左右に並ぶ屋台の間を人が行きかう。途中ぶつかりそうになりながらも、はぐれないように注意しながら屋台を見て回った。 「なあ、なあ。あれ、やっていいか?」 武に声をかけられ、指差している方を見ると、そこは射的だった。 「射的?いいんじゃない?」 そういえば、武って祭りのたびに射的とかやってた人だっけ…。 「どうせなら、勝負しねえか?獄寺」 「はあ?なんで俺が―――」 「それいいね!隼人頑張れ!」 「テメッ!勝手に決めんじゃねえよ!俺はやるなんて一言も言ってねえだろうが!」 「えー…。あ、もしかして…」 「な、なんだよ」 「射的で勝てる自信ないんでしょ?だから、やりたくないのかー」 「ハッ!誰が自信がないって!?やってやろうじゃねえか」 その掛け合いを見て、私と武は顔を見合わせて獄寺にはばれないように笑った。というか、空の獄寺の扱い方が格段と上手くなってる…。 かくして、武VS獄寺の射的勝負が始まった。 「風、どっち勝つと思う?」 お金を払って、球を銃に詰めている2人の後ろで見ていた私に声をかけてきた空。 「そうね…。じゃあ、武で」 「じゃあ、あたし隼人ね」 「なに賭ける?」 「うーん、じゃあ、負けたらアイスおごりで!」 「決定!」 賭ける物はいつもと大して変わらないけど、それでも、アイスはやっぱり好きだしね。 「てめえら…。俺らで賭けごとしてんじゃねえよ!」 「いいじゃん!あたし、隼人に賭けたんだから!負けたら隼人がアイスおごりね!」 「ハア!?それは、筋違いだろ!」 言い合っている二人を置いといて、とりあえず武の横に移動する。 「何賭けたんだ?」 「いつも通り、アイス。負けたらおごりだって。だから、頑張ってね」 「おう!」 ここの射的は、ぬいぐるみとか、商品が置いてあるわけじゃなくて本当に射的としての屋台だった。珍しいことに。でも、実際にこの人たちは球が当たるだろうから、そんなに商品なんていらないしね…。 ルールは、十発の弾をより多く的の真ん中に当てられた方が勝ち。的には中心に行くほどに小さくなる円が何個か書いてあって、中心に行くほどに得点が高くなっている。つまり、これは当たればいいわけじゃなくて、より得点が高い方が勝ちということ。 「よし!じゃあ、一発目!」 おじさんの掛け声とともに、狙いを定められた双方の銃からパンッという軽快な音が鳴った。 「50、30!」 最初の方が獄寺で、後が武。 「2発目!」 再びパンッ、パンッ、と音が鳴る。 「40、70」 それからも、おじさんの掛け声とともに、パンパンという軽快な音が続いていく。得点はおじさんが記入していて、二人は一回も外さずに的に当てていく。 「10発目!」 「100、100!!」 そのおじさんの声とともに、武と獄寺は構えを解いて息を吐きだした。周りからは歓声が漏れる。後ろを見てみたら、いつの間にかすごいギャラリーになっていた。 獄寺は、銃を置くと、ポケットから煙草を取り出し火をつける。 「結果は……660対…660!同点だ!」 「ハハハ、同点か」 「ケッ、すっきりしねえな」 「お前ら、すごいぞ!表のもんとは思えねえな!また、来年来いよ!ほら、景品だ!」 そういって渡されたのは、ケーキのタダ券だった。 「俺の家内がケーキやしてんだ」 「え、ここって駅前にできたケーキ屋じゃない!?おじさんの奥さんがやってるの!?」 「おうよ!今度4人で食いに来な!」 駅前にできたケーキ屋は、学校の帰りに寄れるということもあってか、結構学校で噂になっていた場所だ。まさか、こんなところで射的をやってるおじさんの奥さんだなんて…。人はみかけによらないって感じね。 そのあとは、それをもらって、ギャラリーの間を必死に抜けた。武と隼人は声をかけられ、かけられ…。隼人は威嚇するし、武は笑顔で答えているし…。 私たちは、とりあえずここにいられないと思い、広場の方へ向かった。 「足、痛い…;」 「え、靴ずれ?」 空の方を見ると、ほぼけんけんの状態で立っていて、片方の下駄を脱いだ。よろめかないように支えになってあげてから、足を見れば、靴ずれになっていた。まあ、しょうがないのかもしれない。