風にキミを垣間見る

先生がジュースをくれたけど、私は風呂へと向かうため、そのジュースを男子の部屋に届けてきた


温かいお風呂に入り、気が抜けて思わずため息が出た。小浴場と言っても家よりも大きい。そこに私のため息が吸い込まれていった。それにしても、疲れた。久しぶりにあんなにも運動したんじゃないだろうか。いろんな意味で。


「あ、だめだ。のぼせそう…」


湯船から上がり立ち上がればふらりと目まいがして、ゆっくりと動きながらシャワーを浴びせて脱衣所へ行く。素早く着替えを済ませてから、備え付けのドライヤーで乾かせば、短めの髪はわりと早く乾いた。まだ少し湿っている気がするけど、いいか。


「お!やっと上がってきたのな!」


出てみれば、待ってましたとばかりに声をかけられ、そっちを見ればラフな格好をして、壁際に座っている武がいた。


「皆で今日の打ち上げしようぜってなったから、風が出てくるの待ってたんだ」


武は髪を乾かしていないのか、髪から洋服に滴が落ちている。


「髪、ちゃんとかわかさないと風邪ひくわよ?」


「大丈夫だぜ?」


「大丈夫じゃないの」


そういいながら、近づき、立て膝になって武の頭をタオルでふく。


「わっ!や、やめろって!ハハハ!」


「ちゃんと、ふかないからでしょ?ほら、髪冷たくなってるじゃない」


「ハハ、風は世話焼きなのな」


「なんか、その言い方は嫌だなあ。よし、これでいいでしょ」


「ありがとな!」


と、そこで自分のやっていた行動を思い返してみて、なにやってるんだって思ってしまった。少し顔が熱い気がするけど、気のせい、気のせい。


「あ、ほら、はやくいこうぜ!匠たちもまってるからよ」


うん、うなずいてから武のあとをついて行く。




***

柄にもなく、顔に集まった熱を風にばれたくなくて一歩先を歩く。いつもどうりにできてるよな?俺。


風は、先に荷物を置いてくるといって別れた。俺は、しばらくそのまま廊下に座り込む。風呂上がりの風は家ではいつものことなのに、場所が違うせいかなぜかいつもと雰囲気が違うように感じてしまった。それなのに、無防備に近づいてきたりするから、内心焦りまくり。


「かっこわりー、俺」


「何が?」


ばっと顔を上げれば、そこには手に荷物を持っていない風がいた。


「あ、いや、なんでもないぜ」


「?そう?」


「ああ、それより、入ろうぜ」


中に入れば、すでに、出来上がって、というか菓子パーティー状態になっていて、テンションがかなり上がっていた。本当にお酒でも飲んだんじゃないかってぐらいの、騒ぎよう。これ、他の客に迷惑にならないかな?


「ハハハ、酔っぱらってるみてえだな」


「おらっ!山本もこっち来いよ!入部祝いしようぜ!」


「え!?」


「春日先輩!」


「あ、栄井君」


「先輩も主役ですよ!」


俺と風は訳がわからないといった感じで引っ張られるまま円になっている部員の中に引っ張り込まれて無理やり座らされた。そして、匠が立ち上がると静まりかえる。


「えー、それじゃあ、新しい部員の武と、マネの入部を祝って、」


「「「「「かんぱーい」」」」」


それぞれ、持っていたコップを掲げて飲んでいく。隣の風を見れば、ポカーンとしていた。


「驚いたか?風、武!」


「ああ、いつのまに企画してたんだ?」


「お前がいない間だよ。風も驚いたみたいだな。ドッキリ成功!」


「…アハハ!ありがとう!」


お、風が部員の前で笑ったな。2年生がその様子を見て少しどよっとしていた。そのあとも、お菓子を食べたり、いろいろと話したりとしながら時間が過ぎて行った。


風は1年生の輪の中に入っていて、いろいろと質問攻めにあっているみたいだな。


「それにしても、さっきは驚いたよなー」


部員の一人が言った。


「?何がだ?」


「いや、だって、あの春日がナチュラルに笑ったんだぜ?そりゃあ、珍しいよ。俺同じクラスで、あいつ会長だけど見た事ねえぜ?」


「そうなのか?」


「しかも、春日は近寄りがたいしな。だから、マネやるってことになったとき驚いたよ」


「?なんで近寄りがたいんだ?」


「ああ、そうか。山本は知らねえもんな。あいつ、学校じゃあ他の女子とも話さねえし一匹オオカミだからな。まあ隠れファンはいるって噂だけど、話してもそっけねえしな。それに伊集院ってやつがいるんだけどよ、そいつともつるんでるしな」


