コントのように

「えー、アハハ、……、うん。はいはい。わかったー。うん。―――もう、からかわないでよ!……うん。わかった。じゃあね。また明後日に!」


電話をしているのは空で、10分ほど前にかかってきた電話は話の内容を聞く限り空手の話みたいだな。空は紙にメモを取りながら話している。


電話は切られつのかと思いきや、再び相手が何かを話しているのか、まだ電話に耳を傾けている空の目は次の瞬間見開かれた。


「はあ!?師範が!?なんで!!……うっそ、決定?…うーん、わかった。じゃあ、えー、でも、行くかなあ」


そう言いながら、空は獄寺に視線を向けた。でも、獄寺は気付いてねえみたいで、テレビを見ている。テレビでは、深海魚の特集にたいな番組がされている。本当に、不思議なもの好きだよな、獄寺。


「うー、わかった。じゃあ…、うん。じゃあ、あとで師範にも報告しとく。うん。わかったよ。じゃあね!」


そこでやっと終ったらしく、空は携帯から耳を離した。そして、溜息をひとつ。何があったんだ?


「あー、えっと、先輩だよね。うー、緊張するっ」


空は携帯を見ながらしばらく、うーとかあーとか唸っている。風はそんな空を気にするでもなく、本を読んでいた。


やっと、決心が決まったのか、空は携帯のボタンを押していく。そして、耳に電話を当てて待つこと数秒。風の携帯電話が鳴った。


空が風にかけているんじゃないかと疑いたくなるほどのタイミングのよさに、思わず笑った。すっげえ、タイミングいいのな!


風は携帯のディスプレイを見て怪訝そうな顔をする。そして、匠か、溜息を吐いてから、携帯を耳にあてた。


「あ、もしもし?」


「はい、もしもし?」


空の方も相手が出たのか、おきまりのセリフを言う。風も同様。


「今、大丈夫ですか?」


「え、今?うん。大丈夫よ?何かあったの?」


「今、連絡網が回ってきて、明後日の合宿についてなんですけど、」


「は!?私も!?まだ、入ったばっか…」


「ならよかった。じゃあまた先輩と組手できますね」


「えー、私使い物にならないよ」


「アハハ、よろしくお願いします!」


「うわっ、私に拒否権なし!?」


「アハハ、それは無いですよー」


「…もういいよ。で、どこで?」


「あ、そうでしたね、えーっと」


「あ、ちょっと待ってメモ取るから!」


風はそういうと、さっきまで空が使っていたペンと違う紙を片手で取り、それに今まで聞いたことを書き写している。


「じゃあ、いいますよ?」


「オッケー」


「場所は少年自然の家で、道場に10時集合です」


「は!?そんなに早いの!?」


「遅刻厳禁らしいです!」


「はいはい、で?持ち物は?」


「そんなの無いですよー」


「うっわ、あの先生いい加減すぎない?」


「うーん、どうですかね。あ、じゃあ、メールで送りますね」


「うん。わかった。わざわざありがと」


「本当ですよ。自分で聞けって感じですよね」


「アハハ。じゃあ、おやすみ」


「あ、はい!おやすみなさいっ!」


2人はほぼ同時に電話を切った。


「「お前ら、タイミングよすぎだろ(いいのな」」


見事に、俺と獄寺の言葉がかぶった。獄寺の方を見れば、いつの間にか、風たちの会話のような電話を聞いていたみたいだな。


きょとんとしている二人は、どういう意味なのかまったくわかっていないみてえだし。


「俺、今2人でここで電話し合ってるのかと思っちまった。なあ、獄寺」


「ああ…」


「?それよりさー、隼人、この前道場行ったでしょ。そしたら師範が気に入っちゃったらしくって、明後日の合宿に連れてこいだって」


「ハア?誰が、行くか」


「…でも、行ってくれないとあたしが怒られちゃう!師範怒ると怖いんだよね…。だから、これも修行の一環だと思って!お願い!」


手を合わせて頭を下げる空を見て、一瞬怪訝そうに眉をひそめた獄寺は、開いた口を閉ざして何か考えるようなしぐさをした。修行の一環ってのにひかれてんのか?


「…行ってやってもいいぜ?」


「本当!?」


「ああ、ただし、今度何か一つ俺の言うこと聞け」


「隼人のいうこと?うん。いいよ!じゃあ、決まりね!よかったあ。師範の機嫌損ねるとめんどくさいんだよ。で、風は何の電話だったの?匠君?」


「あ、そうそう。匠からの電話で、私たちも明後日野球部で合宿するんだって」


「お、じゃあ、空たちと同じ時なんだな!」


「そう、しかも、場所もたぶん一緒っぽい」


「本当!?じゃあ、合宿中でも遊びに行けるね!」


「いや、そこまで時間があるか…。まあいいや。で、明後日朝の6時に学校集合ね」


早いって言ってたのは、それでか。ってことは、何時に起きればいいんだ?


「あと、持ち物だけど、参加費約5千円」


「約って…。さすが刈谷先生だね…」


「本当にいい加減…。えっと、あとは、泊まる道具とかその他いろいろ自分で考えて持ってこいだってさ」


「…刈谷先生ってさ、よくそれで先生やってられるよね」


「本当よ。この間の時に言ってくれればよかったのに、わざわざ2日前に連絡よこすなんて。しかも、私も行かなきゃいけないらしいし…」


「いいじゃねえか!皆一緒の方が楽しいぜ?」


そういえば、苦笑を返された。獄寺はもう興味が無くなったのかテレビのリモコンでチャンネルを変えている。


「空、早めに準備しときなさいよ?服の着替えも忘れずにね。男子は着替えなくてもいいけど、女の子なんだからそんなわけにもいかないでしょ?」


「うー、でも、かさ張るしなあ」


「何があるかわからないんだから持って行くのよ。あと、タオルと、お風呂セット?そんなに数あったかな…」


風は何かをうんうん唸りながら洗面台の方へと姿を消した。


「風って、本当にお母さんみたいな時あるよね」


「だな!」


「あー!でも、楽しみだね!夜とか会おうよ!きっと楽しいよ!!」


空は楽しそうに笑った後、戻ってきた風にもうそろそろ部屋へ行くと行ってそれに獄寺もついて行くように空の部屋に入って行った。


「私たちも部屋、行こうか」


風に続いて俺も部屋に入る。今日は俺が布団で風がベッドだ。


電気を消された部屋で、二人とも何も話さなかった。光に慣れていた目には闇が色濃く塗られた景色が移る。唯一、窓から風が入るたびに揺れるカーテンの隙間から指す月光が明かりがわりになっていた。


「ねえ」


口を開いたのは風だった。もぞもぞと動きながら、気配で俺の方に向き直ったのがわかる。


「初めての練習が合宿って大変だね」


クスクス笑う風に俺もそうだなと笑いをもらしながら返す。


「あー、でも、マネって大変だろうね。私体力持つかな?」


「大丈夫だろ。一年も手伝ってくれるんだろ?」


「そうなんだけどさ…。うん。こうなったらこき使ってやる」


「ハハハ、楽しそうだな!でも、本当に楽しみだな!野球ができるし、それに…風?」


風からの反応が無くなったので、体を起して風を見てみれば、静かに寝息を立てて眠っている風の顔があった。


そっと、髪に指を通す。


「おやすみ」


起こさないようにそっと撫でてから、俺はもう一度布団に入って目を閉じた。


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あきゅろす。
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