空を体育館に残して獄寺を追ってきたのはいいんだけど、どこ行ったのアイツ。自分で混乱して空に当たり散らして体育館飛び出すなんて、最低よ。 いい加減、自分の気持ちに気づいたかと思えば全然だし。先輩は先輩で獄寺を敵視するあまり、空に対しての気配りに欠けてきたし。 事態は最悪な方向に進んでますって?冗談じゃないわよ。こっちは劇の主役にされた挙げ句、面倒な女子から反感買って、手一杯だってのに、面倒事増やしてくれるなんて。 私は、獄寺を探して体育館のある階は一周した。それでも見つからないって事は、下に下りたか、上に上がったかの二つに一つ。 まあ取り敢えず、階段のある所まで走った私は、そこでやっと階段を下りる銀髪を見つけた。間違いなく獄寺だ。 「獄――!?」 私が一喝してやろうと、彼を呼び止めるべく名前を呼ぼうとしたその時、階段の手摺りから手を離し、階段を下りかけた私の身体が前に傾いた。 しかも不自然な形に――。 「山本君の次は獄寺君?」 「いいご身分だねアンタ」 ああ、厄介な連中に見られてたわけ。背中に感じた嫌な圧力の根源は彼女達の手だったわけね。 いい身分なのはどっちよ?自分の思う通りにならなかったら、こんな卑怯な手使って、邪魔者を排除しようだなんて――、 私はゆっくり落ちていく間に、私を階段から突き落として満足そうに笑ってる彼女達を怒りを通り越して、呆れて見上げていた。 いつか自分の過ちに自分から気付くことが出来るといいわね、なんて考えながらくるだろう衝撃に備えて身を縮め、固く瞳を閉じた。 私が怪我したら、大切な子に心配かけちゃうんだから、出来たら軽傷がいいな。 ドサ――ッ だけどくるはずの衝撃はいつまでたっても訪れないで、感じたのは何かに包まれた感覚と、ふんわりと香ってくる煙草の匂いだった。 「獄寺…」 「…、テメー等、今わざとコイツのこと突き落としやがったな!」 私が感じたものの正体は、連れ戻しにきた獄寺本人で。肩にそっと添えられている手を見れば、彼が受け止めてくれたというのは一目瞭然だった。 驚く私を一瞥した獄寺は、いつもより眉間に深くしわを寄せて、私を突き落とした女の子達を睨みつけながら大声を張り上げた。 「!わ、私達は、春日さんを助けようと思って!」 「でも間に合わなかったの。――無事でよかったわ」 獄寺に見られていたことでかなり動揺してる彼女達の言い訳に騙されるほど、獄寺も馬鹿じゃない。だけどここで妙な勘繰りをいれられたら厄介だし、…皆にはしられちゃいけないから。 「あ!?見え透いた嘘――」 「もういいから、獄寺」 「俺がいなかったら怪我してただろーが!何で何も言わ――!」 「――空が心配して待ってるわよ。早く戻ろう」 「チッ――」 私が獄寺の言葉を遮って、目でそれ以上何も言わないで、と訴えれば、私から顔を背けて小さく舌打ちした。 獄寺があの子達にたんか切ってくれたおかげで、暫くは大人しくしててくれるだろうし、大事にはしたくないから。 「今の事は他言無用よ」 「…、アイツにだけは心配かけんじゃねーぞ」 「!…分かってる」 私は獄寺の言葉に小さく笑って返し、受け止めてくれたことに対してのお礼を言った。獄寺はこういう時、いつもの短気な彼から大人に変わる。何も言わなくても察してくれるから助かるのよね。 「風ー!隼人ー!」 さあ体育館に戻ろうと、踵を返した私達を引き止める声が後ろからかかって、多分ほぼ同時に、私と獄寺は声のする方に振り返った。 待ってるように言ったのに、ホント心配性なんだから。 (ちょっと恥ずかしいわね、あんな遠くから大声で名前呼ばれたら) (ちょっとじゃねーだろ;) (追ってきてくれて嬉しいくせに) (なっ!勝手に解釈してんじゃねーよ!) |