侮れない思考
「隼人ー、いじけないでよー」
「いじけてなんかねー、……つかついてくんな」
「うん、じゃあ隣にいる!」
「……」
間違っちゃいねぇが、考えるとこ違うだろ。俺は一人がいいんだよ、何度言ったらわかんだこいつ……。
「うっわ、鮫さめー」
「、……」
何か珍しい(?)モノを見つける度に服の裾を引っ張るこいつは端から見たらあれだ、中学生……、つか普通にしてても高校生に見えねぇし。
けど一つ気になんのが……
「何震えてんだよ…?」
「え?」
さっきから嬉しそうに騒いでる様に見えるが、何か見つける度に俺の裾を握る手は、控えめで震えてる。
気になるっつか、こんな一面見たことねぇし、気づいたら手を取ってそう問いかけていた。別に寒いわけでもねぇなら不自然だろ…。
顔を上げて俺を見上げる瞳は大きく見開かれていて、動揺しまくりだ。まさか水槽割れたら…とか言いだすんじゃねぇだろうな?いや、こいつならあり得る。
「ごめん、あたし……一回…溺れてからこう…水に囲まれるのは苦手なんだー…」
乾いた笑い声とそいつから紡がれた言葉に一瞬、反応できなかった。何で苦手なのにくんだよ…。
「苦手だけど好きだから、水族館って神秘的だし、…」
それに、と続けるこいつの手は既に震えが止まっていて、今度はしっかり俺の手を握った。…何で許してんだ俺。
「隼人とたけちゃんがマフィアとか関係ない中で楽しめる¨今¨だから、少しでも楽しい思い出あったほうがいいじゃない?息抜き必要だって思い知るよ、きっと!」
「!──…」
確かに高校に進学してからは、今まで以上にマフィアボンゴレの次期十代目を守護するものとして、リボーンさんから出される試練は中学に比べて難関度は増してる。
それでも十代目が労って下さるおかげで、こういった娯楽も度々はあった。
それでもこんなふうに好き勝手にギャーギャー言ったりはできねーけどよ。……ま、その点では一応楽させてもらってんだろうな。
「じゅーだいめは今いませんからねー?」
「言い方が一々癇に障んだよてめーは」
俺の前を走って逃げるバカを追いながら怒鳴りちらすけど、内心そこまでつまんねーとか怒ってたりしてるわけじゃねぇ。
ただ、知ってることが中途半端なこいつが妙に鋭いところをついてきやがったから、心が揺れただけだ。
「お、隼人みーっけ」
「あ?何見て──」
「可愛いじゃん?このペンギンっ」
「真面目に果たすぞ!誰がペンギンだ!ああ?しかもぬいぐるみじゃねーか!」
土産売場に走り込んだかと思えば、手に取ったそれを俺だとか言いやがって、抱きしめるこいつを真面目に果たそうかと思った。ダイナマイトは寸でで止めたけどな。
「髪の毛ふわふわなとことか、銀色なとことかー、ね?」
「同意もとめてんじゃねー!」
「もーすぐ癇癪(かんしゃく)おこすー」
「誰が発火源だ!」
「えー、ペンギンの隼人責めちゃだめじゃん」
「違ぇだろ!だいたいどう考えたらそういう思考にたどり着くんだよお前は!」
ハルとはまた違うタイプのアホだな、こいつ。一々言い返してくるときもあれば、狙ってボケてんのかって言いたくなるほど、突っ込み所ありまくりの発言しやがるし。ホント訳わかんねぇ女だな。
「それだよ」
「は?」
今度は何だ。また俺の何かが似てるとか言うのか。
「お、ま、えってやつ!」
「それが何──」
「あたしの名前はお前でもバカでもアホでもないの!」
それが何だと聞き返そうと口を開いた俺の言葉を遮ってさっきのぬいぐるみを押しつけてくるこいつに、何が何だかわからなくなる。
「あたしの名前、分かんないの?」
「は?─、んなの一々覚えてねぇよ」
「──…マジだったらこの場で大泣きしてやるんだから!」
「なっ!」
何なんだよ、名前覚えてなかったら泣くって、何歳児だてめぇは。しかももう泣く準備入ってんじゃねぇか!!滝汗
「あたしは、隼人って呼んでるのに…不公平だよ」
「てめぇが勝手にそう呼んでるだけで俺には関係ねぇだろ」
「──、ある」
「は?」
「男女差別になるんだからね、それ」
いや、使う意味が違うだろ。だいたい差別と名前呼びと何の関係があんだよ。全く無関係じゃねぇか。
「じゃあ、帰るまでに呼べるようにしろよ!隼人っ」
じゃなきゃペンギン隼人ずっと持っててもらうから!と駆けだしたアホに、押し付けられたままのそれは、アイツが言うペンギン隼人らしい。
つーか待てよ。これ、買わなきゃいいだけだろ。なら何の問題もねぇし。
「お客様、そちら買われるのでしたら、」
「買うわけね──」
「みーさん、それお父さんから請求しといて!」
「!空ちゃんじゃない─」
店員に変な誤解されんのはごめんだと口を開こうとすれば、いつの間にか戻ってきたアイツにまた遮られた。つーか、買うなら今この場で買えよ。どんだけ父親頼りにすんだ。
「彼氏ー?いいわね、青春」
「やだなぁ、こんなの彼氏じゃないですよー」
「てめぇ喧嘩売ってんのか!」
「ペンギン隼人見習って静かにしなさい」
「ふざけんな!!」
何だこの扱い。いい加減俺だってきれんぞ!このクソ女(あま)
「あらあら喧嘩しないで、それ私からプレゼントするから」
「みーさんってば太っ腹!」
「フフ、当たり前よ。さあ、もうすぐイルカショーが始まるわ、いってらっしゃい」
「あ、ホントだ。じゃーねみーさん!ありがとー」
「なっ、引っ張んなよ!」
店員に結局プレゼントされたそれを抱きしめたまま俺の手を引くアイツに、文句を言いながらもその手を振り払えずにいた。
何してんだ俺───。





