「紫杏様、お届け物を預かっております」 そういって、朝食の時に差し出されたのは小さな正方形の小包だった。 まわりがみんな、一斉に注目する中、その差出人を見てみるとリボーンになっていた。 「ししし、誰からだよ」 近づいてきたリボーンに差出人のところを見せる。 「へえ、リボーンって、あいつだろ?マーモン」 「ああ。でも、今更なんなんだろうね」 「とりあえず開けてみろよ」 ベルに促されて、小包の包装を解いていく。すると、中にはさらに白い箱。 その箱を開けてみると、中からは携帯電話が出てきた。 なんで携帯が…。と思っていると、中からほかにお手紙も一緒に同封されていた。 その手紙を読んでみると、内容はこうだった。 Dear紫杏 紫杏。元気にしてるか? ヴァリアーの奴らに変なことされそうになったら迷わず殺していいからな。 携帯には、幹部のアドレスと俺のアドレスが入ってる。いつでもメールしてこい。まあ、あいつらからもメールがはいるだろうがな。 何かあったら、連絡しろ。 Fromリボーン 流暢な文字でつづられた言葉を読み取り、携帯電話を見る。 白い開閉式の携帯が静かに使われるのを待っているかのように箱におさまっている。それを手に取って開いてみると、確かにもうすでに何人かのアドレスが登録されていた。 しかも、待ちうけはすでにヒバードの写真になっている。 というか、仮にも5歳児に携帯を持たせてもいいんだろうか。と思ったけど、久しぶりに触った携帯の感触がうれしかったから、素直に受け取ることに決めた。それに、連絡をとれるのはうれしいし。 「まあっ!携帯電話ね!紫杏は愛されてるのねえ!」 目元からハートを振りまきつつ、テンション高めにいうルッス。 「なんか、あいつらむかつきますねー」 いつから、そこにいたのか、私の背後にしゃがんで携帯をのぞきこんでいるフランが突然そういった。何がむかつくのかわからなくて首をかしげながら彼を見ると、無表情のままじーっと見つめられる。 ついでにいうと、じーっというのはフラン自身が自分で言っていたりする。 「で、何にむかついてんだよ」 「だって、紫杏をここにやったのはあいつらなんですよねー。だったら、ミーたちが最初にアドレスを登録するべきだと思いません?ミーたちの方がそばにいるのに」 「まあ、フランちゃんったら、子供ねえ」 「黙れ。オカマ」 少し低い声でルッスに暴言を吐くフランだったけど、ルッスは相手にしていないようだった。 「じゃあ、俺らも登録すりゃいいんじゃね?そしたら、なんかあったときに連絡できんだろ」 「へー、普段は変なことしか言わない先輩なのに、たまにはまともなこともいうんですねー」 「たまにはってなんだよ。俺はいつもまともなこと言ってるし」 「どこら辺がまともですかー。存在自体が気違い王子なのに」 「てんめっ!誰が気違いだっつー、のっ!」 最後の言葉と同時に投げられたナイフは、フランのカエルの目に刺さっていた。カエルの目から生えるナイフがなんともグロテスク。とても痛そうに見える。 「紫杏。携帯貸して」 横から伸びてきた手に、そちらを見れば、マーモンが手を差し出していた。その手に携帯を乗せると、何か操作をして携帯が返ってきた。 「僕の登録しておいたから」 「あー。マーモン先輩が抜け駆けですかー?」 「君たちが遊んでるからだよ」 「ミーをこんなアホ王子と一緒にしないでくださーい。ミーは相手をしてあげているだけなんですから」 「それはこっちのセリフだ!」 「ほらー、そうやってすぐ突っかかってくる。これだから、単細胞王子はいつまでも堕王子なんですよー」 「お前、まじ殺すっ!」 そういって、また暴れだした二人をルッスはほほえましそうに見ていた。それだけを文章で聞けばまさに一家団欒、のほほんとした空気が流れているような気がするけど、実際はかなり殺伐とした戦闘が繰り広げられている。 「おい」 低い声が耳に届き、反射的に顔を上げた。その声の主の方を見て、今誰を呼んだのか確認しようとすれば、思いっきり目があった。 「おい」 もう一度呼ばれ、これは来いってことなんだろうか、と思って携帯を持ったままザンザスさんのところにかけよった。 何の用だろうと思って彼を見上げると、無言のまま私の手の中にある携帯をひったくられる。そして、マーモンさんと同じように何か操作をしたかと思えば、無言のまま携帯を私のほうに放り投げてきた。 落としそうになってあわててキャッチする。ザンザスさんをみると、もう用はすんだ、とでもいうように椅子に深く腰掛け目を閉じていた。 いったい、何がしたかったんだろう、と携帯とザンザスさんを交互にみる。でも、ザンザスさんの考えていることなんてわかるわけがないから、まあいいかとあきらめてルッスたちの方に戻った。 「今の、なんだったんだあ?」 私とザンザスさんのやり取りをみていたらしいスクがポツリとこぼした言葉に、首をかしげて私もわからないことをアピール。 なんとなしに、携帯のアドレスを開けば、少ないけれど大事な人たちの名前が登録されていた。 その中に一つ、ザンザスさんの名前もあって、驚いた。アドレス帳のそのザンザスさんの名前を選択すると、ちゃんと電話番号に加えてメアドまで入っている。さっき何かをしていたのはこれらしい。 [ざんざすさんの、あどげっと] そうやって書いてスクに見せれば、驚きに目を見開かせていた。証拠を見せるように、携帯を突き出して見せた。 それをまじまじと見つめたスクは、まじかあ…。と呆然と呟いていた。 そのあと、なんだかんだで全員からアドレスを教えてもらった。 夜、部屋に戻って、一人、メールの新規作成を開く。 文字を打ち込んでは消して、考えては打ってをさっきから繰り返していた。 リボーンにメールを送ろうかと思い立ったはいいものの、何をおくればいいのかわからなくてさっきから悩んでいる。 それから10分ほど悩みに悩んで、結局、元気です。みんな優しいよ。とだけ送った。 すぐに返事が返ってくるかな、としばらく待ったけど、返ってこなくて、やっぱり忙しいようだと思う。 まあ、何か質問をしたわけでもないから、ただたんに返事を打とうと思わなかっただけかもしれないけど。 別に、いいもん。返事が返ってこなくても…。 ちょっと拗ねつつ、私は布団に入って眠りについた。 朝、起きてみると、携帯のランプが点滅していた。見てみると、リボーンから返信が来ていた。 元気ならよかった。 俺も、レオンも元気にしてる。 そんな短い文だったけど、最後にレオンの写真もついていた。 くりっとした黄色い目がこちらをじっと見ている。その姿に心が穏やかになるのを感じた。というか、これを撮っているリボーンの姿がなかなかシュールだと思って、一人くすくすと笑っていた。 |