「何だよ、さっきから」 「別にー?空ちゃんが一生懸命教えてるの見てただけだけど?」 空とわかれて、外の風に当たりながら煙草をふかしていた俺のところにきたのは、空が毎日うっせーくらいにキャーキャー言ってる相模南。 あのうざってー視線もこいつだったな。その視線と態度から見てこいつが空を特別視してるっつーのは直ぐに分かった。この際だ、ハッキリさせるためにカマかけてやるか。 「ハッ、……アイツが俺といるから嫉妬にかられてただけだろーが」 「!──、知った風な口きかないでくれない?ぶっ飛ばしたくなるから」 その俺の思惑に引っかかったそいつから返された返答に苛っときたのは、喧嘩腰だったからだ。別に空がとかそんなのは関係ねー。 「ぶっ飛ばせるもんならやってみろよ」 けどこのムカつきは喧嘩なしには解消できねーし、この間のは空に邪魔されて決着つきじまいだったからな。丁度いいぜ。 俺が立ち上がって煙草を足で踏みつぶしてから、無表情で俺を見返すそいつに喧嘩をふっかければ、直ぐに構えて俺を睨みつけてきた。 「その前に一ついいかな?」 「あ?」 「空ちゃんと君、ホントに従兄妹なの?」 「──んな事てめーに関係、ねーよ!」 バシッと鈍い音が辺りに響いて、相模の腕によって受け止められた足。一瞬止まった動きに様子を見れば、相模の顔から笑顔が消え、鋭い瞳が俺に向けられた。 「あの子は誰にもあげない、……ハンデなし。全力でいく」 「!──ったりめーだ!」 年上は全部俺の敵だ。それは世界が違ったってかわらねーんだよ!繰り出される拳や足を全て受け流して、俺も同じように繰り出す。 さっきの空から教わった受け身がこんなとこで役立つなんてな。言いたくねーけど一応感謝してやるよ、アホ女。 「空ちゃん、余計なこと教えてくれたなあ、」 「余裕ぶっこいてんじゃねーぞ!」 バシッ、バンッ──── 何度も受け流されては止められを繰り返して、気がつけば周りに人だかりができていた。そしてそこには師範らしいオヤジに止めに行くのを止められているのか、不安そうな顔をしてやがる空の姿もあった。 あー、くそっあんな顔されると気が散るんだよ!そんな俺に気がついたのか、空の姿を確認した相模は口角をつり上げて笑うと、いきなり姿勢を低くして足を引っかけてきやがった。きたねーな畜生! 「チッ──」 「!──、おっと」 一本入る寸でのところで、左手をついて蹴りを繰り出せば一応退避できた。 「止め!南、獄寺その辺にしておきなさい。今日はもう終いだ。勝手な行動をとったそこの二人は、道場の雑巾掛けをしてから宿舎に帰るように!」 「なっ!?」 「あー、最悪……」 おっさんの話が終わったあと、解散になった他の奴らはそれぞれ宿舎に帰って行きやがって、おれと相模の二人がその場に取り残された。 「仕方ない、獄寺君あっち半分ね」 「何で俺がやんなきゃ──!」 「当たり前でしょバカ!ほら手伝ってあげるからさっさとやるぞバカ隼人」 俺が全部言い終わる前に、第三者によってそれは遮られ、投げられた雑巾を反射的に掴んで見上げた先にいたのは、水をくんできたのかバケツを乱暴に床に置いて俺を睨みつける空の姿があった。 「な、てめっ!今バカって二回も言いやがったな!」 「先輩にまで迷惑かけたんだから!二回いってもいいたりないくらいよ!」 「んだとこの女(アマ)!」 雑巾を握りしめたまま空を睨み返せば、いつものような口喧嘩が始まる。今日は止め役の山本も春日もいねーからな!絶対引きさがらねーぞ。 「南、手伝うぜ」 「あ、木城さん…」 手伝いに来てくれたんだろうけど、俺の方には見向きもしないで獄寺君と口喧嘩を始めた空ちゃんに、胸が握りつぶされるような気持ちになる。 何で俺より先に獄寺君の方に行くの。 代わりに俺の方に心配してきてくれた一つ上の木城さんは、雑巾を俺に渡して軽く背中を叩いてくれた。 「空ちゃん泣きそうな顔してたぞ。まあ二人とも怪我無くてよかったけどな…ちーとばかし、ヒートアップしすぎだ」 「すみません、」 確かにそうだ。獄寺君がきてから空ちゃんを取られる時間が増えて、苛々する気持ちが全部、今の一戦に表れていたんだろう。らしくないよね、 「南せんぱーい!木城せんぱーい!早くやっちゃいましょー!」 「てめーはいらねーんだよ!」 「隼人には言ってない!もう素直にありがとうって言いなさいよ!」 「何で俺がてめーに礼言わなきゃなんねーんだよ!」 「おいおい、いい加減に止めとけよお前等はー」 二人の喧嘩を止めにいく木城さんを後ろから見守りながら、近々催される夏祭り、空ちゃんに俺の気持ちを伝えようと心に決めた。 (さあ早くやっちゃおうか、空ちゃんも手伝いに来てくれたしね) (へへっ!こんなのお安いご用です!) (ありがとう) (!はいっ(キャー笑顔最高ー!) (け、単細胞……) (はは、流石南だな) |