ここに来て、もうすぐ一週間になる。やっと慣れてきた最近。屋敷の構造も覚えた。 そして――― 「お、紫杏、あの部屋じゃね?」 只今、ベルとフランが暇をしていた私と遊んでくれています。 ルッスに文字通り抱き絞められ気絶した次の日。皆から呼び捨て命令が出た。ただでさえ、ひらがなしかかけなくて読みにくいのに、名前に敬称とかつけてたらめんどくさいとのこと。 まあ、たしかに書くほうとしてもめんどうなんだけどね。 それで、ベルフェゴールはベル。ルッスーリアはルッス。スクアーロはスク。ちなみにこの呼び名はベル命名だ。長いから短くすりゃいいんじゃね?とのことです。そして、マーモン、フラン、レヴィはそのまま。そしてザンザスさんだけ敬称つきだ。 「つーか、誰だよ。屋敷全体でかくれんぼするっつった奴」 めんどくせー、と頭をかくベルを見て苦笑する。なぜこうなったかというと、遡ること3時間前。 さっきもいったように誰もいないので暇をしていた私。まあ、それも別にいつものことなので気にしないんだけど、談話室で絵を描いていた。 そしたら、仕事から帰ったらしいベルとフランが談話室に入ってきて、暇なら遊んでやるよとのことで、なぜか話しはかくれんぼになり、私が鬼で始まった。 時間無制限。一度決めた場所から動くことは無し。ついでに、私が入れない場所もなしという、結構まともなルールだったりする。 そして、さっき、やっとベルが隠れた部屋に行きあたり、なんとか見つけ出したのだ。こういうとき、瞬間記憶は役に立つ。少しものがずれてるだけでもわかるからね。 で、やっとベルを見つけ、次に移動してさらに1時間がたった。もうだいたいの屋敷内は見て回っているんだけど…。 ベルが指差した部屋をそっと開いてみる。ベルは、その様子を一歩後ろから口元に笑みを浮かべて見ているだけ。 「ど?いそう?」 中を覗いてみれば、そこは空き部屋のようだった。この屋敷は広すぎる割に住んでいる人が少ないせいか、こんな感じで空き部屋が多い。 部屋の中は、空き部屋なのにきっちり掃除がされていてすぐにでも使えそうだ。ソファー、ベッド、ローテーブルはもとから設置されている。 中をぐるっと見回す。空き部屋の家具の配置は全て同じになっている。しかも寸分たがわずだ。なんでそうなのかとルッスに聞けば、ヴァリアークオリティーとのこと。 「ししし、気配はすんぜ?」 後ろのベルの言葉にさらに注意深く中を見回す。どこか少しでも変わったところはないだろうか、と探していれば、あった。 そこに近づいていく。衣装箪笥の前に行き、注意深く眺めた。 「ししし、なんか見つけたのか?」 その言葉にコクンと頷く。 そして、私はその空の衣装ダンスを横から全身で押した。でも、空といっても動かないわけで、その衣装ダンスを叩く。 すると、自動ドアよろしく箪笥が横にずれていった。 「見つかりましたねー」 人一人が入れる空間から、カエルをかぶっていないフランがのっそりと出てきた。 「ししし、みつかってやんの。隠れ場所まで使ってんのに」 この屋敷には、いろいろと非常事態とかに備えて隠し部屋がたくさん存在する。ついでに抜け道もたくさんあった。 それらは、こういうかくれんぼとかのときに使われるから、最初は全然みつからなくて結局スックに叫んでもらって、かくれんぼを終わらせたものだった。 だって、隠し部屋なんてそんなファンタスティックなものがあるなんて知らなかったもん。確かに、家具の位置がずれてるなーとか思ったけど、衣装ダンスの中は空だし、ソファーなんて座る以外に用途はないと思ってたし、ベッドだってそんな下と、布団の中以外隠れる場所なんて無いと思ってた。 なのに、衣装ダンスの後ろは隠し部屋で、ソファーは座る部分が開いて中に入れるようになっていて、ベッドも同じように中に入れるようになっている。 他にもいろいろとあるらしいけど…。 「そういう先輩なんて一番に見つかってるじゃないですかー」 「俺は、そういうセッコイとこ使ってねえもん」 ベルが隠れていたのは、洗濯場の洗濯機の仲だった。あれを見つけられたのは本当に偶然だったから、心底ほっとしたのと同時に、よくそんなところに入る気になれたな、とちょっと感心した。 まあ、そんなことは言わないけど。言った瞬間にナイフが飛んできそうだもん。 