雰囲気+勘
空と作ったお粥を持って部屋へ行く。そこには、つらそうに寝ている風の姿が。
「風、大丈夫か?」
「んー、…大丈夫。ただの風邪だろうし」
それでも、つらそうで、起き上がるのを助けてやり、座った風の手に茶碗を持たせる。
「お、ちゃんとお粥だ」
「空が頑張ってたぜ」
「そっか」
そっけない返事だったけど、その眼はとても優しかった。そういえば、なんでこいつら2人で暮らしてんだ?普通、1人ぐらしじゃねえのか?
「なあ」
「ん?」
「お前らってなんで一緒に住んでんだ?」
聞いちゃいけなかったのかもしれない。風が目を見開いて俺を見たから。触れてはいけないことだったのかもしれない。
「わ、悪い。変なこと聞いちまって」
「別に、変なことじゃないよ。理由、ね…。理由…」
うーんと悩み始めた風は、悩みながらもお粥を口に運んでいく。風邪をひいても食欲はあるんだな。
「理由…まあ、簡単にいえば空一人で住んだら死んじゃいそうってことじゃない?」
悩んでいた風は、そういうと、自分で言った言葉に納得したというように数回頷き、ごちそうさまとつぶやいた。
「だって、今も家事はほとんど私がやってるし…。後は、一人で暮らすには寂しかったってとこかな…」
呟くように出た言葉は、本当に寂しそうで、熱のせいかもしれないけど弱々しいものだった。
「そっか…」
「うん。だから、今は騒がしくて毎日楽しいね」
「ハハ、あの2人いつも言い合いしてるしな」
「獄寺もそうだけど、武もいるしね。まあ、最初は、なんでツナは来なかったんだーって思ったけど、今思えば来なくてよかったのかもしれない」
ベッドに横になり布団をかぶって寝る姿勢に入った風の言葉からツナの名前が出てきたことに、無意識に体をこわばらせていた。
まだ、慣れない。ツナはボスであって俺らは守護者だ。ここでは関係なくとも、それでもこの何年かでツナが知らない奴の口から名前が出ることに敏感に反応してしまう自分がいる。
「男3人はさすがに泊められないし…ね」
「…なんで、ツナが来てほしいって思ったんだ?」
「だって、2人って犬猿の仲というか…ライバル、みたいなものでしょ?獄寺は武に突っかかるし、止め役がいた方がいろいろと楽だったのになーって…」
ツナが止め役か。そういえば、いつもツナが獄寺を止めてたよな。その日々が今となっては懐かしい。中学の時が一番、楽しかったかもしれない。馬鹿騒ぎをやっていたあのころが。
俺らは風も空のことも何も知らないのに、2人が俺たちのことを。それ以外の人間のことを知っていることに対して違和感を覚えつつも、その話を流す。
「あの2人、仲良くなったよなー」
「うん…、獄寺は、警戒心が強いけど、心開けば懐きやすいタイプだと思うんだよね。それで、仲間は絶対に裏切らなさそう」
「懐くって…」
思い返してみれば、確かに、最初はツナに突っかかってたのにいつの間にか慕うようになっていた。よく見ているのな。
「でも山本は…、警戒もあまりしないみたいだけど、心を開くのには時間がかかる。で、天然のくせに、結構鋭いし周りをよく見てるから、頼りがいがあるし周りに人がたくさん集まってくるんだろうね」
自分のことはよくわからねえけど、そうなのかもしれないと納得してしまった。
「どう?私のプロファイル」
「ハハ、良く見てんのな。でも、山本じゃなくて武だろ?」
「あれ?山本って呼んじゃった?」
「おう」
「あちゃー。ずっと山本だったから慣れなくて…。武だね。武」
口の中で何回か俺の名前を呼んでいる風の頭をなでる。やっぱり、まだこの生活には慣れないけど、悪くないと思う。
「武の手、おっきいね…」
「そうか?」
「うん…お父さんの手に似てる」
ゆっくりとした口調で話す風は眼を閉じて静かに微笑んだ。
「風の親父?」
「そう。大きくってね。温かかったんだ…。だから、武の手、安心する」
「そっか」
「野球…、まだしてるんでしょ?今度、バッティングセンターにでも行こうね。動かなかったら、ストレス、溜まる…し」
だんだんとゆっくりとなる口調に合わせて、まどろんできた目。
「ほら、もう寝てろ。あとは俺と空で何とかするから」
「う、ん…。おやす、み」
風はすぐに眠りに落ちて行った。
「親父か。心配…してるよな」
落ち込んでしまいそうな気持を奮い立たせるように立ち上がり、静かに風の部屋を出た。そろそろ腹が減ったな。





