今日は、ベルもフランも任務に出て行ってしまったため、いつもの遊び相手がいない。ということで、今日は久しぶりに外でお絵かきをすることにした。天気は申し分ないし、ちょっと暑いけれどまあ木陰に入れば問題ないだろう。 スケッチブックと色鉛筆、鉛筆を持って出てきた私は、屋敷のすぐ近くにある木の下に寝そべった。 描くのはヴァリアーの皆。 ザンザスさんを中心に、すぐ傍らにたつレヴィ。その反対側に立つスク。そしてスクの隣に立つのはルッスだ。レヴィの斜め前にはナイフを構え口角をあげるベル。そしてその隣にはカエルのかぶり物にベルのナイフが刺さったフラン。 下書きとして鉛筆でどんどん書いていく。構図を決めて、人を少しずつ輪郭を持たせて、リアルにしていく。 どうしよう。色鉛筆持ってきたけど、鉛筆だけで書こうかな。というより、絵具の方がいい絵になるかもしれない。部屋からとってこようか。と思いながら、鉛筆をスケッチブックの上に滑らせていく。 ようやく、全員の配置とか、格好とかが決まってさあ本書きをしようと思ったところで、地面を踏む音と誰か知らない男の人の声が聞こえて顔をあげた。 見れば、二人組のヴァリアーの隊服をまとった男の人がこちらに近寄ってくる。その二人は見たことのない人だったけれど、とりあえずヴァリアーの隊服をきているから安心だろうと、再びスケッチブックに視線を落とした。 その瞬間、男が声をあげる。 それが、どうも私に向けてらしいような気がして、もう一度顔をあげた。 そうすれば、いつのまにかすぐ近くに立っていた男の一人が私の腕を掴んで、無理矢理体を起させた。 ビックリして、二人を見上げると、一人が怒鳴り声をあげる。しかし、それはイタリア語で何を言っているのかわからなかった。だから、首を傾げてみれば、もう一人の方がさらに声を荒げる。 それはもう罵声に近かった。なぜ、こんなにも怒っているのかわからなかった。 ヴァリアーの隊員には私がいることは知らされているはずだ。それなのに、なぜ…。 痛いほどに腕を掴まれ、逃れようと暴れても、離してもらえなかった。怖くて怖くて、体は震える。しまいには、男たちは武器を取り出し始めた。目の前で煌めく鈍い光。黒づくめの男たちが二人目の前に立ちふさがる。 その瞬間、お父さんと会ったときに追いかけられた二人と重なった。それが恐怖をあおる。目からはぽろぽろと涙がこぼれる。叫ぼうと開ける口からは喉に張り付いたように声が出ることはない。喉ばかりが居たくなる。 掴まれている腕を反対の手で引っ掻こうとしたり、噛みついたりしようとしたが、それもことごとく腕を掴まれることによって拒まれてしまった。 さらに抵抗する私に、拘束は強くなるばかり。 抵抗ばかりするせか、男が何かをどなった瞬間、降りあげられる手。 あ、叩かれる。と思って強く目をつむった。 「う゛お゛おぉぉい!」 聞き覚えのある声に、震えていた体が止まった。おそるおそる目を開けてみれば、驚いたように固まっている目の前の男二人。その向こうに、銀色にはためく髪が見えた。スクだ。 「テメエら、こんなところで何やってやがんだあ」 「ハッ!見知らぬ、怪しい仮面をかぶった子供を発見しましたので、問い詰めてました!しかし、口を開かず抵抗をしてきたので…」 日本語しゃべれるなら最初から話してよ!! スクの登場によって緩んだ手。それを見計らって、手を振り払ってスクのもとに駆け寄った。 「あ、お前っ!」 「う゛お゛おぉい!テメエら、レヴィのところの奴だな。レヴィからこいつを預かっていると連絡言ってねえのかあ!」 スクの足に抱きつけば、スクはそれをなんなく受け止めて抱きあげてくれた。彼の首に腕をまわして、ぎゅっと抱きつく。 そうすれば、スクも安心させるように抱きしめ返してくれた。 「わ、我々はつい先日まで任務に出てまして…、そのようなことは隊長からは…」 「チッ、レヴィのやつ…。なら覚えとけえ!こいつは今ヴァリアーで預かっている。次、手を出したら、その命ないと思え!」 「ハッ!」 「じゃあ、さっさと業務に戻れえ!」 スクが命がないと思えと言った瞬間青ざめる二人。そしてスクの大声にせきたてられるように慌てて屋敷の中へと入っていった。 「大丈夫だったかあ?悪かったなあ。レヴィにはきつく言っといてやる」 その言葉にコクンと頷く。腕を見てみれば、あの人たちの手形がくっきりと残っていた。それを見て居たくなくて、スクの肩に顔を埋める。 「紫杏、こんなところで何してたんだあ?」 答えるにもスケッチブックは地面に落ちているから、それを指さしたらスケッチブックを拾ってくれた。そこにはまだ書きかけのヴァリアーの皆。 「俺達かあ?」 コクンと頷く。 「にしても…、よくかけてんなあ…」 しみじみと絵を見ながら呟くから、少し嬉しくなった。 「どうする?まだここにいるかあ?俺は今から報告書を書かねえといけねえが…」 首を横に振る。 「じゃあ部屋に戻るかあ?」 