無自覚な足止め

私は、無理矢理空を先輩のもとに置いてきた。空気を察知するのはどちらかというと得意なほうだと思ってる。だからこそ、あそこに私は邪魔だった。


あー、獄寺とか足止めしとかなきゃいけないよね。


さすがに、告白の場面に立ち会わせるわけにはいかない。たぶん、それも全部わかって先輩は私にありがとうと言ったんだ。


「あれ?風。どうしたんだ?」


「武!よかった。意外と早く見つかって。すれ違ったらどうしようかと思ってた」


「ハハ、よかったな。にしても、空は一緒じゃねえのか?」


「ああ、空はえっと、靴ずれしてるからね。私は喉渇いたから何か飲み物と、思って…」


「ふーん?連絡してくれりゃあ、買ってったぜ?」


「あ、そっか。うん、忘れてたよ。ハハハ、」


「空はまだあっちにいるんだろ?戻るぞ」


「いや、えっと、ね?うん、ちょっと、待って。買ってくるまで」


そっか。武ならまだしも、獄寺という存在を忘れてた。あー、なんて引き留めよう。


「あれ?お前らこんなとこでなにしてるんだよ」


「あ、匠」


「よ!匠。合宿以来だな!」


「ああ、そうだっけ。…あれ?そいつは初めて見るな」


「あ、そっか」


匠に言われて初めて気づいた。そういえば、匠と獄寺って初対面だっけ?なんか忘れてた。


「えっと、じゃあ、匠からね。獄寺。こっちは私の幼馴染で、野球部の部長で、南先輩の弟の相模匠」


獄寺に説明してから、次は獄寺の説明を匠にする。


「で、こっちは、武と一緒でいとこでえっと、帰国子女の獄寺隼人。夏休み明けから武と一緒に転校してくるのよ」


「よろしくな!獄寺」


「ケッ」


「感じ悪いな、お前」


「うるせえよ」


あーあ、やっぱり空がいないと…。でも、匠はいい引き留め役になったことだし。というか、これってどれくらいで戻ればいいのかな…。


「あ、そうそう。兄貴知らねえ?一緒にいたはずなのにはぐれちまってさ」


「ああ、先輩なら今、空と…あ、」


やば、せっかく黙ってようと思ったのに口すべっちゃった。


「ああ!?あいつが、今空といやがるのか!?」


「あーあ、匠のせいなんだから」


「俺に責任なすりつけんなよ!」


「チッ、先行く」


「おいおい、…なんだ?あいつ」


匠が呆然としてる中、獄寺は広場の方へと走っていってしまった。


「あーもう、無自覚ほどめんどくさいものはないってのに」


「ハハハ、苦労するな。風」


「笑い事じゃないんだけどな…」




***

春日から空があの野郎と一緒にいると聞いて、何も考えずに空のもとに向かっていた。広場につけば、それとほぼ同時に、どこかでドオンという音がした。


誰かが、花火が上がったんだといっていたから、さっきの音は花火か。


でも、そんなことを気にする余裕も、気にする気もなくて、とりあえず広場に向かう。広場に入り、さっきの噴水の方が見えた。そこには確かに、空とあの相模がいた。


「チッ」


何にいらついているのかもわからずにそのまま近づいていく。あいつは、空の頬に手を添えて自分の方へ向かせると、俺の方を一瞥した。


気付いてやがったのか。


そして、大分近づいた俺が止める前に、俺にも聞こえるほどの大きさの声を発した。


「ずっと、ずっと前から好きだったんだ」


それを聞いた瞬間に、なぜか頭の中がフリーズした。そして、気づいた時には、座っている空の腕を引っ張って自分の方へ引き寄せていた。


「ええ!?は、隼人!?」


「やあ、獄寺君」


「ちょ、隼人!?」


こいつの、相模に対する返事が聞きたくなくて、それ以上こいつの声を出させたくなくて、そのまま顔を引き寄せてしゃべれないようにする。暴れるけど、知ったこっちゃねえ。


「君には、渡さないよ」


「…勝手にしろ。行くぞ、空」


そのまま、空の手を引いていく。


「ちょ、隼人!?」


空の声に今、答える余裕はなくて、広場の入口のところで待っていた山本達もそのまま素通りして、帰る道のりを急いだ。


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あきゅろす。
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