「伊集院って…」


「伊集院空だよ」


今までただ黙って聞いていた匠がそう補足を加えた。にしても、空とかかわってたらなんで…。


「伊集院は理事長の娘だぜ?その友達だってんだから、いろいろとしたコネでテストとか受けてんじゃねえかって噂だよ」


「なっ!風たちがそんなことっ―――モガッ」


言おうとした言葉は匠の手によって遮られた。


「ん?どうしたんだ?匠?」


「いや、なんでもないな、武」


その目は何も言うなって言っているようで、とりあえず大人しくして首を縦に振った。そうすれば、やっと手が離れて、大きく息を吸う。


「あ、あの、先輩、」


「お?どうしたんだ?」


「た、たぶん、春日先輩が寝ちゃったみたいで…」


「「は?」」


風が人前で寝るなんてあんなにも嫌がってたのにな。にしても、たぶんてなんだ?


一年生がどよどよとしているところへ行ってみると、うつ伏せになり、顔も伏せてしまっている風がいた。顔は見られたくないけど、眠いってところか。


「こんな状況でも、寝顔を見せないなんて、相変わらず強情だよ、風も」


「ハハハ、疲れてんのな」


「あの、どうしましょう…。声掛けてもうーんっていうだけで起きてくれなくて…」


「ああ、もういいぜ。俺が運んどくから」


そういえば、周りにいた1年生は場所を変えてまた話しだした。2年のやつらも、寝顔を見ようとしていたみたいだけど、俯いているのがつまらなくなったのかまた元の場所でしゃべりだしていた。


俺は、風を姫抱きしてから、部屋を出た。後ろから匠もついてくる気配がする。


風を布団に寝かすと、それまで黙っていた匠が口を開いた。


「風、というか伊集院がな、テスト受けても実力じゃねえんじゃねえのって言われたんだ。親が理事長だから答案とか見せてもらってるんだって」


口を挟まずにきく。風は布団の中で気持ち良さそうに寝ていた。よっぽど疲れてたのな。


「で、それに切れたのが風。それから、“いい子”を演じるようになったんだ。誰に何か言われても耐えて、ただ黙って仕事して、って。だから、お前が何か余計なこと言うなよ」


なんとなく、寝ている風の髪を梳(す)く。サラサラと手の中ですべっていく髪をみながら、その風たちのようすを思い浮かべていた。


「まあ、風の普段の様子を知ってるやつから見たら、異様なほど静かなんだよ。だから、俺学校じゃあまり話しかけるなって言われたんだぞ」


「そうなのか?」


「ああ、鉄壁さ。ま、隠れファンは多いけどな」


「へー」


匠はごろんと風の横に寝転がった。俺もそれに習うように寝転がる。風はそんなことも知らずにぐっすりと寝ていた。


「匠、あいつらのとこに戻らなくていいのか?」


「お前こそ。主役だろ?」


「ハハハ、ま、いいじゃねえか」


「能天気な奴」


匠は、おもむろに立ち上がると、部屋の電気を消した。真っ暗になる部屋で、静かな風の寝息だけが聞こえてくる。


「明日、起きたらびっくりするだろうな、風」


「あー、怒られそうだよな」


それが会話の最後となって、しばらくしたら、匠の寝息も聞こえてきた。やっと慣れてきた目で体を起こし、匠が寝ていることを確認する。


もう一度、風の髪をなでてから、匠のほうにおしいれに入っていた掛け布団を被せて、俺もかぶってから目をつむった。






(ん、あさ?なんか、身体、重…い?)
(って、なんで、匠と武がいるの!?)
(ん〜、おー、風…)
(お、なんだもう起きたのか?)
(いや、起きたのか、じゃないから!!)
((おはよう))

(……ハア、おはよう)


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あきゅろす。
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