***

つくったお粥を持って部屋に戻れば、つらそうに眉をひそめて寝ている隼人が。
かなり近づいても起きない。あーあ、こんなに眉間にしわ寄せてたらあとついちゃうよ。せっかくきれいな顔してるのにもったいない。
「隼人。お粥作ったよ?」
「…いい、いらねえ」
それ、あたしも昨日言ったよね?
「食べなきゃ治らないって言ったのはどこのどいつよ」
「チッ…」
「ほらほら。起きて、食べて、薬のんで寝る!ね?」
「おい…あいつはどうしたんだよ」
あいつ?あいつって誰だ?たけちゃん?たけちゃんは野球馬鹿か。ってことは…、
「あいつ?…ああ、風?風なら風邪ひいて、たけちゃんが看病中」
「あいつも風邪ひいたのかよ」
「そ、だから、あたしが隼人の看病してあげる!」
そう言って胸を張れば、すごく怪訝そうな顔をされた。それ、酷くない?
「……いい。しなくていい」
「えー、恩返しだと思ってさ。ね?借りは返す主義なんだよ。一応」
「一応ってなんだよ。一応って…」
「一応は、一応!はい。じゃあ、起きて。食べて」
ダルそうに、それでも体を起こしてくれた隼人の前にスプーンに乗ったお粥を差し出す。
「はい」
「……なんだ、それ」
「え?お粥でしょ?」
「ちげえよ!それはわかる。けど、なんでそれをお前が差し出してんだよ」
「え、食べさせてあげようかなあって。ほら、食べさせてくれたでしょ?」
「俺は、頼んでねえ!」
怒鳴った瞬間に頭を押さえてうずくまる隼人。自分の声が頭に響いたみたい。アホだなあ。病人が大声出しちゃだめでしょ。
「…俺は自分で食えるからいい」
「いいの、いいの。遠慮しなくていいから。はい!」
「……」
「何?それとも、あたしが食べさせてあげるお粥は食べれないと?」
「誰も、そんなこと言ってねえだろうが!」
「じゃあ、はい!」
もう一度ずいっと口の前に差し出せば、目を泳がせつつも遠慮がちにそれを口に含んでくれた。
「ど?おいしい?」
「…味、わかんねえよ」
「なーんだ。つまんないの」
「おい」
「何?」
「たまご粥」
「は?」
何この会話。ちょっとデジャヴ?昨日もこんな会話しなかったっけ。立場が逆転してるけど…。
「たまご粥作れ」
「えーなんであたしが」
「借りは返す主義なんだろ。俺は昨日作ったんだ。だから作れ」
「えー、めんどくさい。それに、借りはもう返したってことで」
「どんだけ、小さな借りだったんだよ!」
普通のお粥は作ったことあるからなんとか作れたけど、たまご粥となれば話は別だ。
「う〜ん。よし!わかった!作ってみるね。だから、待ってて」
あたしは、思い立ったらすぐ行動!と、キッチンへ行き、たまご粥をつくり始める。って、…どう作ればいいんだろう?イメージはあるんだけどなあ。まあ…やってみるか!
「あれを、こうやって?え、こうやるんだっけ?あれ?これでいいの?」
「お、何作ってんだ?」
風の部屋からひょっこりとたけちゃんが顔を出した。
「たまご粥。作ってって言われたから…」
「俺も手伝おうか?」
「うん!おねがい!」
2人でつくり始める。ついでに、今日の自分たちの朝ごはんも。まだ何も食べてないからお腹がペコペコだ。
「なあ、こうすればもっと旨くなるんじゃね?」
「じゃあこうしてみない?」
「お、結構…」
「あー!火!火止めて!火力強すぎ!」
「ハハハ」
「ぎゃー!笑ってないで何とかしてよ!」





(うっせえ…って、なんだこの惨状)
(うっ…)
(あんたら、うるさい。って、何やったの。この状況)
(あ、アハハハハ〜)
(飯を作ろうと思ってよ。な、空)
(うん!今度こそはっ!)
((もう、やめろ!))

[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!