「次に、バスケットボールの優勝クラスの発表です…―」 司会をつとめる体育委員の一人がマイク越しにクラスを読み上げた。とたん、湧き上がる私たちのクラス。 保健室を出たあと、体育館に戻ってみれば接戦を繰り広げていた。そして、空と交代して試合に出た。その後は、接戦のままだったが私たちがなんとか勝利を収めた。 そのあとの男子決勝戦も、私たちのクラスが優勝。それも、大差をつけての優勝だったため相手チームが泣き崩れるというハプニングがおこった。後からわかった話だが、相手チームは皆、中学のときにバスケ部だったらしい。 正直、どんだけだ、と思わなくもないが、優勝は素直にうれしいためよしとしよう。 そして、景品は噂だった海外旅行などではなく、遊園地の招待券だった。クラス全員分だ。どんな金持ち高だと突っ込まれても何も言えないだろう。 そんなこんなで終わった球技大会。私たちは疲れた体を引きずるようにして家に帰ってきていた。 「あーっ、もう疲れた!」 「テメエはほとんどベンチだったじゃねえか!」 「最後活躍したもーん」 「風、足大丈夫か?」 「大丈夫」 心配してくれる武に笑いかける。足の腫れはまだ引いていないが、無理をしなければ問題ないだろう。 そのあとは各自シャワーを浴びて汗を流し、夕飯もすべて終えた後、リビングでのんびりと過ごしていた。 今まで、あんなにおびえていた空も今日のことがあったおかげかなんなのか、すっきりした顔をしている。ふと見せるおびえた表情がなくなったのだ。 これも獄寺のおかげか、と思うとなんだかむかついたので絶対に言わないでおこうと思った。 「にしてもさー、」 「何?」 テレビ画面ではお笑いコンビが自虐ネタで笑いを取っている。、 「風って、いつまで隼人のこと"獄寺”なの?」 「へ?いや、別に、変える必要はないんじゃ…」 なぜ唐突にそんな話になったのか。もともとマンガを読んでいたころから彼のことは獄寺呼びだったため別段気にしたことはなかったが、空はとても不思議そうに私を見る。 「えー、なんで!?だって、変だよ」 「てめえは、いちいちうるせえんだよ。別に呼び方ぐらい、」 「ほら!隼人も名前で呼んでほしいって!」 「テメエ!人の話聞いてやがんのか!?」 「なんだ、獄寺も風に名前で呼ばれたかったのか?」 空がからかうように獄寺もそういっていると繰り返すのに便乗して、というより本気でそう思ったのかもしれないが武も話に乗ってきた。 なぜこうなったのか、と苦笑する。 「お前は黙ってろ!野球バカ!だいたい、こいつなんかに名前で呼ばれたくねえんだよ!」 「えー、そこまで言われちゃうと呼ばなきゃいけなくなるじゃない」 「なんでそうなるんだよ!」 「だって、ねえ?隼人…、君?」 「き、キモチワリイ呼び方してんじゃねえ!」 背筋を震わせ顔を青ざめさせた獄寺改め隼人君に失礼な、と顔をしかめる。あんな、フラグを立てられてわざわざへし折るほど、私もノリの悪い人間じゃない。ということで、わざと呼び捨てれはなく敬称をつけてみれば、思った以上にしっくりこなかった。 「わー!風が隼人の名前で呼んだ〜」 「じゃあ、今度からは隼人君って呼ばせてもらうわね」 「んなっ!!」 クスクスと笑いながらそう言えば、心底嫌そうな顔をされた。しかし、その顔を見て、大爆笑したのが空。そのせいで、また言いあいが始まったのは言うまでもない。 嫌がらせのつもりでもう一度呼んでみたが、案外これでもいいかもしれない。隼人君の面白い反応もみれたことだし。 とりあえず、二人のそばを離れて武のところで行けば、少しむすっとした表情の武がこちらを見ていた。 「…何?」 「…なんでもない」 「…なんでもないって顔してないわよ?」 「なんでもねえよ」 「…何拗ねてるの?あ、もしかして私が隼人君って呼び方に変えたから、とか?」 冗談半分で言ってみれば、ふいっと顔をそ向けられてしまった。あらら、図星だったんだ。そんな武が、なんだか可愛くて、思わずクスクスと笑っていると、今度は睨まれた。 「笑うなよ」 「ふふっ、ごめんね?」 しばらく、こうやって拗ねている武を見ているのも面白いかな、と思って顔を覗き込めば想いっきり押し戻されてしまった。 諦めて、いまだに言い合いをしている空たちの方をみると、なぜか二人の手は繋がれていた。というより、隼人君が空の手を握っているといったほうが正しいのかもしれない。 しかも、言い合いの内容が少し変わっていることにきづいた。 「……ねえ、空、隼人君」 「テメエ、本気でそれで行くつもりか」 「当たり前じゃない。そんなことより、二人はやっと付き合い始めたの?」 「え?」 「…………」 いまだに繋がれている二人の手に視線をうつし、今まで以上に近い二人の距離を見る。どう見ても、いちゃついているようにしか見えない二人。 「だって、手、つないでるし」 指摘した途端二人は顔を真っ赤にして、空が勢いよく手を振り払った。 「ああああ、あたしもう寝る!」 今にも頭から湯気をだすのではないかと思われるほど顔を真っ赤にした空が、そのままの勢いで部屋へと駆け込んでいく。 その間隼人君は顔を真っ赤にしたまま茫然とそれを見送っていた。 「隼人君?」 「チッ、たばこ買ってくる!」 私の呼びかけで我に返ったらしい隼人君が空と同じく勢いよく立ち上がるとドタバタと出て行ってしまった。 残された私たちはお互いに顔を見合わせる。 「何か、あったみたよね」 「そーか?」 首をかしげる武にため息をつく。 あの様子なら、二人がくっつくのは早いかもしれないな、と思いながら私たちもそろそろ寝ようかと立ち上がった。 |