変と普通は紙一重!?

目の前にいる子は、瞬間記憶能力というものを持っていた。そのおかげで、この子を追いかけていた二人組が誰なのかがわかった。


「これは…、この胸の模様。アボロッティオファミリーですね」


骸がしげしげと絵を見ながら呟いた言葉だった。


ドアがノックされ、カートに珈琲などを載せて使用人が入ってきた。…タイミングの悪い。


絵は最後に再びリボーンのところへ戻ってきて、その絵をまた見つめながらポツリと呟いた。


「瞬間記憶能力、か」


その言葉に紫杏ちゃんの肩が揺れた。


使用人は、一人ひとりにゆっくりと珈琲を入れては渡していく。


「瞬間記憶…って、あの一瞬でなんでも覚えられちゃうってやつ?」


「ああ、そうだぞ。速読なんかと違って、これは生まれつき持つ能力だ」


自分の知識を手繰り寄せてみる。確か、こういう才能を持つ人は社会にはあまり適応しないはずだ。ほとんどの人が受け入れないんだ。だから、かくして生活する人は多い。


オレにも渡してくれた使用人にお礼を言う。紫杏ちゃんにはミルクが渡されたようだ。話せないから、頭を下げてお礼をしている。全員に渡し終わると、使用人は一度頭を下げて出て行った。


「へえ!すごいね!紫杏ちゃん」


「!!…[すごいの?きもちわるくない?]」


麻依が目を輝かせて頭を撫でれば、目を見開かせた。そして、ペンをとって書いた言葉に、オレと麻依は顔を見合わせた。
そういう言葉が出てくるとは思わなかったのだ。


「どうして、気持ち悪いの?」


麻依が目線を合わせるようにしゃがみこむ。


[ふつうじゃないから]


ペンを握る手は力を入れているせいか、白くなっている。


「普通じゃないと、気持ち悪いの?」


[だって、ふつうじゃないのはへんだよ]


「おい、紫杏。じゃあお前は変なのがいいのか?」


リボーンがそういうと、紫杏ちゃんは目を見開いてリボーンを見上げた。
でも、それも少しのことで、すぐに俯いてしまった。
握りしめている小さな手が痛々しい。


「オレたちは、君が変だと思わないよ。オレは、すごいと思う。普通じゃないのは悪いことじゃないんだよ」


紫杏ちゃんは首をかしげた。珈琲を机に置いて、ゆっくりと近づき、目線を合わせる。それをじっと見つめている茶色がかった瞳は少しだけうるんでいた。


「それに、ここにいる人たち皆、普通、ではないしね」


きょとんとした紫杏ちゃん。


「ハハ、言えてるな!」


「あほか!笑うことじゃねえだろ!」


「ね?君は、今日からここに住むんだ。大丈夫だよ。オレが守るから」


「ハッ、ダメツナが言うようになったじゃねえか」


「うるさいよ。リボーン」


「紫杏ちゃん。私、麻依って言います。よろしくね」


紫杏ちゃんの瞳から堰を切ったようにあふれ出る涙は、とても、きれいなものだった。


「な、泣かせちゃったっ!」


突然泣き出した紫杏ちゃんに、うろたえる麻依。助けを求めるようにこっちを見る彼女に頬笑みを返す。紫杏ちゃんは、その様子をみてか、すぐに手でごしごしと目をこすって、涙をふくと立って、ペコリとお辞儀をした。


次に頭を上げた時にある表情は、オレ達が会って初めての笑顔だった。


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