「つーか、お前カエルはどこやったんだよ」 「あー、それはー…、どこだと思います―?」 そういって、フランは私に視線をやった。それにつられるようにしてベルも私の方に顔を向ける。どうやらカエルも探さなきゃいけないらしい。 [このへや?] 「そうですよー」 ベッドの周りや、その下、ソファーの周辺を捜し、備え付けのトイレや浴室も覗く。さてどこだろうか、と視線をさまよわせていると、見つけた。 それは、上にあるシャンデリアに引っかかっていた。 上を指差してフランを見ると、お見事ですーといって気のない拍手をしてくれた。 「…お前アレどうやってとるつもり?」 「そんなの、こうやってー」 どこからともなく長い棒を取り出すと、それでカエルのかぶり物を引っ掛けてとっていた。それがフランの頭におさまると、やっとフランって感じがする。 もう、フラン=カエルのかぶり物っていう方式が私の中で成り立ってるみたい。 「それにしても、よくわかりましたよねー。ミー、完璧だと思ったのになー」 [ひきずったあとがあった] その言葉に、二人は、衣装ダンスの床を見て、なるほど。と頷いた。 「やっぱ、その能力だったらミー達隠れるのは不利ですよねー」 「つーか、紫杏は育てれば殺し屋になれんじゃね?こんだけ暗記できんだし」 「こんないたいけな子供にそんな怖いことさせるんですかー、うわー、最低ですねー」 「ししし、俺なんて8歳のときに入隊したぜ?」 8歳って、今の私と3歳しか違わないじゃん!どんな、デンジャラスな日常を送ってたらそんなことになるんだろう。やっぱり、運命的なものってあるのかな? 「あー、そういえばそんなこと聞いたことありましたねー。家出?」 「ちげーし」 ドスッ、と鈍い音がしてフランのお腹にベルのナイフが突き刺さる。うっ、と呻くフランだけどそこから血が流れることもなく、そしてフランもそれ以上苦しそうでもなく。 やっぱり、いつ見てもちゃんと刺さっているのに、なんで死なないんだろう。いや、死なない方がいいんだけど。 「しかも、こいつ子供じゃねえし。中身17だろ?」 「まあ、そうなんですけどー。というか、だったらこんな遊びしてる時点でどうかって話になりますけどねー」 まあ、確かに。中身は17歳だとわかっているはずなのに、なぜかくれんぼ。いや、鬼ごっこじゃ無くて心底良かったと思うんだけど。鬼ごっこだったら、絶対に勝てないから。一生鬼で終わりそう。きっと、1メートル先に相手がいたとしても、ここの人たちには叶わないんだろう。 「まあ、いいんじゃね?見た目子供だし」 「矛盾してますねー。いい加減、頭が弱くなってきたんじゃないですかー?」 「んなわけねーし。王子は天才だから」 「天才天才って言ってますけどー、だったらかくれんぼでも普通見つからないはずですよねー」 「俺は、優しいから、みつかってやってんの」 「優しい?えー、誰がですかー?サディストの間違いですよねー」 「…否定はしねえ」 「うっわ…。紫杏、こんな人、彼氏にしちゃだめですからねー」 なんで、いきなりそんな話になったんだろう?というか、ベルみたいな人ってとても希少価値が高いと思うんだけど。むしろ、ベルだけじゃない? 加えて、フランも、フランだけだと思う。 二人の性格とかは簡単にまねできるものじゃないよ。うん。 「…紫杏、今思ったこと口に出してみ?」 ビクッ、と肩が跳ねる。もしかして、心読まれた!? 「絶対に変なこと考えてただろ」 勢いよく、首がとれるかとおもうほどに首を横に振る。おかげで頭の中で脳が揺れて目が回りかけた。 「ふーん、次変なこと考えたら…わかってるよな?」 「センパーイ、傍からみてたら完璧幼児虐待ですよー」 恐怖で、顔から血の気がうせていたところに、フランの何とも言えない抑揚の無い声が聞こえてきて、肩から力が抜けた。それはベルも同じだったのか、気がそがれたらしく、いつの間にか手から取り出したナイフを、どこかにしまっていた。 「みんなーっ!おやつの時間よ〜!」 どこからともなくルッスの声が響いてきた。それは廊下にエコーして少しずつ消えていく。 「…行くか」 誰も、その声には突っ込むことはせずにベルの声に頷いた。いや、だって、ねえ?ここから談話室は結構離れているはずなのに、あえてエコーで残るっていうのはすごいと思う。そして、ちょっと気味悪くおもったのだ。 まあ、おやつはおいしく頂いたけど。 |