今度は首を縦に振った。 そうしたら、スクは私を抱きあげたまま、他の落ちていた色鉛筆とかも全て拾って鞄の中に入れてくれた。そして、部屋までつれていってくれた。 部屋に入って、ベッドの上におろされる。でも、離れていく温もりが寂しくて、気が付いたらスクの服を握っていた。 「ん?」 離れて出ていこうとしたスクは、私が服を握っていたから引きとめられてしまって、それに気付いた私はすぐに手を放した。 じっと見つめてくるスク。その視線から逃れようと顔を背け、たまたま目にとまったスケッチブックに文字を書く。 [さっきはありがと] 書いて、見せれば、なぜか思いっきり溜息をつかれてしまった。何に対してのため息なのかよくわからなくて首を傾げれば、がしがしと頭を撫でられる。撫でられるというより揺らされているような感覚だ。 「俺は書類整理しなきゃいけねえからかまってやれねえが、部屋に来るかあ?」 え、と思ってスクを見上げた。しかしそこからは感情を読み取ることはできなくて、迷惑に思っているのかなんなのかわからなかった。 確かに行きたいけど、邪魔になるならいくべきではない。なんて返事しようか迷っていたら、なんの反応もしない私をいきなり抱きあげた。 「そうと決まったらさっさと行くぞお!」 そして、スクは私を小脇に抱えると、さっきの鞄も持って部屋を出た。 そのあとはスクの部屋で、スクが書類をするなか私はテーブルでさっきの絵の続きを描いていた。 ようやく完成したそれ。色鉛筆だから、ちょっと微妙だけど…、まあいいだろう。うん。上出来だ。 ようやく出来上がった絵を掲げて見て、他に手を加えるべきところはないかを探す。 「できたのかあ?」 その声に、スクの方を見れば、机に頬杖をついて私の方を見ていた。その際に、彼の銀髪がさらさらと肩から流れ落ちていく。それがまた綺麗だった。強面ではあるけど、鋭すぎる瞳を覗けば顔はかなり整っているこの人だ。 普通に芸能人ですと言っても通用するだろう。まあドラマとかで回ってくる役は、強面の刑事さんか、やくざやその筋の人だろう。 スクにこくんとうなずけば、彼は休憩のつもりなのか立ちあがった。その長身で、腕を高く伸ばして背中を伸ばせばそこから骨の鳴る音がしていた。ああ見えても、スクは実は三十路らしい。どうもここの人たちは年齢不詳だ。ルッスなんかとくに。 スクは私の方に大股で近寄ってくると、私の隣に腰をおろしてスケッチブックを覗きこんだ。 「色鉛筆かあ…。上手いもんだなあ…」 まじまじと絵を見られて恥ずかしくなる。 「瞬間記憶だったなあ。さっきの奴らの顔もかけるか?」 さっきのやつら?と少し首をひねったが、思い当たったのがさっきまで絵を描いていたときにやってきた二人。うなずけば、ざっとでいいから描けと言われたので、違うページに描き始める。 ざっとでいいと言われたから、本当に絵をみて誰かがわかる程度にかいただけにした。こうしてみると、警察の人が描く犯人の似顔絵みたいな雰囲気になってしまった。うーん。首から上だけってやっぱ怖いよね。 「これもらってくぞお?レヴィに人相伝えんのは一苦労だしなあ」 出来上がった絵を切り取ってスクに渡せば、それをコートの裏ポケットに入れていた。 [かみながいね] 「あ?ああ…。まあ今となっちゃ切るのもメンドくせ絵だけだなあ…。短くするのもこれだけ長い間髪がなげえと愛着みたいなもんも湧くしな」 自らの長い銀髪に触れるスク。 [なんでのばしはじめたの?] 「平たく言えば願懸けだぜえ。つっても、それももう意味はねえんだがな」 そういって、スクはその髪を後ろに流した。そのときの表情だどこか寂しそうで、それ以上私が侵入することを許しはしなかった。 [こんど、さわらせて] 「あ?別にさわるぐらいならいつでも…」 [むすんでみたい] 「……男が結ぶのかあ!?」 これだけ長い髪の人のは触ったことがなかったから、結んだりしてみたかったのだ。やっぱり私は5歳児になっても女の子なので、これだけ長くて綺麗な髪は結構憧れる。見た感じとてもサラサラしているし、うらやましい。 [おとこでも、むすぶひとはいるよ] 「う゛お゛おぉい…、俺の何か見ても楽しくねえだろお…」 [いじってみたい] 別に、スクたちは私がもとは17歳だって知っているわけだし、子供っぽくない発言をしても大丈夫なはずだ。うん。まあ見た目は置いといて。そして、お母さんたちが気づかないところから見て、中身も5歳児に…。考えたら悲しくなるからやめよう。 「う゛お゛……、ハア、勝手にしろお。ただし変なのにしたら怒るからなあ!」 変なのってどんなんだろうと思いつつ首を縦に動かす。 よし、じゃあ今度ルッスなら髪留めとか持っていそうだし聞いてみよう。 そのあと、スクはザンザスさんのところに書類を届けに行くらしく、私はそこで別れることにした。まあそのあとすぐにベルたちがタイミングよく帰ってきたから、結局ベルの部屋に連れ込まれて一緒におやつを食べた。 |