蛇だけが目撃者

薄暗がりをずるり、ずるりと何かが這いずる音がする。


それは長い廊下をゆっくりと進んでいき、とある部屋の中へ身を滑り込ませた。体を左右にくねらせ這っていくそれは大きな蛇だった。太さは大人の腕のサイズはあるだろうか。体調は3メートルを優に超えている。


シュー、シュー、と同時にチロチロと赤い舌がのぞいた。


そんな蛇が部屋に入ってきたことも気づかないほど部屋の中は緊張感に包まれていた。


「準備はいいか……?」

「俺が負けるわけないじゃろ」

「よっしゃ、やったるで!」

「僕が勝ちますよ」


全員がぐっと拳を握りにらみ合った。


そして合図と同時に拳を振りかぶった。


「「「「じゃん・けん・ぽん!」」」」


「よっしゃ!」

「ほれみたか!」

「くっそっ、やっぱりパーやったんかっ」

「くっ……!まさかこの僕が負けるとは……!」


こうして勝者と敗者が別れた。一気に弛緩する空気。いつのまにか蛇は主人が座らない執務机の上でとぐろを巻いて眠りについたいる。


「はーっ、まったく。どこの組織に裏切りもんの始末をボス自ら行くやつがおんねん」

「はーい、ここにいまーす」

「アホか!普通こういうんは部下の仕事やろうが。つうかお前はもっと部下に仕事回せや」

「そんなこといったってなあ。俺もいきたいし」

「まったく。あなたは昔っから……。数日留守にすることになるんですから、仕事はあとで徹夜で片付けてもらいますからね」

「ええ!?なんでだよ!」

「当たり前でしょう。あなたのワガママなんですから」

「ちょ、俺ボスなんですけど?」


ボスが顔を引きつらせるが、男たちは容赦なく前倒しの仕事の段取りをつけ始める。その様子に抵抗できないと感じたのかボスはがっくりとうなだれた。


「ええなあ。あっち異世界なんて滅多に行けんやん。お土産よろしゅうな」

「俺たちは旅行に行くんじゃないぜよ」

「わかっとるっちゅうねん。せやかて異世界やで!異世界!なんや、人間じゃないやつとか変な能力あるやつとかおるかもしれんやろ!?」

「残念ながら彼女たちが飛んだ世界はこの世界と類似した世界だと調査結果が出ています。つまり、宇宙人だとか特殊能力だとかはありません」

「がーんっ!!」


和気藹々とした空気が流れるがその間もてきぱきと準備は勧められていく。


「あ、そうだ。ボンゴレが来たら適当にごまかしておいて」

「こちらに来ますかねえ」

「来んじゃろ。ボンゴレははるか高みから俺らのことを見下しとるしな」

「ま、来たら丁重にもてなしてやるから任しとき!」





「じゃ、殺しに行こうか」




その一言を合図に部屋から二人の影がいなくなった。残った二人は各々の仕事を片付けるために散っていく。


この部屋の様子を机上の蛇だけが見ていた。


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あきゅろす。
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