風の過ぎる今日

今日泊まる少年自然の家に着いた。そこの近くには大きなグラウンド。中には運動するようの道場、体育館、なぜかロッククライミングの簡単なやつ。あと、娯楽用に卓球台もあった。


今、私は先生に言われたお使いをお供につけてもらった1年生と向かっている。


「ごめんね?せっかく1年生も練習できるのに」


少年自然の家についたときに、適当な1年生2人を先生が選出したのだ。そして、管理人室にいたおじさんにコンビニの場所を聞いてその2人とともに歩いていた。


夏真っ盛りなだけあって、日差しが強い。それに、今はだんだんと正午に近づいてきているからか、日陰がぜんぜんない。


「あ、そういえば、名前聞いてなかったね。私は春日よ」


「俺は名蔵です!」


そう答えたのは、身長がけっこう高くて体格もごつい感じの1年生。やっぱり高校生にもなるとみんな背も高くて中学のときとは大違いだ。


「俺は、栄井です」


こっちは、名蔵君と並んでいるからか結構細身に見える眼鏡をかけた男の子。小柄で、他の部員ががたいがいいだけに少し心配になる。でも、なんとなく純粋そうだ。


やっと見えたコンビニに入り、言われたスポーツドリンクを3本とお茶を3本持たせてレジへ。買ったのはいいけど、それだけに来たっていうのはなんだか癪なので、1年生にアイスを買ってあげた。もちろん先生のお金で。パシリに使ったんだからそれぐらいいいでしょ。あ、もちろん私も買ったよ?


「でも、よかったんすか?アイスなんて」


「いいのよ。どうせ刈谷先生のお金なんだし」


聞いてきたのは名蔵君。彼はそんなことを聞きながらもしっかりと買ったアイスを食べていた。


「でも、怒られませんか?刈谷先生、怒ったら怖いですよ?」


「大丈夫よ。まあ、何か言われたら私が勝手に、って言えばいいから。実際にそうだしね?」


「でも…」


「栄井君は遠慮深いのね。名蔵君も少しは見習おうよ;」


栄井君はすごく遠慮してなかなか食べようとしないので、溶けるといって食べさせた。名蔵君は本当に何も気にしないというように食べ終わってしまっている。


なんとか、戻る前に食べ終わって、そこにちょうどあったゴミ箱に捨てた。でも、レシートが袋の中に入ってるから意味ないんだけどね。


「先生、ただいま」


「おー、買えたか。……おい、春日。何アイス買ってんだ!ボケカス!」


先生、口悪いよ。いつものことだけど。この先生は、ことあるごとに、ボケカスバカと暴言を吐きまくるから、いちいち気にしていたらきりがない。


「一年生がパシられたままだったらかわいそうだなって思ったんで、ご褒美です」


「…じゃあ、なんで3本なんだ」


「私の分です」


「……ハア、もういいから。次は、中に入っておにぎり作っておけ。ご飯は炊いてもらってるはずだから、作ってこい」


「何個とか、あります?あと具とか」


「具は適当。なんでもいい。数は…ご飯がある分だ」





***

自分をほめてあげたいってこういうときに使うのよね。


今、私の目の前には山積みにされているおにぎり。具は様々。なんでも使っていいと言われたから、使えそうなものを冷蔵庫からあさった。炊けてあると言われたご飯はもちろん人数分より多いわけで、私はここに来て愕然とした。


ご飯のかまが10個。中には5人前のご飯。こんなにいるのかと疑いたくなるほど。そして気が遠くなった。でも、それでもめげずに頑張った!たまに1年生が休憩がてら握って行ってくれたのは本当に助かった。


「春日!できてるかー?」


「先生!1年生にも手伝ってもらって全部握ったんですよ?」


「おー、おー、ごくろっさん」


ねぎらいの言葉、少なすぎでしょ。先生のあとに続いて、泥にまみれた野球部たちがどんどん入ってきた。


「なんだ、おにぎりだけか?気のきかん奴だな」


「酷っ!これだけの数、ほぼ一人でやったんですから、むしろほめるべきところですよ…」


野球部たちはどんどん席について行く。そして、部長の匠の合図で皆一斉に合掌して食べ始めた。私は、なぜか開いている匠と武の間に座った。というか、座らされた。わざわざ開けてくれていたみたい。


「にしても、これだけの量よく握ったな」


「腱鞘炎(けんしょうえん)になるかと思った;」


「ハハハッ!大変だったのな!」


笑い事じゃないよと呟きながら、自分で握ったおにぎりを手に取る。うん、上出来でしょ。


「春日、午後からはお前もグラウンドだ。スコアつけろその後は、洗濯だ」


それを聞いて、愕然とした。何!?洗濯って!なんで、そんなのしなきゃいけないの?マネの仕事に入る?それって…。


「……まさか、マネになってまで家事をやらされるなんて。しかも合宿で」


「ま、それがマネの仕事だからな」


「匠、あんた他人事だと思って…」


「他人事だし」


隣でしれっと言ってのける匠を睨む。


「私をひきいれた責任とって、手伝いなさいよ」


「嫌だね。俺、家事できねえもん」


「威張るところじゃないでしょ…;」


ハア、と溜息をついて、午後のことを考えてはまた溜息が洩れる。これじゃあ、家と大して変わらないことをすることになってるんじゃないのかな?あー、私の体力持つかな?


