「空ちゃんにさわらないでくれない?」 頭上で聞こえた声は、聞き間違えるはずもない。その声で誰かがわかった瞬間、顔にいっきに熱が集まるのを感じた。 「なっ!テメエ!誰だ!」 「……空ちゃん。大丈夫?怪我してないかい?」 「は、はい…。大丈夫です、先輩」 そう、今あたしの目の前にいるのは、なんと南先輩だった。ていうか、なんで!?なんで南先輩が今目の前にいるの!?夢?というか、男の人たち無視!? 「それにしても、浴衣かわいいね。にあってるよ」 「あ、ありがとうございます…//」 ひゃー!ほめられた!先輩にほめられたよ! 「にしても、こんな奴ら相手に苦戦するなんてどうしたの?」 「しょ、しょうがないじゃないですか。浴衣で動きにくかったし…」 「でも、これぐらいのハンデあっても勝てなきゃ、師範に知られたらまた一から鍛えなおされるよ?」 「えっ!そ、それは嫌です!」 師範が嘘っぽい泣きマネをしながら、あたしにまた基礎から教えるんだ。うっわ。目に浮かぶよ。 「まあ、黙っといてあげるよ」 「ありがとうございますっ!」 「じゃあ、ちょっと春日さんのところに行っててくれる?すぐに片付けるから」 「あ、はい…」 あたしが風のそばにいくと同時に、男たちは先輩に殴りかかっていってしまって、でも、さすが先輩。あっという間に倒してしまった。 そして、そいつらは、かけつけたおまわりさんたちによって引きずられて行った。 「2人とも怪我はなかったね?」 「はい」 あたしも風もうなずいた。というか、先輩がなんでここにいるの? 「ビックリしたよ。通りかかったら大勢の男に囲まれている女の子がいて、助けようと思ったら空ちゃんだったからね」 「は、ハハ、ありがとうございます」 「それで、今日は2人で来たの?」 「あ、いえ。たけちゃんと隼人も一緒です。今、屋台に買いにいってくれてて…」 「へえ…、そう」 え、あたしなんか地雷踏んだ?少し、声が低くなった先輩はあたしから目をそらして屋台の方を見た。というより、睨んだ? 「あ、じゃあ、私武たち探してきます」 「!え!?風!?」 突然横で、歩き出そうとした風の浴衣をつかみひきとめる。でも、風はその手をやんわりと自分の手で包み込んで離すと、ニコっと笑った。 「…気を、きかせちゃったかな?」 「いえいえ。気にしないでください。助けてくれたお礼ってことで」 「そう。じゃあ、ありがたくもらっとくよ。ありがとう」 え、何の話?というか、本当に風行っちゃうの!? 「じゃ、じゃあ、あたしもっ!」 「空ちゃん」 あたしが行こうとした手を握って、先輩に呼び止められた。風はそれを気にせずさきにどんどん行ってしまう。そして、人ごみの中に見えなくなってしまった。 「空ちゃん、俺と少し話ししない?」 促されるまま再び噴水のところに座る。なんとなく、気恥ずかしくて、先輩の顔が見れない。早く、隼人たち帰ってこないかな…。 「ねえ、空ちゃん。空ちゃんって、獄寺君とどういう関係?」 「え、関係って…いとこ、ですけ、ど」 設定だけどね。 「そっか。じゃあ、獄寺君とは何もないんだね?」 何もってなに?何もって…。 「な、何もって…?」 どうしよう。まともに先輩の顔が見れない。 「付き合ってたり、好きだったり、とか?」 そう言われた瞬間、どこかで胸が高鳴った気がした。遠くの方でドオンという音が聞こえてきた。 「ああ、花火だね。残念。ここからは見えないね」 「そ、そうですね」 胸が高鳴ったのは、花火の音に吃驚しただけ。うん。そうだよね。 「で?どうなの?」 「そ、そんなわけ、ないじゃないですか。隼人はいとこ、なんだし…」 それに、異世界の人なんだから、そんなわけがない。好きになんてなるわけがない。第一、あたしは先輩が好きなんだし。お兄ちゃんみたいで、優しくて…。 「そっか。よかった。ねえ、空ちゃん。俺ね、」 先輩の手があたしの手に触れる。なんとなく、この雰囲気で、先輩が何を言おうとしているかがわかった気がした。ああ、本当にどうしよう。 「俺、空ちゃんのことが、」 もし、この先を聞いたら、あたしたちはもとの関係には戻れないのかな?前みたいに、からかわれたり、笑ったり、たまに怒られたりとか、できないのかな? すっと、先輩の手があたしのほほに触れて、ゆっくりとした動作で先輩の方へ向かされる。そこには、先輩の真剣な目があって、その視線は一度あたしからそれて屋台の方へ向くと、再びあたしの方を見た。あたしは先輩の目から目をそらせなかった。 「ずっと、ずっと前から好きだったんだ」 本当に、本当に、どうしよう。こんなことなら、無理やりにでも風と一緒に行くんだった。 |