「もしもし…」 電話に出た風だけど、たぶん、あたしの親だろう。友達とか先輩なら携帯にかかってくるだろうし。って、携帯どこやったっけ? 携帯を目で探しながらも、風の言葉に耳を傾ける。あー、絶対お母さんかお父さんだ。そして、たぶんお父さん。あ、携帯あった。 たけちゃんは椅子に座ったままテレビを見ていて、あまり電話に興味を示していないみたいだ。 でも、隼人はがん見してる。そんなに気になるのかな? 「隼人、そんなに電話の内容が気になるの?」 「別に…」 まだ、あたしたちがマフィアだって疑ってるのかな?あんなの、こっちの世界じゃ珍しいっつーの。第一、そんなに街中が壊されてたら命がいくつあっても足りないから。 「あ、はい。じゃあ代わりますね。…はい。…はい」 風は受話器を耳から話してあたしの方を向いた。 「空」 「はいはい」 電話を受け取って、受話器を耳に当てる。 「はい、もしもし?」 *** 受話器を空に渡して、山本の向かいの椅子に座れば、山本と眼があった。獄寺も空を横目で見ながらこっちに来て山本の隣に座る。 「おい、誰だったんだ?」 未だに空から目を離さずに獄寺は聞いてきた。もしかしたら、まだ私たちがマフィアだと疑っているのかもしれない。 「空のお父さんだよ」 私は、棚にしまってあった小さな弁当用の鞄を取り出して机に置き、お茶をコップに注ぐ。 空の方へ耳を傾ければ、うざったそうに相づちを打っていた。まあ、親ばかだしね…。空の歪めた顔が簡単に頭に浮かんで思わず苦笑する。 私は、その鞄の中から毎日朝、晩と飲んでいるカプセル薬を取り出し、口に入れてお茶で流し込んだ。 「お前…、その薬」 「へ?」 「まさか、麻や「んなわけないから」 いきなり、神妙な顔をして私を凝視してきたから何かと思えば、麻薬って何よ。麻薬って…。獄寺の中で私ってそんなに危ない人なわけ? 「ちゃんと処方された薬だから」 「風はどっかわるいのか?」 「悪いというか…、ぜん息なの。ただ、それだけだし、最近はそこまで発作も起きたりしないから平気なんだけどね」 私は、子供のころから体が弱くてぜん息も持っていた。昔は、よく発作も起こして空の両親にもかなり迷惑かけてた。今も迷惑かけてることに変わりはないんだけどね。 「だから、昔はすっごく体弱かったのよ?」 「ハッ、見えねえな」 「だろうね」 鼻で笑う獄寺に少し視線を向けてからちょっと笑って見せれば、そっぽを向いてしまった。まったく、子供だなあ。 「え!本当!?」 いきなり、空が大声をあげたので一斉にそっちを見れば、顔を輝かせている空がいた。 「どうしたの?」 「あ、お父さん、ちょっと待ってね。風!お父さんが水族館の無料チケット4枚くれるって!」 「え、本当!?やったね!でも、なんで4枚?」 「えっと、彼氏といきなさいってさ」 え、私たち彼氏いないんですけど…。 「まあ、とりあえず貰うよね」 「うん。そうだね」 私が頷いたのを確認すると、また受話器を耳に戻し話し始めた。正直、水族館なんてずっと行ってなかったし行きたい! 「うん。…あ、チケットは?…は?学校?え、まじで?…う、ん。はーい…。わかったよ。うん。…うん、じゃあね」 「なんて?」 「明後日学校で渡してくれるって」 それは、放送で呼び出されるのかな?それとも、直接渡しに来るのかな?って、どっちにしても大変なことになるだろうな。 「それって…」 「うん。だから、昼休みにでも理事長室行ってくる」 「ん?なんで理事長室と空の親父が関係してるんだ?」 「えっと、あたしのお父さんがあたしたちが行ってる学校の理事長なの」 「へえ、すごいのな!」 でも、だからこそ空の苦労は知れたものじゃない。父親が高い地位にいれば、それを知った周りは空の実績を認めないか、良い印象を与えようと空に近づいてくる奴もいる。 