突撃隊の来訪により

携帯をもらってから、毎日リボーンとメールのやりとりをしていた。リボーンは、任務で行った外国での風景写真とかを送ってくれる。


たまに、たけにいとかからもメールが来て、小次郎と次郎の写真を送ってくれた。


「じゃあ、紫杏。イイ子にしてろよ?」


そういって、ベルは私の頭をなでた。


今日は、ザンザスさん含め、幹部全員任務らしい。当のザンザスさんはとてもめんどくさそうにあくびをこぼしている。


「う゛お゛おおぉい!さっさと行くぞお!」


「まあっ!アタシにも別れを惜しませてくれないのかしらあ!?」


「誰がオカマなんかと別れを惜しむんですかー」


「ししし、同感」


「んもう、素直じゃない子たち」


どうやらルッスはとてもポジティブらしい。


「行くぞ」


ザンザスさんのその掛け声で、みんなそれぞれ車に乗り込んでいった。


黒塗りの車は、ゆっくりと動き出して、みんなを任務に連れて行く。その車が見えなくなるまで見送って、私は部屋に入った。


今日は庭に出ることを禁止されているから、部屋にそのままとどまって絵を描くことにした。


一枚に一人ずつ幹部のみんなを描いていく。一番レヴィが大変だった。というより、描こうか描くまいか迷いに迷って、物はためしだということで描いてみたんだけど、きっとこれはみんなに見つかったら燃やされてしまうんだろう。


そうやって、絵を描いていて、どれくらいたったのか。ベスターの絵に移り変わったとき、突然下の方で爆音が響き、屋敷全体が揺れた。天井にぶら下げてあるシャンデリアが、揺れている。


屋敷内に警報が鳴り響く。窓に駆け寄り、下をのぞいてみると、ヴァリアーの隊員じゃない人たちが大勢向かってくるところだった。上にはヘリがいるし、屋敷の周りには取り囲むように黒い車がある。


ばたばたと行きかう音が廊下から聞こえてくる。今日は、みんなはいない。助けてくれる人なんていないだろう。


警報の合間に、イタリア語で放送が鳴る。ところどころしか聞き取れなかったけど、敵襲、東、配置、というのだけが聞き取れた。
とりあえず、非常事態であることは確かだ。しばらく部屋でどうしよう、と迷っていると、外から怒鳴り声や、さらには爆音が連続で聞こえ出した。


あと、発砲音も聞こえてくる。


隠れなきゃ。


見つかったら、最後、殺されるだけだろう。と簡単に想像がついた。


こんなに冷静なのは、きっとベルやフランの喧嘩をよく見ていたからだろう。彼らの喧嘩に遭遇すると、必ずこっちまで被害が来てしまうことがあるから、命がけだ。


私は立ち上がり、今まで描いていたスケッチブックをカバンに詰め込んで廊下側のドアをそっと開いた。のぞいてみると、そこには黒服を着た人たちの乱闘騒ぎがあった。誰も私の存在には気づかない。でも、廊下に出ても隠れる場所はないし、きっと見つかってしまう。


そっと扉を閉めて、部屋のカギをかけた。さて、どこに隠れようかと迷う。ベッドのした?クローゼットの中?トイレにでも閉じこもる?いろいろと考えたけど、そんなところじゃすぐに見つかると思う。


じゃあ、どうしようか、と思ったところで、前にベルとフランでかくれんぼした時のことを思い出した。私は、すぐに、部屋の壁に設置されている全身鏡のほうに行く。


その鏡の淵に手を這わせる。下を少し探れば、目的のものが見つかった。それを押してみると、鏡は音もなく上へと上がっていく。そして、出てきたのは真っ暗な空間だ。


ベルとフランとしたかくれんぼで数多く見つけた隠し扉の一つ。この鏡はマジックミラーになっていて、中に入れば、この部屋の様子がのぞけるようになっている。


ここに入ろう、と決めて、中に入り、中にあるボタンを押す。音もなく降りてくる鏡。完全に閉じたのを見て、なるべく物音をたてないように息をひそめて外の音がやむのを待った。


むしろ、みんなが返ってくるまで、ここにいるのもいいかもしれない。


この空間は、細身な大人が一人身を縮まらせてようやく入れそうな広さだ。だから、私には結構余裕な広さがある。


どれくらいそこで息をひそめていたのか、しばらくして、鍵をしめた扉ががたがたと揺れた。外の騒音はいまだに鳴りやんでいない。人の悲鳴が耳についてしまいそうだった。


がたがたと音を立てていた扉は、少ししてあきらめたのか動かなくなった。ほっとしたのもつかの間、バキッという音とともに扉は無理やりこじ開けられていた。向こう側に片足を上げている男がいるから、きっと蹴破られたんだと思う。


口に手を当てて、息遣いがばれないようにしながら、その男を目で追う。


隊服からいって、ヴァリアーではない。手には血塗れた刀が持たれている。刀の先からは赤い液体を滴らせている。


そいつは、部屋を見回した後、ゆっくりした足取りで部屋の中を調べ始めた。ベッドの下をのぞいたり、風呂、トイレをのぞいたり。でも、誰もいないとわかったのかおとなしく扉の方へ向かいだしたとき、突然室内に喧噪の音ではないものが響き渡った。


