幸先不安行きの乗車バス

朝、空たちと別れてから、私と武は学校で集合している野球部のもとにいた。そして、今はなぜかまだ来ていない顧問の刈谷先生のことを待っている。


先生が集合と言った時間は6時でも、今はそれから15分も立っている。皆6時前にはすでに集合しているから、かなりの時間を待たされていた。


「おー、皆集まってるな」


のんきな声にそっちを見れば、サングラスをかけてどこの悪ですかって感じの、どこからどう見ても先生には見えない格好の刈谷先生がいた。顔がいかつい方だから余計に柄が悪く見える。


部員からは、先生が一番最後だーと、ブーイングされるが、それをスルーしてバスに乗る様に指示。全員が荷物を入れた後、次々に乗り込んでいった。


私は、最後に乗って、一番前に一人で座った。反対側には先生が一人で座っている。後ろを見れば、一年生は固まって後ろの方に。少し緊張しているように、きょろきょろと忙しなく顔を動かしては何かを話している。


2年生は、慣れているのかなんなのか、自然と座っていて、武の隣を見れば匠が座っていた。配慮してくれたのかもしれない。そして、騒がしい中バスは出発した。


しばらくすると、おもむろに先生が立ち上がり、マイクを手に取った。


「あー、お前ら。一回座れ。早くしろ。…じゃあ、あっちついてからの行動説明するぞ。一回しか言わないからな」


そして、説明し始めた。内容は、少年自然の家に着いたら荷物を置いてすぐにグラウンドに集合。そして、指示に従い練習。一年生もちゃんと練習できるらしく、それを聞いた一年生は歓声を上げた。


そして、話終わると、再び席に戻るのかと思いきや、なぜか、私に無言で荷物をどかせとジェスチャーして、私の隣に座ってきた。


「…なんですか?」


「春日、お前はあっちに言ったらまず飲み物買ってこい。一年生2人ほどつけて。金は、これで足りるだろ」


そう言って渡されたのは財布で、中には小銭が細かく入っているのと、千円札が2枚入っていた。


「何本ですか?」


「…スポーツドリンクを3本とお茶を3本、だな。2リットルで」


うっわ、重そう…。でも、1年生二人なら別にいいかな。


「はーい。って、場所知りませんけど?」


「行けば分かる。地図もあるから、大丈夫だ。方向音痴、じゃないんだろ?」


「まあ、そうですけど。迷ったら知りませんよ?」


そのあと、念のためということで先生の連絡先を聞き、先生は用が済んだからか、さっきの場所へと戻って行った。





***

「こら隼人!のんびり歩いてないで急いでよー!」


「無理」


「無理とか言うなー!」


はい、今日から合宿なのに思いっきり寝坊して、風たちにも置いて行かれた空です。隼人を急がせて家を出たものの、のんびり欠伸をしながらあたしの後を歩いてくる隼人に一喝するけど、全く足を早めてくれない。


「はーやーとー!」


「抱きつくんじゃねーよ、暑苦しい」


「抱きついてないから!引っ張ってるんでしょ!?」


「け、…………げ、」


「げ?」


そっぽを向いた隼人が、あたしの後ろに視線を向けて、物凄く嫌そうな顔と声で反応を示した。気になったあたしが振り返った先には笑顔を向けている南先輩の姿が。


「南先輩!」


「おはよう、空ちゃん。そんなのといたら遅刻するよ?」


「そんなのって何だよ!一々うざってー奴だな、てめーは!」


「隼人、暴れるなっ」


あたしの頭を撫でながら困った風に隼人を指さして、そう言った先輩の言葉に逆上した隼人を押さえて、迎えに来てくれたらしい先輩と、隼人と三人でバスの待つ集合場所まで向かった。


「おっそいぞ、お前等」


「すいませーんっ!」


あたしたちが集合場所に集まれば、既に皆バスに乗車していて、バスの外では師範が待ちくたびれたと溜息をつきながら待っていてくれた。


「師範が、このおまけまで呼ぶから」


「てめー、マジ殺すぞコラ」


「!隼人っ!先輩も挑発しないで下さい!」


師範の元へ先に駆け寄ったあたしの後ろでまた勃発した喧嘩に、隼人がダイナマイトを出しかけたことに気がついたあたしは、素早くそれを手にした手を押し込める。


先輩にも少し強めの口調で言えば、はいはい、と悪びれもなく笑って先にバスに乗車した。


「いつまでそうしてんだよ」


「あ、ごめんごめん…、ほら行くよ」


「いや、だからその手離せよ!」


「ダメダメ、バスに乗る前に逃げられたら困るから」


「誰も逃げねーよ!」


ギャイギャイ言う隼人の手を引いてバスに乗る。乗って直ぐにあたしは師範に隣にくるように言われてそれに従ったはいいんだけど…。


「何で俺の隣が君なのかな?」


「んな事ぁ、俺が聞きてーんだよ!」


隼人と先輩が隣同士って──。
あー先行き心配だ……。


「南と彼は、いいライバルになるさ。いろんな意味でな」


「え──?」


心配で2人の様子をチラチラと窺うあたしに師範がかけてくれた意味深な発言は、この時のあたしにはよく理解できなかった。




(さあ、合宿の始まり)
(待ち受けるは地獄の夏──)


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あきゅろす。
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