「ま、頑張れ!そのためにマネージャーがいるんだした」


「ハハハ、風、俺も手伝えるときがあったら手伝うから、な?」


そう言って、頭をなでる武を一度見る。なんだか、拗ねてる子供をあやしているような感じがして、少し複雑な気分。


「ありがと。でも、武たちにやらせたら先生に怒られるだろうし、大丈夫よ。1年生に手伝ってもらう」


「ハハ、そっか!」


それぞれ、食べ終わったら、またグラウンドへと出て行った。私は片付けが終わってからグラウンドへと出る。


そこには、もう試合形式の練習が始まっていて、私を見つけると刈谷先生に手招きされた。そこはベンチで上には古い屋根が取り付けられていて影ができている。


先生の隣に座って、言われたとおりにスコアを付けていく。皆、試合形式の練習を楽しんでいるみたいだった。野球自体はそこまで詳しいという訳ではないけど、皆が頑張っている姿を見ているのはやっぱり楽しい。


あ、武が出てきた。お、打った!あー、匠悔しそう。


「春日、おもしろいか?」


「そうですね。ちゃんとしたルールはあまり覚えていないけど、皆が頑張ってる姿を見てるのは楽しいです」


「そうか…」


「急にどうしたんですか?」


スコアを付けながら聞く。だんだんと日は傾いてきていて、ここも日差しが当たる様になってきていた。そのせいか、とくに何もしていないのに、服に汗がにじむ。


「いや、なんでもない」


ちらっと刈谷先生の方を見れば、目線は部員の方を向いている。カキーンという甲高い金属音が響く。


「無理強い、した節があるから、な」


首をかしげても、それ以上先生は何も言わなかった。つまり、あれだ。強制的にいれたのを、いまさらながらに謝ってきた、ということだろうか。


「いまさら、ですね」


緩む口端を見られないように視線を前に向ける。


「アホ。そういうことは、やっぱりきちんとせにゃならんだろう」


変なところで律義な人だ。普段はあんなにもいい加減なのに。朝礼で言わないといけないことをいわなかったりとか、ざらにある。


きちんとする場所が違う。という言葉は呑み込んでおく。さすがに、ね?それを言ったら頭をはたかれそうだから。先生はおもむろに立ち上がると、匠に手だけで合図をした。


匠の号令により、先生の前に全員が勢ぞろいした。皆、ユニホームを茶色く汚し、汗を光らせている。時計を確認すれば、もう5時だった。確か、ここでは6時から夕食だ。ずいぶんと早い気がするけど、まあ、少年自然の家だし←


「今日はここまで!6時から飯だから着替えたら食堂だ。遅れんなよー。遅れた奴は晩飯抜き。あ、春日はユニホーム集めて洗濯しろ。乾燥機もあったはずだからな」


「「「「えー!!!」」」」


先生の言葉に不満の声が上がったのは言うまでもない。ついでに、私も不満の声をあげたのも言うまでもない。


そのあとは、各自部屋部屋にいったん戻り、食堂へ向かった。部屋は、私と先生は一人部屋。男子は大きな部屋に布団を引いて雑魚寝らしい。


私は、とりあえず洗濯かごを持って男子の部屋へと足を運んだ。ノックしてみると、意外と早く誰かから返答が来た。


「春日ですけど、着替えたユニホーム洗濯するんで取りに来ました」


「おー、春日か。もうちょい待ってろ。皆!マネがユニホーム回収に来たぞ!」


そう声掛けると同時に、中では何があったのか、ドタンバタンという音が聞こえてきた。あまりうるさいと他の人に迷惑なんじゃ…。


私は、とりあえず皆が着替え終わるのを待たなくちゃいけないから壁に寄りかかったままずるずると座り込んだ。


「お、風。着替え待ちか?」


「武。そうよ。着替え待ち。さっさとやっちゃおうと思って」


「ハハ、ここに来てまで家事やるなんて大変だな」


「本当に、ね。でも、家の方が何倍もマシよ」


「……なんか、合宿来てから大人しくねえか?疲れてんのか?」
 

鋭いのか、鈍いのか…。って前にもこんなこと思ったことあったっけ?


「違うわ。学校モードだから、ちょっと、ね。今度教えてあげる。まあ大丈夫だから」


「?おお」


その会話が終了したと同時にドアが開いた。そこには大量に茶色くなったユニホームを持った男子。名前は覚えていない。


「ほらよ。これ」


かごの中に入れれば、すごい量。うっわ、これって一回ですませれるかな?


「じゃあ、頼んだぜ」


それだけ言うとそいつは中に入って行ってしまった。さて、頑張って洗いますか。


「風、手伝おうか?」


「大丈夫。武も疲れてるでしょ?夕食までの間、ゆっくり休みなよ。どうせ、夜更かしする羽目になるんだろうしね?」


「あ、ああ…」


私は、そのままかごを持ち上げてよたよたとしながら洗濯機のある場所まで向かう。そこには3代の洗濯気があった。1年生にも手伝ってもらおうかと思ったけど、扉の隙間から見た光景は皆疲れ果てて倒れこんでいたから何も言わずに来た。


洗濯気には注意書きがあって、一人1台だそうだ。でも、他の客が来る気配なんて無いから、黙って2代だけ使わせてもらおう。もし何か言われたら平謝りだ。そんなことを思いながら、洗濯をしていった。


洗濯も終わり、食堂に行ってみるともう食べ始めていた。私はまた匠と武の間に座らされ、どちらかが用意してくれていた食事にありつく。


食事してみてう痛感。私はかなり疲れているらしい。周りの笑い声に、学校モードの私は気が抜けないまま食事を終えて部屋へと戻った。


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あきゅろす。
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