***

「何とか切り抜けたわね、すっごい数だったけど」
「おう、ひとまずだけどな」
大量の女子の群をくぐり抜ける際に、俺より背の低い風が巻き込まれないように握った手を離し、ゆっくり水槽を見て回る。
「やっぱ海っていいよねー」
「どうしたんだよ、急に」
水槽に見入る風を横目に笑いながら問いかければ、そのままの姿勢で俺の服の裾を引っ張る風の手。
「あそこに見える小さい魚、」
「あれがどうかしたのか?」
俺が風の隣に並んで、風の指す魚に目を向ける。一匹だけ群からはずれているそいつに何を感じたのか、ずっとそっちに釘付けの風。何かおもしいか?
「今の山本みたいじゃない?」
「え…」
「群れから一人、離れようとしてる。わざと孤立してる?」
考えるように首をかしげながらも、今だに目を離さない風。俺に言っているわけじゃなく、自分の中で疑問に思ったものをそのまま声に出したみたいだった。それでも、心臓が嫌な風に高なった。
「その点、獄寺はあっちだね」
風が指さした方を見れば、一匹の魚が違う種類の魚にひっついて行っていた。
「獄寺も、山本も優しいから、何も言わないし気を使ってるんだろうけど…。まあ獄寺の場合は使えてないけどね」
「風…」
「よくわからないけど元の世界じゃ、マフィアのこととかで人を簡単に信じるなんて難しいでしょ?」
相変わらず、眼はその一匹離れている魚に向けられたまま話し続ける風。その横顔はやさしいものだった。
風の言葉は俺たちが2人を信じていないと言っているようで、そんなことないと言おうとした言葉は喉につっかえて声に出ることは無かった。
風の言葉に心が動揺した。
「ま、私たちなんて全然2人のこと知らないんだけどね!マンガの中で知っていたとはいえ、人として知っているわけじゃない。それはその人を知らないのと同じことだろうから」
魚から目を離した風は今度は俺の方を見てニコッと笑った。
「ま、息抜きになればいいね」
「!―――…」
そう言って少し先を歩きだした風の後ろ姿を見ることしかできなかった。何も、言い返すことなんてできない。
だって、俺は信じると獄寺に言っておきながら、近づかないようにしていたのだから。それも、無意識のうちに。
そのことに、今の風の言葉で気付かされた。
「あ、ねえ。空たちの声しない?」
「え?あ、ほんとだな!」
「行ってみようよ。なんか、きっとまた馬鹿やってるよ」
結構近くにいるのか、獄寺のどなり声と、空の軽快な笑い声が聞こえてきていた。
「ほら、行こう?」
少し先で手招きしている風に、近づくべく足を動かす。
音の出所付近に行ってみれば、空が売店の店員と話していて、そのあとイルカショーの方へ行ってしまった。
行く時にちらっと見えたけど、獄寺が手に持ってたのってぬいぐるみじゃね?
「行っちまったな」
「あー、本当だね。みーさん。お久しぶりです」
風はさっき空が話していた店員に声をかけた。
「あら!風ちゃん!さっきまで空ちゃんと彼氏がいたのよ?って、あら。風ちゃんも彼氏づれね」
「え、いや、俺たちは…」
「もしかしてダブルデート!?」
「アハハ、4人で遊びに来ただけですよ。それより、迷惑かけてすいませんでした。さっきのぬいぐるみ…」
あ、風も気づいてたのな。こういう会話を聞いてると、風は空の保護者みたいなもんなんだな。
「あら、別に気にすることじゃないわ。私からのプレゼントよ」
「みーさんは空に甘いですね。相変わらず」
「あら?風ちゃんにも私は甘いわよ?」
「アハハ、ありがとうございます!それより、空達はどこに向かったんですか?」
「ああ、イルカショーがもうすぐ始まるのよ」
「あれ?もうそんな時間?」
風が携帯で時間を確認すれば、確かに待ち合わせの5分前だった。
「ほら、あと5分で始まるわよ」
「わっ!本当だ!じゃあ、私たちも行きますね。ぬいぐるみ、ありがとうございました」
「また、遊びに来てね!」
「山本、行こっ!」
「おう!」
走り出した風についていくように、俺も走り出す。
「って、キャッ!」
「おっと…」
何かに躓いた風はそのまま前のめりに倒れそうになった。それを反射的に手を伸ばし、後ろから抱えるように止める。
「……あ、ありがと」
「ハハハ、風って意外とドジなんだな」
「ひ、酷っ!そんなことないから!ただ、転びやすいだけで…」
顔を真っ赤にして、まだ俺が半分支えたままで反論してくる風。
「って、も、もう大丈夫だから!は、離し…」
「風って、結構軽いのな」
腕を離すと、少しよろけながらも自分で立ち上がった風。
「なっ!」
「ハハハ、顔真っ赤」
「や、山本がからかうから…っ」
腕で顔を隠すようにしているけど、隠れきれていない部分はリンゴみたいに真っ赤だった。
「ほら、行こうぜ?獄寺たちに怒られちまう」
「や、山本!?」
風の手を取って再び走り始めれば、眼を丸くしながらも走りはじめた風。また、顔真っ赤だな!
「また転ばないように、な!」
「……こ、転ばないわよ!」
あと5分ということで、俺たちは空たち同様走ってイルカショーの場所に向かった。

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