素直に甘えてみた結果

「うっわ…」

「何?空?」

「また何か壊したのか」

「はは、そりゃ大変だな」


四人で食料調達にスーパーに出向き帰ってきて早々、エアコンのリモコン片手に、寒いこの部屋を暖めようと、リモコン操作するも、何故か動いてくれない。あ、前にもあったな…こんなパターン。


「故障かな?」


ブンブンリモコンを振り回しながらそう言えば、パシッと手を止められた。


「痛いよ。隼人」

「痛いよじゃねぇだろ!貸せ」

「あ…」


隼人は、あたしからリモコンを取り上げると、ピッピッとボタンを押してる。でも壊れてるよ。また…ね。


「前にもこんなことあったよなー」

「あの時は、武が悪いんでしょ」

「はは、違ぇね」


風とたけちゃんの会話を聞きながら隼人を見上げれば、やっぱり壊れてたのか嘘だろ、的な表情。言っとくけど壊したのあたしじゃないからね!


「風、どうしよ」

「とにかくご飯ね。食べてお風呂はいっちゃえば、温かいって」

「んなわきゃねーだろ!」

「でも、ま、腹減ってちゃ何も出来ねぇしな」


皆の意見、あたしは全部正しいと思うよ。確か今日の食事担当は、風だから先にお風呂いっちゃおうと。


「じゃお風呂いってきまーす!」

「空、てめっずりーぞ!」

「早いもの勝ちよ!」


隼人も同じことを考えてたのか、抗議の声を上げてくるけど、そんなの知らない。大体レディーファーストでしょ!


「んじゃ、手伝うぜ。風」

「でも今日の食事当番て私だけど…」

「ん?俺が手伝いたいだけだからさ」

「ありがとう」


ご飯の支度を始めようとした風に笑いかけて頭撫でてるたけちゃん。これよこれ。二人が人目気にせずに、ラブラブだから、ここにいるの気まずいっていうか、お邪魔じゃん?


「頑張れ隼人」

「あ?!ふざけんな!」

「直ぐ戻るって!」


まだギャーギャー言ってる隼人の肩をポンッと叩くと、足早にお風呂に向かった。




***


「寒いね、やっぱ」

「着てろよ」

「え、あ、ありがと」


何だこの会話!何だよこの甘ったるい空気は!俺がいること完全に無視しやがって。空の奴は直ぐとかいって、まだあがってこねーし。


「だから嫌だったんだよ、畜生」


同じ空間にいるだけで、むしゃくしゃしてくる。いつも自分の隣にいる存在がいないだけで、こうも落ち着かないのは、我ながら情けないと思うところではあるのだが。

部屋の中も寒ぃのに、煙草をベランダでなんて考えにはいきつきもしなかった。

手持無沙汰に、テレビのチャンネルをかえては、待ち人の現れを待つ。


「お待たせ」


食卓のテーブルに、頬杖をついていた俺は、ふわっと香った甘い特有の香りに顔を上げる。同じものを使っているのに、なぜか違う空のそれは、ひどく心を落ち着かせるものだった。


「遅ぇよ」

「ごめんごめん」


俺の目の前で苦笑してる空に、さっきまでの苛々がスッと引いた。相当だな、俺も。


「お風呂温かいよ。入ってきたら?」

「……」

「隼人?」

「…───」

「なっ」


お前が悪いんだからな。空の手を引いて、こいつにだけ聞こえるように耳元で囁いてから、椅子を引いて立ち上がった。


だあー、もう!赤面してんじゃねぇよ。こっちのが恥ずかしいっつの。

言って後悔はもう手遅れで。
返事も聞かぬままに、風呂へと向かう足は、心なしか足早だった。




***


「空、真っ赤だけど…」

「えっや、ちがっ」

「獄寺に何かされたか?」

「まだ、されてないっ!」


風とたけちゃんに指摘されて、益々赤くなるあたしの爆弾発言に、二人はきょとん、とした顔をしてから、苦笑してる。これも全部隼人のせいよ!



¨もう一回、一緒に入るか¨


そんなのまだ早いんだから!





