を向ける。目がうまく働かないから、手を伸ばしてふらふらと頼りなげな足取りで進んでいけば、ふわふわな感触にふれた。それがベッドだと理解して、安堵の溜息をつく。 「…何の用だ」 ザンザスさんがかすかに動いて、ベッドわきのスタンドの明かりをつけた。オレンジ色のやわらかい光が暗がりの中に浮かび上がる。 私は、持ってきていた携帯電話のメール画面を開いて文字を打つ。 [いっしょにねさせてください] 「あ?」 ベッドに上ってザンザスさんの服をつかむ。その私の手はかすかに震えている。それが伝わったのか、ザンザスさんは無言で私を見た後、一つ溜息をついてベッドに倒れこんだ。 それを了承ととっていいのか迷ってそのままベッドの上に座っていると、ザンザスさんはちらっと私を見て、反対側を向いた。 「勝手にしろ。暴れたらカッ消す」 低くささやくようにそう言って、次の瞬間にはザンザスさんの寝息が聞こえてきた。寝るの早っ!と思ったけど、許してもらえたので何も言わず、いやいうことはできないんだけど、布団の中に入ることにした。 布団の中は、ザンザスさんがいたからか、暖かくて、すぐ近くにザンザスさんがいるからかさっきまで怖かったのがウソみたいに、安心して眠ることができた。 次の日、それを発見したメイドがほほえましく見ていたなんて、私は知らなかった。 |