学校でデジャヴ

昼休みになり、私と空は鞄を持っていつも食べている場所に来ていた。


ここは、教室のすぐ近くで、休憩スペースと言ったほうが近いかもしれない。壁際に椅子が設置されていて、日当たりもいい。廊下で行きかう人もよく見える。まあ、それはどうでもいいんだけど。


学校では普段大人しくしている私たちにとってこの時間は唯一学校内で気が抜ける時間だった。ここにはあまり皆注意を向けないから。


「あ、弁当忘れた」


「え、うそ!あ、あたしもだ…」


鞄を開ければその中にあるはずの弁当はなくて、忘れたことを物語っている。そして、それは空もだったっぽい。


2人して忘れるとか本当についていない。取りに帰るということもできる距離だけど、それさえも億劫と言わざる負えないのが、この学校の位置にある。


この学校はなぜか山の上にあって、家からは坂道を登ってこなければいけない。周りを見れば木ばかりで、それでも夜になれば下に見える夜景がとてもきれいだ。


山という事で、多少は涼しいものの…やっぱり、暑い。


「どうする?購買で買ってくる?」


「げ、あたし財布忘れた」


「私もそこまで所持金ないんだよな…」


二人で顔を見合わせる。これは昼抜き確定かもしれない。今日は本当についてない。


朝は朝で遅刻しそうになるし、今日は私の出席番号と同じ日付だから先生には毎時間当てられるし。…ついてない。


自然とでてくるため息にお腹が静かに空腹を訴えた。


「しょうがない。なけなしのお金で何か買おっか」


パンの1個や2個は買えるでしょ。そう思い立ち上がったところで、廊下の向こう側から黄色い声援が。


黄色い声援にはいい思い出がない。というか、こういう声援は最近聞いたばかりじゃなかっただろうか。…デジャヴ?


「ねえ、空?デジャヴ?」


「…そうじゃないことを祈るけど」


空も同じことを考えていたようで少し安心。って安心している場合じゃないんだけど。そんな不安をよそに、黄色い声援はどんどん近づいてくる。


この学校の廊下は、中央部分でZ型に折れ曲がっていて、私たちには向こう側に誰がいるのかなんてわからない。そう、わからないんだけど、的中してしまいそうな不安にただ角を見つめるしかできなかった。