「そう言うのはたけちゃんぐらいだよ。で、水族館だけど…」 「えっと、4人だね。あ…」 山本と獄寺の存在が頭にちゃんと入ってなかった。来たばかりの2人を放置して遊びに行くことなんてできないし…。 でも、空は先輩と行きたいんだろうなあ。って、私行く相手いないじゃん。あー、それだったら、幼馴染の匠でも誘えばいいかな? 空と目を合わせること数秒。空も同じようなことを考えていたのか、山本と獄寺の顔を一度見てから腰に手を当てため息をついた。 「仕方ないから、連れて行ってあげる」 「はあ!?」 声をあげたのはもちろん私ではなく獄寺。 「だって、貴方達を置いていくわけにはいかないし…」 本当は先輩と行きたかったけどという呟きは聞かなかったことにしよう。ちょっと、偉いって思ったのに…。 *** 「で、2人とも行くよね?」 本当は先輩と生きたかったのになあ…。でも、誘う勇気なんて…そ、そんなことできないよっ! 「ああ?なんで俺が」 「水族館なんて久しぶりだな!」 「本当だよねー」 「じゃあ、行く事で決まりだね!」 上から、隼人、たけちゃん、風、あたしの順番で喋った。 「はあ!?なんで俺が」 「じゃあさー」 「おい!」 「あーもう、うっさいなあ。決まったことにいちいち口を挟まないで」 「俺は行くなんて言った覚えねえよ!」 きっと、これでツナが行きたいって言ったら素直に尻尾振って行くんだろうな…。 「まあ、まあ、獄寺、どうせ俺らやることねえんだし行こうぜ?な?」 「な?」 「お前まで言ってんじゃねえ!」 あたしがたけちゃんのまねをして続けて言えば、怒鳴られてしまった。しかも、風笑ってるし…。つぼにはいっちゃったみたいで目に涙を浮かべて笑ってる。…あ、治まったみたい。 「あー、面白かった」 棒読みで言った風を隼人は睨む。こうして見てたら、本当に不良だよね。 「じゃあさ、百歩譲って獄寺は行かないとして、何してるの?」 「あ?んなの…」 「また、女の子に囲まれるよ」 「う…っ」 買い物のときのことを思い出しているのか、どんどん隼人の顔は険しくなる。それを風は笑顔で見ていた。絶対に面白がってるよ。というか、水族館にいっても同じだと思うんだけど…。 「ね?どうせ暇でしょ?それに、水族館には確か珍しい生き物が入ったって…」 ピクっと反応する隼人。あ、そういえば、変な生き物好きだったっけ。 それにしても、隼人を誘おうとするなんて、風何考えてるんだろう?普段そういうふうに誘ったりしないのに。 というか、さっきまで我関せずだったよね? 「チッ…仕方ねえ」 「お、じゃあ、決まりだな!」 「俺は仕方なく行くんだからな!」 「はいはい」 隼人の舌うちにより、4人で行くことが決定した。ちぇ、先輩と行けるかもって少し思ってたのに…。 「ねえ、風?なんでいきなり誘おうと思ったの?」 「え?」 「だから、いつもはそういうの誘おうとしないのに、なんで隼人は誘おうと思ったの?」 「え…、だって、獄寺が来なかったら先輩誘う気だったでしょ」 「え、あー、アハハ」 「そうなったら、こっちが気まずいしね」 そ、それが理由ですか…。 「なっ!お前、嵌めたのか!?」 「嵌めてないよ。だって、本当に変な生き物はいるって聞いたし。気になるでしょ?」 「う…」 「よし、決定!で、私たち火曜日まで学校だから次の休みの日にでも行く?」 「うん。そうだね」 あたしたちは、まだ夏休みに入っていない。月曜日にふつう授業があって、火曜日に終業式がある。もう夏休み気分だったのに…。 「お前らまだ学校あったのかよ」 「そうだよ。だから、あたしたちが学校に行っている間は家で大人しくしててね」 「ケッ、仕方ねえな」 「さて、今日はどうする?」 風が切り出した一言にあたしを含めた3人が頭の上にはてなを浮かべた。 「だから、今日の寝る場所」 |