右の中指にきらり

「自由時間だが、時間はきっちり守るように、班行動だからな!」

「んな野暮なこと言うなよ、先生」

「そうだ!そうだ!」


2日目の今日は、ほとんどが自由時間だ。班行動とはいっても、各々が自由に取れる時間を、班で縛られることはない。

先生もたぶんきっと、暗黙の了解で見逃してくれる案件は多いんじゃないかな。


現に今、飛ばされてる野次に対しても、叱責するでもなく、軽くあしらって、解散とかって言ってるしね。


「隼人」

「何だよ」

「四人で回る??」


こてんと首を傾げて自然とつながっている手をくいくいっと軽く引けば、一瞬考えるようにしてから、ぎゅっと握った手に力がこもった。


「お前は回りてぇのかよ」

「んー、隼人と二人でデートしたい!」

「っ?!」


四人ではいつも一緒にいる。それこそ、一緒に住んでいるのだから、もはや生活の一部のようなもので。


だから、こんなときだけでも、隼人と二人でのんびりできたらいいなと、そう思っているのはきっと、あたしだけじゃないんだよね。


満面な笑みでデートしたい!なんて言えば、フイッと顔を背けられたけど、それでも隠れない耳が赤い隼人に、照れてる可愛いなんてからかえないけど、嬉しいよね。



「あいつらに見つかる前に行くぞ」

「え、ちゃんと言っていこうよ!」

「いいんだよ」

「あっ」


ぐいぐいっと引っ張られて、いまだ先生と生徒が何やらごちゃごちゃしている中で、そっと二人でその場から抜け出す。

風たちの姿を探したけど、見つけられなかった。あーあ、後で怒られないといいんだけど。


と、心の中では思いつつ、隼人に引っ張っていかれるのも、嫌じゃないというか、本当はすっごく嬉しいというか。


「どこいこっか」

「ラーメン食いてぇ」

「まだお昼には早いけど」


腹減った。その一言で、目的地は、ラーメン。まあ、北海道といえば、ラーメン食べとかなきゃなのかもだけど。スープカレーとかも有名じゃなかったっけ。


まあ、隼人はラーメン食べたいんだろうし、ちょっと早めの昼食済ませてから、ゆっくり回るのもいいよね。

何か想い出になるようなお土産選んだりしたいな。


学校の皆から大分離れたところで、どこに向かって歩いているのか、隼人についていくままぶらぶら歩いていれば、鼻を掠めるいい匂いに、二人で目を合わせる。


「ねえ、隼人」

「すぐそこだな」


うん、と頷いて、少し足早に先へ急げば、通りから少し外れた小さなお店を発見。


いい匂いって、お腹すいてきちゃうよね。


引っ張られていた手を、今度はあたしが引いて、匂いにつられて暖簾をくぐった。




***

「お腹いっぱーい」

「早すぎる昼飯のくせに、食いすぎだろ」

「隼人も人の事言えないでしょ」


二人してたらふく食べて身体もあったまったけど、やっぱり手は繋いだままでいてくれる隼人の優しさにきゅんとしつつ、次はね、と時間の許す限りデートを楽しむことにする。


お土産屋さんを何軒も回ってみたり、オルゴール館なんてのにも顔出して見たり。すっごい綺麗なところで、いくつも並ぶ宝石箱みたいなキラキラした箱に目移りしちゃった。


「結局、買わねぇのかよ」

「うーん、だって、こんないっぱいあったら決められなくない?」

「あれでいいじゃねぇか」

「どれ??」


ん、と隼人が顎で指した先にあったのは、手のひらサイズで、小ぶりの真っ赤な小箱。


「何で、この曲なの?」

「よく聞いてんだろ」


小さな小箱の下に書かれた曲名を見て、首を傾げれば、当然のようにそんな事言ってくれちゃう隼人。いくら同居生活が長いとはいえ、あたしが隼人の前で音楽を聴くことなんて、本当に数えるほどだと思う。


うるせぇな、とか、イヤホンしろ、とかギャーギャー言ってた記憶しかないのに、記憶力半端ないな。


あ、違うか。


隼人、ちゃんと覚えててくれたんだよね。



そっと赤いキラキラしたオルゴールを手にして、隼人をふり仰げば、何だよ、と仏頂面。


「ありがとう」

「は?」


何がだよ、と顔に書いてあるのを無視して、そのままレジへ。北海道のお土産には最適なのかと聞かれると、どうなのか分からないけど、取り敢えず、記憶に残る想い出を手にできたと思う。


あとは、ペアものでしょ!