***

あれからお風呂からあがってきた隼人君と、空のぎこちない様子に武と笑いながらちゃかして、私と武も順番にお風呂に入ると、個室のエアコンも駄目になっている為、リビングに布団を敷き詰める。


皆で寝た方があったかいだろうしね。


「ね、風。アイスとって」

「はぁ?こんな寒いのにアイスかよ」

「うっさいな」


そりゃ、お風呂上がりのアイスは日課だもんね、私たち。


「イチゴ?」

「うん!」


冷蔵庫から空のイチゴアイスと私の好きなアイスを取り出すと、皆が集まるところに向かう。


「はい」

「ありがとっ」


渡すなり、直ぐに毛布にくるまって食べる空に笑いながら、私も布団に入ってアイスを食べる。


「「美味しいー」」

「綺麗にはもってんのな」

「け、寒いとか言って、アイスなんか食べる奴の気がしれねぇ」


日課なんだから仕方ない。二人してアイスを手にしたまま顔を見合わせて笑いあう。それにつられて笑う武。


「食べる?」

「お、んじゃ一口」


私が差し出したアイスを一口と食べた武に自分で何してんだろ。とか思いながら感じる幸せ。こういうのもたまにはね。


「隼人は、欲しいって言ってもあげない」

「い、いらねぇよ!そんな冷たいもん」


ったく、二人とも意地張っちゃって。もっと素直になればいいのに。特に隼人君。この人、中学生からちゃんと成長してんのかしら。


「アイツ等、あれで上手くいってるってのがまたすげぇよな」

「だよねー」

「まあ、あれがアイツ等のスタイルだからいいんだけどよ。見てて飽きねぇし」

「本音は後者でしょ」

「はは、ばれたか」


私もだよ。隼人君と武がきてから毎日楽しいし、退屈とは無縁の生活サイクルがまわってる。それは、きっと空も同じ。だからね。


「空」

「ん?」


少しは素直に甘えてみなよ。それを空に伝えてからニコリと笑ってみせる。


「……」

「何だよ」


空は照れ笑いをした後に、隼人君を見上げて何か言うみたい。何だろう。空って無自覚にこういうオーラ出すから、隼人君色々大変だと思うわ。


「寒いから温めて」

「……なっ!おまっ、いきなり何言い出すんだよ!」


何を言い出すかと様子を伺っていれば、とんでもない爆弾発言。そりゃあ赤面だよ。聞いてるこっちが恥ずかしい。誤解を招くような言い方と仕草。空自身は無自覚だから、なおのことたちが悪いのだが。


「だっだって!寒いんだもん!」

「も、毛布にくるまってりゃいいだろーが!」

「隼人のが温かいの!」

「だ、だから意味分かって言ってんのかお前は!」


二人して赤面してて面白い。多分、空はただ単に抱きしめてと言いたいだけなんだろうけど、隼人君は深読みしすぎよ。

まあ、こういうのは、深読みしたいと思う男心もくみとってあげないといけないのかしらね。


「武」

「ん?」


全く世話がやけるんだから。でもま、普段いろんな意味で意思表示の少ない私も、少しは空を見習わないとね。


「私も寒い」

「!…おう、こっち来いよ」

「温かい…」


一瞬キョトンとしてから、後ろの二人を見て、私の言いたいことが分かったのか、両手を広げて来いよ。って言ってくれた武の胸に飛び込む。


「なっ」

「ほらー。あーゆー事だってば!」


指さして言う空に武と顔を合わせて笑い合うと、隼人君がやっと理解したのか、頭をくしゃっとしてから空を引っ張った。


「やっぱ隼人温かいっ」

「だから恥ずかしいこと言うんじゃねぇよバカ」

「バカって言うな!」

「文句あんなら離すからな」

「や、やだっ」


必死にしがみつく空を苦笑して抱きしめてる隼人君は全く離す気はないみたいで、思うように動いてる空が何だか微笑ましく思えた。


「風」

「ん?」


そんな私をさっきより力を込めて抱きしめてきた武を見上げれば、ニッと悪戯な笑みを浮かべていて。


「今日、このまま寝っか」

「え?」

「ん?」

「バ、バカっ」


たまにはエアコン壊れてこんなイベントが起こるのもいいんじゃない?って思えたそんな夜。


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