狙われた『当たり』

「なあ、よかったのか?」


家に獄寺と空を残してバッティングセンターに行く道のりを風の先導で歩いている俺たち。


「まあ…、帰りに何か買っていこうかとは思ってるよ?一応」


「何かって?」


「アイスとか」


「それ、自分が食いてえだけなんじゃ」


「アハハ、大丈夫。空も食べたいと思うから」


獄寺ご愁傷様。


「あ、それより、もうすぐ付くと思うよ?前に、匠…えっと、幼馴染も野球やっててね?前に連れてきてもらったんだよ」


「へえ」


「もしかしたら、今日もいるかもしれないね。あ、でも、いたとしたら空の従兄設定でお願いします!」


「それはいいけど…、なんでだ?」


「この前学校に来たでしょ?その後、皆に質問攻めにあって…つい、ね?」


だからお願いと手を合わせる風に了解の意を告げる。と、そうしている間に着いたみたいだ。


「ここね、その幼馴染が言ってたんだけど、ここら辺ではホームランまでの距離が一番長いらしい。で、ホームランの場所に当たったら、1ゲームただになるんだって」


「へー」


「あ、でも、自分の球の方が速いって自慢してたけどね。まあ、本当かどうかはわからないんだけど」


ここの球がどれくらい速いのかは分かんねえけど、その幼馴染の球、打ってみてえな。ワクワクしてきた!



俺と風はバッティングセンターに入った。コインを買って開いてる打席に入る。


バットが数本置いてあった。


「あれ?風はしねえのか?」


「私?私、できないもん。見てるだけで十分」


「そっか」


自分に合っているバッドを探す。でも、やっぱりいつも使ってたやつが一番しっくりくるな。


球を硬式に設定して、準備完了。


「よっしゃ」


「お、頑張れ〜」


放たれた球を確認し、タイミングを合わせて思いっきりバットを振った。


「お〜!すごい飛ぶね!」


「あー、やっぱり、最近して無かったからダメだな。ホームラン打つつもりだったのに」


「え、そんな簡単に狙えるもの?」


「このぐらいの速さなら、打つ場所も自分の思い通りになるようにしなきゃいけねえしな」


「へえ…」


しばらく打っていると、風の携帯が鳴った。


「あ、ごめん。ちょっと出てくる」


風が出て行くのを横目で見た後、もう一度球が放たれて、打つ。だいぶ向こうにあるホームランと書かれた的を狙うが、少しそれてしまう。どうも、こっちに来てから素振りも何もしてなかったからなまっちまったみてぇだな。


「へえ。あんた良い筋してるんだな」


一通り打ち終わり、気づけばネットの向こう側から見ている人がいた。背は俺よりも低いけど、見た目的には俺と同い年ぐらいだな。


「ハハ、そうか?でも、最近やってなかったせいか、なまっちまってな」


「へえ。なまってそれだけできるなら大したもんだな。…どっかであったことなかったっけ?」


「…?初めて会うと思うけど」


「そっか。いや、なんでもない。名前は?」


「山本武ってんだ。お前は?」


「俺は、相模 匠。匠でいいぜ?よろしくな」


匠は、かぶっていた帽子を少し上げて、顔をよく見えるようにした。どうやら、今終ったらしく額には薄らと汗が光っている。


「おう!よろしくな!」


「武は、よくここに来るのか?」


「いや。今日が初めてだぜ。知り合いに連れてきてもらったんだ」


「へえ。そいつも野球を?」


「そいつは、幼馴染がやってるって言ってたぜ」


「そっか。お前、バッターか?」


「ああ。匠は?」


「俺は、ピッチャーだ。いつか当たったら、面白い試合になりそうだな」


こいつは、ピッチャーか。本当に野球とはかけ離れていたりしたから、その言葉を聞いてぞくぞくした。


「ああ。いつか、試合ができればいいな!」


「じゃあ俺、もう行くな」


「おう!またな」


「俺と試合するまでには勘取り戻しとけよ!」


去り際にそれを言い捨てて、匠は走っていってしまった。今、俺は高校に行ってないからたぶん試合はできねえだろうけど、また会えたらあいつの球を打ってみたいと思った。


「あ、武終わった?」


「おう。誰から電話だったんだ?」


「ん?獄寺」


「は?」


匠が行ってから少しして帰ってきた風の口から意外な人物の名前が出てきた。獄寺って、今買い物中じゃねえのか?というか、携帯つかえたのか?


「ほら、この前、武の携帯の電波立ってるって言ってたでしょ?」


そういえば、前に携帯をいじっている風の姿を見て、自分の携帯も見てそのことを話した気がする。携帯なんて使うことがなかったからすっかり忘れちまってた。


「だから、ためしにって思って私の番号を獄寺に持たしたの」


「え!?それって、いつ…」


「えっと…、武が熱出したとき、だったかな?半信半疑だったけど、ためしにやってみたらつながったって」


「俺には、教えてくれねえの?」


なんとなく、獄寺だけずりいって思っちまった。だから、拗ねたように言ってみれば、風はきょとんとしたあと、すぐに笑いだした。


「そ、そんな笑うことねえだろ」


「ごめんごめん。そんな顔もするんだなあって。うん。帰ったら教えるね」


「なんで、帰ってからなんだ?」


「?だって、武今携帯持ってないでしょ?」


「あ…」


そういえば、こっちに来てから携帯は時計の代わりとしてしか使っていなかったため、持ち歩くなんてことはしなくなっていた。


「ね?さ、終わったんなら帰ろう?帰りにアイス買って帰らなきゃ。獄寺に怒られちゃったし。ついでに、薬局にもよるけど」


「ハハ、あいつ、買い物に行ってから気づいたのか?」


「そうみたい。薬局ついてから気づいて電話してきたみたいだよ。声がどもりまくりで面白かった」


2人で談笑しながらも、帰りの途中にコンビニによりアイスを買って帰った。


ついでに、薬局にもよって空のための薬も買って帰った。


(なあ、風が買うなら獄寺に買わせる必要なかったんじゃね?)
(…気のせい、気のせい)
(気のせいって…)
(まあ、獄寺には二度となさそうないい経験ができたってことで!)
獄寺、ご愁傷様…


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!