「隼人は何か買いたいものない?」

「別に……」

「お揃いとかってうざい?」


一匹狼のごとく一人を好む彼が、彼女とおそろいのものなど身につけてくれるだろうか。


あんまり期待しないで、ちょっと下手に聞いてみれば、一瞬虚をつかれたような顔をした隼人だったけど、直ぐに盛大な溜息をついて、くしゃりと頭をかいた。


「シルバーなら、百歩譲ってやる」

「!…やった」


シルバーアクセサリーを常日頃身に着けてる彼らしい言葉だと思った。髑髏リングとかそういうごついのは、嫌だけど、シルバーアクセサリーってかっこいいよね。


「さっき通った道戻るぞ」

「え、何で?」

「店、あっただろ」


あったかな?
あんまり注意して見てなかったから気づかなかった。やっぱり、興味あるものは覚えてるものなんだね。


隼人に手を引かれるままに来た道を戻れば、暫くしてすぐにちょっと怪しい感じのお店とぶつかった。

え、なんか怖い。


「は、入るの?」

「ンだよ。いらねぇなら、このまま帰んぞ」

「あー!だめだめ!!」


ちょっと暗くて、いかついお兄ちゃんばっかりいるお店だったけど、ひとまず、隼人の気持ちが変わる前にと、お店にすべりこむ。


「お前、指何号だよ」

「えっと……」


これって、ペアリングってこと!?やだ、どうしよっ。こういう時って、さりげなーく、左の薬指のサイズとか教えとけって何かの本で読んだ!


というかそもそもね、自分の指のサイズとか把握してない!隼人みたいに普段からつけてないし。


「手」

「え?」

「手貸せ」

「わっ」


ぐいっと手を引っ張られたかと思えば、全部の指を一本ずつ自分の指で包んでいく隼人の指の繊細な動きに、びくっとする。


え、触っただけでサイズ分かるとかそんな少女漫画的展開あるの!?


「お兄さん、リングサイズはかるならこれ使ったら?」

「いらねぇ。触りゃ、大体わかる」

「うそっ!?」


店員さんの好意は完全無視。
慌てて、謝罪の意味を込めて頭を下げたあたしは、隼人に引きずられるまま店内の奥へ。


リングの並ぶコーナーに来たが早いか、あたしに意見を求めることもなく、一つ手に取って、左の薬指――じゃなくて、右の中指に、そっとはめる。


まさかのピッタリなんだけど!?


「何で、右中指?」

「いいからそこはめとけ」

「隼人は?」

「揃いにすんじゃねぇのかよ」

「うん、お揃い」


うん、と頷けば、もう一つ、同じデザインで、さし色がブラックのリングを手にした隼人は、サイズだけ確認して、そのまま、あたしの指から一度揃いのリングを抜き取って、お会計。あ、ちなみにあたしのリングは、シルバーね。


って、え!?
あたしに意見求めず決定ですか!?


とか思ったけど。


先に出てろ、と手で指示されるがままお店の外で待っていれば、ほら、と自分の手のひらにころり、と転がるリング。


値段見なかったけど、高くなかったのかな。隼人のお小遣い決まってるのに、足りたかな?


「はめてくれないの?」


何てかわい子ぶって言ってみれば、心底嫌そうに顔を歪めつつも、面倒くさそうにしつつも、あたしの手をとってリングをはめてくれる彼の手は、優しかった。


「隼人」

「何だよ」

「だいすきっ!」

「っ!?だ、抱きつくんじゃねぇ!」


お互いの右の中指にきらり。
隼人とあたしを繋ぐ一つの絆が、形になりました。


右の中指を選んだ隼人の意図を、この時のあたしは、知らないままにただ純粋に喜んでいた。


だから、言えなかったの。

ありがとうって。


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あきゅろす。
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