私は、携帯を持ってくるのを忘れていた。


男は、扉に向かっていた足を止めて振りかえる。


慎重に足を運び、音の出どころまで行った。


そして、ベッドわきの机に放置されていた私の携帯を手に取る男。10秒ほどで鳴りやんだ携帯は、まるで自身に危険が迫っているとわかったかのように息をひそめて机の上にいる。


男が、私の携帯を手に取った。


開いて、何やら操作をしている。たぶん、今のメールを見ているんだと思う。着メロからいって、今のメールはヴァリアーの人からだ。


男は、携帯を手に取ったままぐるっと部屋を一周見回した。途中私の方に目を止める。息を止めて男から目をそらさないでいると、男の視線はそれた。どうやら鏡を見ていたらしい。気づかれていないみたいだ。


男は、私の携帯をベッドに放り投げると、携帯電話を取り出してどこかに電話をかけはじめた。


イタリア語で語られるそれは、かすかに聞き取れる。今までもスクにイタリア語を習ってきた。一応書けるようになってきたし、あらかた聞き取れるようにはなっている。


『奴らが戻ってくる前にずらがるぞ。……ああ。やった奴の中に子供はいたか?……そうか。いや、いい。かまうな。お前たちは各自で撤退。その際、見られた奴は全員殺せ』


男はそういうと電話を切った。


そして、もう一度周りを見回すと、窓から部屋を出て行った。


男の姿が見えなくなっても私はそこを出ることはしなかった。安全だとわかるまで外には出ない。じゃないと、またあの男たちが戻ってきたら、今度こそ本当に殺されてしまう。


早く、帰ってきてっ。


私は、手を口に当てたままじっと誰もいない部屋の中を見続けた。恐怖で体は震えるし、目からは涙が零れ落ちている。冷や汗が背中を伝うし、狭いここはとても不安をあおった。


周りの音がいっさいしなくなってどれくらいしただろうか。どれくらいそうやってそこにいただろうか。


突然再び黒い影が部屋に入ってきた。


あまりに突然で、悲鳴を上げそうになる。でも、声が漏れることはなかった。それに、安堵が体を包み込んだ。


「紫杏ー。生きてるかー?」


「センパーイ。そんなのんきに言ってる場合じゃないと思うんですけどー。にしても、この部屋はきれいですねー」


「つーか、紫杏いないんだけど」


「連れ去られたとかじゃないですかー?ほら、どっかのロリコンみたいに」


「ししし、じゃあ、また殺せるな」


「う゛お゛おぉい!てめえら!さっさと探せえ!死体でも何でもいい!」


「えー、そんなこといっちゃっていいんですかー?本部の人らに血祭りにあげられるのはロン毛隊長だけにしてくださいよー」


「誰が血祭りにあげられるかあ!」


ああ、彼らだ。


みんなが帰ってきたんだ。


とたんに、体から力が抜けた。


「ししし、かくれんぼか」


ベルの楽しそうな笑い声が聞こえる。そして、スクのあきれた溜息も聞こえた。スクは、溜息を一つつくと、さっさと動けとだけいって部屋を出て行った。


「こんな時に遊んでるなんてしれたら、怒りんぼのボスにカッ消されますよー。むしろ、カッ消されればいいのに」


「てんめ。あとで覚えとけ」


「にしても、なんで今かくれんぼなんですかー。やっぱり頭のねじが一本飛んでるんですか?」


「ちげーし。つーか、本当にあいつが連れ去られた思ってんの?」


「違うんですかー。あ、殺されたとか?」


「ししし、なんのためにかくれんぼしてたと思ってんだよ」


「えー、……ベル先輩の暇つぶし」


「違えし!だから、こういうときのため。そのために、隠し扉の場所をほとんど制覇したんだぜ?しかも、あいつは見た目5歳だけど、一応中身は17だし。危機回避ぐらいできるだろ」


「はー、そんなこと考えてたんですかー」


「ししし、だって俺王子だし」


「たまーに、本当に天才なんじゃないかって思いますよー。まー、バカと天才は紙一重って言いますしねー」


「お前は黙ってろ」


その最後の言葉と同時にしゅっとフランめがけてナイフが投げられた。それは見事フランのカエルに突き刺さる。


「んー……ここかな」


ベルは迷うことなくこっちに向かってきた。そしてボタンを押すと、途端に開かれる鏡。


「みーっけ」


ヤンキー座りをしたベルが目の前に現れる。腰が抜けて座り込んでいる私を抱き上げると、狭いそこから引き出した。


「よくそこだってわかりましたねー」


「こいつ、ここに隠れるの好きだし」


さも当り前というようにいってのけるベル。抱き上げられて、ベルから香る香水の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「あ、作戦隊長に報告しないといけないんですよねー」


「まあ、それは後でいいんじゃね?それより、紫杏。お前、見た?」


「?」


突然のベルの言葉に首をかしげた。


「ここを襲った奴ら。みたんじゃねえの?」


その言葉にコクンとうなずく。


私は、持っていたカバンからスケッチブックを取り出し、あの部屋に入ってきた男を描きだした。


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