ドッペルゲンガーの詰問

「風じゃねーだろ」


俺の一言で静まりかえったリビング。ヤバいと思ったのか口ごもる空を横目に、目の前にいる風そっくりな女に目を向ける。外見は似てても纏ってる空気がアイツとは違う。一緒に住んでんだ、それくらいわかる。


「は?どう見たって春日──」


「隼人は喋らない!髪やって髪!」


「なっ!話の辻褄おかしいだろーが!」


「だから、しー」


一人状況を飲み込んでいないのか、何なのかKYな獄寺は空が押さえてくれて助かった。まだ何かぶつくさ言ってけどしゃーねぇよな。


「で、誰かって聞いてんだけどな、俺」


「───、アンタこそ誰」


「え、俺?」


そろそろ折れて自分の正体を明かすかと待っていれば、そいつの口からついて出た言葉に驚くのは俺の方だった。何だ?質問返しかよ。


「空ちゃんと二人暮らしだって聞いてたんだけど、アンタたち二人は何」


尤もな問いに、俺と獄寺は一瞬固まる。何と聞かれて居候だとは言えない。それにコイツ、ここまで顔が似てんなら親戚の可能性が高いし、無闇に従兄なんて言えねぇしな。これヤベーんじゃ…。


「楓ちゃん、この二人はあたしの従兄だよ。今日夏祭りだから一緒に行こうってなって、家まで迎えに来てもらったんだ」


「え?」


痛いくらいの睨みつける視線に苦笑していた俺に気がついたのか、助け船を出してくれた空に疑いの目は逸れた。つか、楓っていうのな。


「でも空ちゃんの従兄って小さい子ばかりじゃ……」


「!!えー、えーとね!いるよ!大きいのも!ね、たけちゃん、隼人!」


「んな事、俺が知──」


「おう、正真正銘の従兄だぜ」


面倒なことを口走る獄寺を遮って、空に口角をあわせればホッとしたような空と、今にもキレそうな獄寺が目に入った。


「ふーん、従兄ね。じゃあお姉のいい人じゃないんだ?」


「当たり前でしょーが。全くアンタは、勝手に私になりすまさないでよ」


「あ、風…」


それに納得したのかそうでないのかは分からないが、頭の後ろで腕を組んだ楓が振り返って話を振った先にいたのは、今帰ってきたらしい呆れ顔の風がいて。揃ったら似てるなんてレベルじゃないくらいそっくりだった。


俺、気づけたのってまぐれか…?


「いつ帰ってきたの?!」


「今。──靴があったから来てるとは思ったけど、かつらまで被って何やってんのよ楓」


「痛いなあ!」


あたしがいきなり登場した風に驚いて声を上げれば、しれっと答えて楓ちゃんの頭を叩く風に姉妹って何かいいなあって思ったりした。


「な、何で春日が二人いんだよ?!」


「隼人、あれ双子だからね。風が二人いるんじゃないから。取りあえず落ち着こうよ」


そんなあたしとは違って、パニック状態に陥っている隼人を必死に宥めていると、楓ちゃんがニッと笑って口を開いた。


「空ちゃんのいい人はその人?」


「え!?」

「ふざけんな!誰がこんな女っ!」


「獄寺、顔真っ赤にしていっても説得力ないわよ」


「はは、確かにな」


急にふられた話題に吃驚して、あたしが否定する前に否定した隼人は真っ赤で、それにいつものようにからかい突っ込みをしてくる二人にあたしまで赤くなってしまう。


「じゃあやっぱりアンタはお姉なんだ」


「え、俺?」


「ちょっと武、直ぐに否定しなきゃつけあがるんだから!」


だけど楓ちゃんの標的は直ぐにたけちゃんに向いて、いきなりのことに言いよどんだたけちゃんに動揺一つ見せない風はやっぱり大人だ。


「え!お姉が名前呼びって匠君以来じゃんか!マジだったんだー」


「ちょ、ちょっと!違うったら!」


だけどそれも次の瞬間一変して、珍しく慌てる風は少し赤らんだ顔をしていた。うっわ、風が照れるなんてレア。


「よかったね、たけちゃん」


「!お、おうっ」


「!──、(へぇ」


そんな風を眺めながら黙っているたけちゃんに話を振れば、予想外だったのか、いきなりだったからなのかは知らないけど、目を見開いてからスッと視線をはずして小さく頷いた。


そのたけちゃんの顔も少し赤かったのは秘密にしておいてあげるけどね。




(器用な隼人君、髪の毛やって下さい)
(…ったく、……仕方ねーな)
(ありがとー)

(武兄ちゃん、お姉を宜しくね!)
(おう、任せとけ!)
(任せられなくていいってば!)


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