噂好きにご用心

空と獄寺の水の掛け合いをやめさせる為に武と涼しい部屋からわざわざ出て、蒸し暑い中をだらだらと歩いてやっとエレベーター前までたどり着いた。


「あー、ジメジメ鬱陶しい」


「夏だからしゃーねえって」


「武は野球してたもんねー、」


「まあな」


それが何か関係あんのか?と心底不思議そうな顔をする武に、何でもないと首を振った私は、部屋から持ってきたうちわで扇いでいた。でも風が生温いんだよね。


「あ、やっと──、げっ」


「どうかしたのか?」


エレベーターがやっと到着したかと思ったら、そこから見知った人物が出てきた。ここに住んでいて会いたくないナンバー3に入るマンションの管理人さん。


「武、話合わせてよっ」


「お、おう?」


私の言葉の意味はよく分かっていないみたいだったけど、気迫負けしたのか一応同意を示してくれた武に安堵していると、私たちに気づいたらしい管理人さんが近寄ってくる。


「あらあら風ちゃん、久しぶりねー。元気にやってるの?」


「こんにちは、お陰様で元気にやってますよ」


「──(態度豹変かよ…」


武の考えていることが手に取るように分かったけどこの際無視だ。構ったら最後、私のポーカーフェイスが崩れる。それは何としても避けたい。


「それはよかったわ。あら?隣の子は?」


「ども、山──」


「ああ!この人は空の従兄で!今、夏休みだからこっちに泊まりに来てるんですよー!」


「あらそうなの?私てっきり風ちゃんの彼氏かと思っちゃったわよ」


「――─(何で遮られたんだ?」


武には悪いと思ったけど、余計なこと言われちゃ困るから、と遮った私の口から自然と出た嘘を管理人さんは受け入れて、爆弾発言。何で皆寄ってたかって、彼氏だ何だって騒ぐのよ。…どっからどう見たら彼カノに見えるわけ?


まあ、余計な誤解招かなくてよかったけど…。もし、管理人さんが彼氏だなんて思いこんだその日にはマンションに住む全住人に知れ渡る。そんなの絶対イヤ!


「もー、隼人が言い訳考えてよねっ」


「てめーが非番の俺を騙すから悪ーんだろーが、……煙草までダメにしやがって」


あー、やだ幻聴よね?今、アンタたち二人にこの会話に混じられると厄介なんだけど!


「あら、空ちゃんじゃない!そんなにびしょぬれでどうしたの?!」


「あーオバちゃん!」


「はあー」


階段から上がってきたのか、曲がり角先から聞こえてきた会話は予想通り(当たってほしくなかったけどね)空と獄寺のものだった。


私は頭を抱えて大きな溜息をもらす。


「隼人が水かけてきてっ!」


「話端折り過ぎなんだよ!」


「あらあら、仲がいいのね」


この口論をどう見たら仲がいいってとれるのよ、管理人さん。止めるべきだって。


「よくないよー、家でも喧嘩してばっかだし」


「てめーが俺が寝てっ時にガタガタうっせーからだろうが!」


「仕方ないじゃん!こっちにだっていろいろあるんだから!てゆーか隼人、布団入っても寝るの遅いから!」


「寝れねーのは誰の所為だよ!」


待ってよ…。アンタたち、いかにも同室で寝てますアピールしないでって。余計に誤解される!私カバーしきれないから!


「ありゃあ手遅れだな…」


「冗談じゃないわよ」


隣で武が呟いて、収拾のつかなくなったこの状況に、どうしたものかと考えを巡らせる。いい結果なんかにたどり着かないけど…。


「空ちゃん、その子も従兄なの?お泊まりに来てるっていう…」


「え?隼人は居候だよ?」


「居候で片づけんな!」


あー、終わったよ私の頑張りが。折角、伏せてきた事実がこうも簡単にもれちゃうだなんて。


「あらそうなの!じゃあ彼氏さんかしら?」


「え?違──」


「そうよね!じゃなきゃ居候なんてさせないわよね!」


ほら始まった、管理人さんの妄想トーク。あの空と獄寺が突っ込む暇さえないなんて相当よ。


「て、事はやっぱり風ちゃんの側にいる彼が風ちゃんの彼氏なのね」


「いや、違──」


「ああ、別に高校生同士の同棲を取り締まるつもりはないから安心して!」


「ちょ、──」


「じゃあ私もう行かなきゃならないから、結婚式には呼んでちょうだいね」


嵐のように去っていった管理人さんの思いこみを誤解だと突っ込む暇さえ与えられぬまま、その場に取り残された私たちは、ただ呆然としていた。


「何だよあのババア…」


「一応このマンションの管理人さん…、なんだけど」


「勘違いしすぎだろ。誰がこんな女を彼女なんかにすっかよ」


「あたしだってお断りなんだから!」


そんな沈黙を破ったのは誤解を招いた張本人の二人。いいわね、目先のことだけで行動しても誰かが後始末してくれるって考えがあってさ…。


一体その後始末は誰がするのよ。


「ちょっとは反省しなさい!!」


「「?!」」


「風…」


私が声を張り上げれば、ビクッと肩を震わしてお決まりの黙りを通す二人に、私を宥めようとしてくれる武。


もう、何でこう問題続きなのよ──。




(風ちゃんに空ちゃん。彼氏と同棲らしいわね)
(大変でしょう?これお裾分けよ)
(両親に反対されてるみたいだけど…)
((諦めないで頑張るのよ!))

((──(話が大きくなってる))


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