普段はかないくものを履いてこれだけ歩いているんだし…。 とりあえず、そこにあって噴水のコンクリートのところに座らせて、鞄の中から財布を取り出す。財布の中に念のためで入っている絆創膏があったはず。 「空、大丈夫か?」 「…痛い…;」 財布の中にあった絆創膏をとりあえず貼っておく。足だからすぐにとれるかもしれないけど…。 「う〜、でも、お腹すいた」 「俺らが買ってきてやるよ。な!獄寺」 「ケッ、なんで俺が」 「まあまあ、そう言わずに」 「隼人、お願い…」 「うっ…。わーったよ!で?何かってくりゃいいんだ」 おー、獄寺が懐柔されなじめてる。なんて口には出さないけど、明らかに空に飼いならされてきているみたい。…言い方悪いけど。 「じゃあ、あたし、たこ焼き!」 「じゃあ、私は焼きそばで」 「了解!ほんじゃ、いってくるな」 2人して、少し言い合いをしつつも、何気に仲良く(?)買いに行ってくれた。それを確認してから、空の隣に腰を下ろす。後ろでは、噴水の水が落ちていく音が聞こえてくる。 2人の間に心地よい沈黙が広がった。なんとなく、しゃべる気にもなれなくて、ただそばにいるだけ。それでも、気まずくないからとても、楽。 「ねーねー、」 その言葉は、私からでも空からでも無くて、俯いていた顔を上げるのがとてもめんどくさいと思ってしまった。 「キミら2人だけー?」 語尾を伸ばしてくるらへんがうざったい。顔を上げれば、5人組みのいかにもチャラそうな男。空と顔を見合わせれば、空は顔をしかめた。つまり、こっちも嫌だということ。まあ、当り前だよね。 「つれがいますから」 「えー、それって、彼氏?」 再び空と顔を見合わせる。 「……そう、彼氏です」 微妙な合間は気にしないでほしい。 「ああ、さっき射的してた子らだろ?」 知ってるなら話しかけてくるなよ。とか思いつつも何も反論はしない。だって、めんどくさい。うん。本当に。でも、ここから動いたら武たちとはぐれちゃうだろうし。それに、空も絆創膏してるとはいっても靴ずれしてるし。 「風、隼人たちのとこ行こう?」 「うん」 空に手を握られたまま立ち上がれば、それをふさぐように立ちふさがるこの人たち。もういっそのことチャラ男12345でいいよ。 「そう、簡単に行かせないよ?」 チャラ男1がそう言った。ゆっくりと近づいてくる。それに合わせて下がろうとするけど、あいにくと後ろは噴水でこれ以上下がれない。空の手を握る手に力を入れる。そうすれば、空も握り返してくれた。こういうのは苦手だ。というか、怖い。嫌い。 「あんな奴らほっといて、俺達と遊びに行こうぜー?」 「通してください」 「まあ、まあ、そう言わずにさー」 チャラ男1が手を伸ばしてきた、身じろぎするも、後ろは噴水。逃げ場なし。まさに背水の陣。そして、チャラ男の手が私の手をつかんだ。ぐっと引っ張られれば、あまり身構えていなかったため、体は素直にそちらに傾く。 「風に触らないで!」 空の声とともに、私をつかんでいた腕が離れて行った。そして、チャラ男1のうめき声。 「空…」 「浴衣なんて着てくるんじゃなかった…。動きにくい」 「テメエ!何しやがるんだ!」 「うっさい!女だからってなめてたら痛い目見るよ」 って、空が挑発してどうするの!? 「風は、ここでじっとしててね」 「……うん。怪我しないでね」 私は空から少し離れる。空は空手の構えをとる。でも、明らかに不利でしょ。男と女の差もあるのに、そのうえ浴衣で足がつかえないなんて。 「あらら?やるき?キミが?へー。カッコいいねー」 そう言ってチャラ男たちは笑った。しかし、次の一声で、その場の空気が変わった。 「お前ら。押さえろ」 一気に、他のチャラ男が空の後ろに回る。それを察知した空は後ろにきたやつの九尾に肘をいれる。けど、2人目のチャラ男はそのすきに、空の腕を押えこんだ。 「空!」 助けに行こうと動こうとしたところで、誰かが私の肩をつかんだ。 「ここにいて」 その誰かは、顔を確認する前に、拘束されてなお暴れている空の方へ行っていた。そして、空を拘束しているチャラ男4に蹴りをくらわして、その反動でよろめく空を抱きとめる。 「空ちゃんにさわらないでくれない?」 |