空と縮まった距離に赤面

あいつからお盆を受け取って、ベッドの脇の机に置く。布団にくるまっている空。


「おい、起きろ。飯だ」


「…う、う〜ん…お粥?」


「ああ」


「いい。いらない…食欲無い…」


「アホか。食わなきゃ治んねえだろ」


「治るもん」


いつもよりゆったりとした口調でしゃべるこいつ。…調子狂う。


「いいから食え」


布団をはがして、起き上がらせる。だるいのか身体に力が入らないらしく全然抵抗してこない。起き上がらせても自分で座ろうとしない空をベッドの壁に寄りかからせてから、お粥を持たせる。


「ほら、食え」


「…いらない」


「いいから食えっつってんだよ」


「うー、…じゃあ、食べさせて」


「はあ!?」


食べさせてと言ったこいつは熱のせいで少し涙目で俺を見てきた。というか、あれか?俺に食べさせろと!?


「食べさせて!じゃなかったら食べないもん…」


プイっとあっちを向いてしまったこいつになすすべのない自分。


でも、風邪をひかせてしまったのは俺が水の中に落としたからだろう。そう考えたら…、


「ああ〜!くそっ!ほら、口開けろ」


空の手の中にある茶碗を取ってスプーンですくって口の前に持っていく。くそっ、なんで俺が。


「え…」


「ほら!早く食え!」


「あ、…うん」


目を丸くしていた空はずいっと差し出したお粥をゆっくりとした動作で口にした。


無言でもう一杯掬って食わせようと口の前に出す。


しかし、それを凝視するだけでなかなか口に含もうとはしなかった。


「なんだよ」


「たまご粥…」


「は?」


「たまご粥がいい…」


「ああ?」


んだよ、それ。俺に作れってか?


「作って?…じゃなかったら食べない」


「チッ、わーったよ。つくりゃあいいんだろ!」


「うん!ありがと」


弱々しい、それでも花が咲いたように笑った。


「しょうがねえな…」


「えへへ」


「作ってきてやっから、それまで大人しく寝てろ」


「うん」


茶碗を持って、立ち上がる。あいつに聞けば、何とかなるだろ。って、あいつ山本の看病してんだっけか?


「隼人」


「あ?」


「ありがとね」


「……フン」


しゃーねえから俺が作ってやるか。って、お粥なんて作んのいつぶりだ。


誰かに作るなんてしねえから、なんつーか、むず痒い…。


たまご粥を持って空の部屋に入れば、寝ていると思っていた空は起きていた。それに少し驚きつつも、ベッドの横に行き、スプーンですくって差し出す。


「ほらよ」


「今度は素直に食べさせてくれるんだ?」


「んなこと言うなら自分で食え!」


「えー!ごめんごめん」


「ったく、…あー、えっと、よ。その、悪かったな」


「え?」


「だから、落としちまって悪かったつってるんだよ!」


「えへへ」


俺が差し出したスプーンからゆっくりと食べて行く空。こっちに来てからマフィアとはかけ離れた平和な毎日だ。


それが、不覚にも嫌じゃねえと、そう思ってしまった。


「…何笑ってやがんだよ」


「おいしいなあって」


「ケッ…」




(…早く、元気になれよ)
(へ?)
(なんつーか、じゃねえと調子でねえんだよ)
(え、)
(大人しいお前なんて気持ちわりい)
(…うん)


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あきゅろす。
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