「お!いたいた!」


「やっとかよ…」


角を曲がって女子を後ろからひきつれてやってきたのは、黒髪に爽やか笑顔と、銀髪に仏頂面の彼ら。銀髪のほうは本当に不機嫌そうに眉を寄せている。


「な、なんで…」


「ホラ。弁当。忘れてっただろ?」


そう言って山本が差し出した紙袋の中には確かに私が今朝作った2人分の弁当が。


「あ、ありがとう…」


「って、違うから!これじゃ買い物のときと一緒だよ!」


「うっせえ!だいたい―…」


獄寺の言葉を遮って校内放送が鳴り響いた。


≪2年4組、伊集院空さん。理事長がお呼び…、り、理事長!?≫


≪我が愛しの空ちゃーん!≫


≪ちょ、理事長!今呼んでますから、大人しくしててください!≫


≪待ってるよ〜≫


≪ゴホンッ。伊集院空さん。理事長がお呼びです。今すぐ理事長室においでください≫


「………サイアク」


「い、今のって…」


獄寺が天井を見つめながら言う。その言葉に空は心底嫌そうな顔をするから変わりに私が説明する。


「そう。今のが空のお父さん。聞いての通り親バ…空が大好きで、目に入れても痛くないって感じ。だから、今日の昼休みにでも取りに行くって言ってたけど…」


「完璧忘れてた…」


「ハハハ、空の親おもしろいのな」


「笑い事じゃない!あんの、馬鹿親!人の気も知らないで!」


騒ぎ出しているクラス内の生徒は、今の放送に絶句していた。


「ちょっと、言ってくる!風、あとお願い!」


「え、ちょ、待っ!……この状況をどうしろというのさ」


走っていく空の後ろ姿を見送る。空が通るたびに空のことを指差している生徒がいる。これからしばらくはまた噂の的だろう。まあ、大っぴらには言えないだろうけど。


「さて、とりあえず、お弁当ありがとう。で、悪いんだけど、私これからクラスの人らをちょっと宥めてくるから」


「じゃあ、俺らは帰ってるな」


「うん。ごめんね。わざわざ来てくれたのに。ありがとね!」


「いいって!じゃあな」


「うん。バイバイ」


帰っていく時も、山本は皆に笑顔を振りまいて、獄寺は眉間にしわを寄せている。けど、ダイナマイトは出さないようなので一安心。


「ねえ!春日さん。彼らと知り合い?」


私の前には、先ほどまで山本達2人を見てキャーキャー騒いでいたうちの3人組みだ。立ちはだかる3人に私は内心ため息をついた。


「えっと…見たまんまですよ」


「そう。もしかして、彼氏とか?」


「アハハ。そんなワケないじゃないですか」


苦笑しか出てこない。つい最近会ったばっかなのに付き合うも何もないでしょ。だいたい、彼らは漫画の中の人物なのに。って、同じ学年なのになんで私敬語使ってるんだろう。


「って、ことで私ちょっと用事があるので失礼します」


私の前に立ちはだかる3人の横を通り過ぎようとしたところ、リーダー格っぽい人に腕をつかまれて引きとめられた。


「どういう関係か聞いてないわ」


そんなことどうでもよくない!?って、内心思いつつなんて言おうか迷う。


友達、ってわけでもないような気がするし、居候なんて絶対言えないし…、でも何かを言わないと離してくれなさそう。


「……従兄みたいなものですよ」


「従兄?」


嘘ついてごめんなさい。でも、今はとりあえずこの嘘信じてて!そして、離して!早くフォローに行かないと後からめんどくさいから!


「そう…。引き留めてしまってごめんなさいね」


「いえいえ。では、これで」


謝るならしないでほしい。さて、教室に入れば、さっきと同様囲まれている状態の私。理由は2つ。


さっきの3人組みと同じように山本と獄寺のこと。そしてもう一つは、あの放送について。


「ねえ!どういう関係なの!?」


詰め寄るのは女子ばかり。男子は向こうの方で話し合っているだけ。さて、これはなんて答えるべきか。キラキラ輝いている瞳には新しい話題を見つけた喜びが光っている。


でも、どうやら山本たちのことで理事長と空のことは頭から抜け落ちてるみたい。


「どういう関係も何も……あの2人は従兄ってことで。あの放送は…気にしない方向でお願いします!」


何それといいながらつまらなそうに散っていく面々。そんな面白半分でかき回されてたまるか。


「おい。お前に従兄なんていないだろ」


「あ、匠。うん。いないね。でも、誰の従兄とは言ってないよ?」


私の側に来て小声で言ってくる幼馴染の匠。幼馴染なせいか家族構成もろもろ知れ渡っているから、私についての嘘なんてそんなにつけない。


「……伊集院のか?」


「情報はここまで。いくら匠でもこんなところで何も言わないよ」


こんなところで言ってしまえば周りの思うつぼだ。ほら、聞き耳を立てている子なんてたくさんいる。話している様で、耳と神経はしっかりこっちに向いているんだ。


「お前の、彼氏じゃないのか?」


なんで、みんな彼氏だって思うんだろう。別に友達という方向もあるはずなのに。


「私って彼氏いたんだ」


わざとらしく驚いたふりをすればため息をつかれてなんでも無いと言って、男子のもとに戻って行った。


匠には悪いけど、山本達については何も話せない。話したところで、REBОRNのことは忘れてしまっているんだから。


ハア、今日は本当に厄日だ。


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あきゅろす。
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