睨みあう嫉妬と苛々

「え!武って太鼓好きなの?」


「ああ、そうだぜ!」





この会話は昨日の夜のこと。風が言った一言により始まった会話だった。


「あ、私、明日練習があるから」


壁にかけてあるカレンダーを見つめていた風が思い出したように言った。その言葉に、あたしを含めた3人が風のほうを見た。


「あ、そうなの?」


「うん。今度の夏祭りで発表するからね」


「何を発表するんだ?」


たけちゃんはお風呂上がりでまだ髪から滴を滴らせている。なんか…、妖艶ってこういうこと言うんだろうなあ。


「あ、そっか。まだ言ってなかったっけ。私、太鼓もやってるの」


そう、風は昔から太鼓をやっていた。あたしも何回か見学させてもらったことがあるけど、ほぼ女子が集まった太鼓グループで、それぞれが集まれる日に集まって練習して、年に何回かの発表をするというものだ。


「俺も行っていいか?それ」


「え、いいけど、子供と女ばっかだよ?」


「いいぜ!俺、太鼓好きなんだ」


ということで、たけちゃんは風と一緒に太鼓の練習に行くことになった。そして、昼食を早々と済ませると、2人は出て行ってしまった。


それで、残されたあたしと隼人何だけど、隼人はいま、ソファーに座って本を読んでいる。ちゃっかりメガネなんかかけていたりして、やっぱり美形だなあと再確認されてしまった。カッコいいな…。


まあ、それは置いとくとして、実はあたしはこれから空手があったりなんかして、そうなれば隼人は一人になってしまう。それはさすがにかわいそうだよね。


「ねえ、隼人…」


隼人嫌がるかな?というか、それだったら先輩と…、うわっ、一回接触してるんだよね?この2人。会っても大丈夫かな?先輩に隼人のことなんて言おう…。


まあ、いとこ設定なんだけど、隼人の前でそれを行ったら怒られそうだね。


「…、なんだ」


改まって話を切りだしたあたしを不審に思ったのか何なのか、読んでいた本から視線を上げ、一度あたしを見てから返事をしてきた。


開け放たれている窓から入ってくる風が、隼人の銀色の髪をサラサラと揺らす。


「あたし、今日空手なんだけど…、その、隼人が嫌じゃなかったら一緒に…」


「行く」


「へ?」


「行くっつってんだろ。どうせ、ここにいてもやる事ねえしな」


「ん。じゃあ、準備して行こう!」


隼人をせかして準備させる。そして、あたしも準備した。


「じゃあ、行ってきまーす」


「誰に言ってんだよ」


「雰囲気だもん」


「アホか」


「アホじゃないから!」


先に歩き出してすたすたと行く隼人の背中に反論するが、隼人は気にしていない様子。


「ほら、さっさと行かねえと怒られるぞ」


「隼人に言われたくない!というか、隼人、あたしの行ってる道場の場所知らないでしょ!?」


「バーカ。一回行っただろうが。俺らはデパートだったけどよ」


「あ、そっか」


そういえば、そんなことあったなあ。結構最近だけど、なんか忘れてた。…いや、あれは忘れようとしてたのか。


あんなふうに女性集団に追いかけられたなんてある意味2度と忘れられない経験だよね。


「あの人たちはすごかったなあ」


「ケッ」


「また、あんなんになったら大変だね」


「他人事かよ」


「だって、他人事だし」


まあ、今日はデパートじゃなくて道場だからそうはならないだろうな。そこまで男に飢えた(?)女の人はいないはずだし。というか、勝手に見学させてもいいのかな?


「ま、なんとかなるでしょ」


「何がだよ」


「なんでもなーい」


あれ?そういえば、さっき何か心配してた気がするんだけど…、結構重要っぽいこと。なんだっけ?まあ、忘れるくらいなら大したことじゃないか。たぶん、あたしに直接関係ないことだろうし!


そんなことより、先輩に会える!




***

空手道場へつけば、まだ先輩は来ていなかった。そして、入った瞬間に視線が集まる。


「おはようございまーす」


その視線を精一杯無視して小声程度につぶやき、師範を探す。


「おお、空」


「あ、師範。おはようございます。今日、彼を見学させてもいいですか?」


「あ?」


師範はそれを聞いて隼人のほうに目を向けた。隼人は、その視線に気づいたのか師範をにらみつけている。って、にらまないでよ!師範かなり強いんだから!


「ほお、いいだろう。じゃあ、君はそこらへんに座ってとりあえず見ていなさい。ほら、空はぼさっとしてないでさっさと準備をしなさい!」


「はーい。じゃあ、隼人大人しくしててね」


「おはようございます」


あたしは、隼人をそこに残して準備をしに行く。と、そこで、先輩が入ってきた。


「あれ?彼…」


「ああ?……あ、てめえ」


「この前の…」


あ、先輩隼人に気づいちゃった。って、隼人も先輩のこと気づいた?これ、あたしどうしよう!?


「てめえ、あのときはよくもっ!」


「あれ?なんで、君がここに…」


「ああ、彼は今日見学するんだよ」


まだ、隼人のそばにいた師範が先輩に言った。先輩はそれを聞くと、隼人を上から下までじっくりと見た。


「師範。…そうだったんですか」


「な、なんだよ…」


「なんでもないよ」


「せ、先輩…」

 
「ん?ああ、空ちゃん。おはよう」


先輩に声をかければ、微笑みながら挨拶をしてくれた。かっこいい!!


「お、おはようございます。あ、あの、先輩、えっと彼、はあたしの従弟で…えっと」


「ああ、そういえばこの前従弟が遊びに来てるって言ってたね。それにしても、彼が…、ねえ」


「ああ?」


「は、隼人!」


ダイナマイトを出すようなそぶりを見せた隼人を抑えるべく彼に近寄る。というか、まだダイナマイト常備してたの!?


「チッ、出さねえよ」


「当り前でしょ!」


もう!隼人は、短気だから困るよ。


「空ちゃんは、着替えないの?」


後ろからの先輩の声に、振り向いてみると、そこにはもう空手の道衣を着た先輩がいた。先輩、早くない!?


「い、今、着替えてきます!」


あたしは、急いで更衣室へと向かった。あ、隼人に何も言わなかったけど、…大丈夫だよ、ね?


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あきゅろす。
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