大きな体育館。あたしたちはそこにきていた。そして、皆して、目の前の惨状について何があったのかという推測を立てていた。 いや、何があったのか、なんて分かっているんだけど、なんでこんな状態になって、こんな情けないことになっているのか、だよね。 目の前の状況を説明すると、舞台の上に、男子生徒(1年)の二人が半裸にされて、背中にはマジックで『僕たちは、夜這いをかけた変態です』と書かれていた。そして、その男子生徒たちは、目に涙を浮かべて、顔を真っ赤にして、後ろ手に縛りあげられている。 なんというか…、かわいそうになって来るよね…。でも、夜這いなんてサイッテー! 「うわあ、すごいね…。というか、夜這いかけられたの誰だったんだろ?大丈夫だったのかな?」 「…大丈夫だったんじゃない?じゃなかったら、さすがに、こんなことになってないでしょう?」 「…ハハ、そうだな(こいつらなんだけどなー、その夜這いかけられた相手って)」 「まあ、こんなことになったらもうやらねーだろ(俺達がやったことだしな…)」 それぞれがそれぞれ、思っている間に、騒ぎを聞きつけた生徒会の人たちが走ってきた。その一番先頭には南先輩がいた。 「ちょっと、通して!通して!」 南先輩は人ごみをかき分けて、舞台の前にくると、彼らの体に書かれている文字を見てあからさまに顔をゆがめた。 「おい、相模」 「…ハア、今君にかまってる暇はないんだ。見ての通り」 珍しい。隼人が南先輩に話しかけちゃってる!今日は雪が降るかもしれないっ! なんて思ってたら、あからさまに顔をゆがめていた先輩と目があった。そして先輩は、眉間のしわを解いて、笑いかけてくれちゃった!かっこいいよね!王子様スマイルってやつ? 「おはよう、空。昨日はよく眠れた?」 「はい!なんでか、昨日、途中から記憶がないくらいぐっすり眠りました!」 「そう、それはよかった」 そういって、頭をなでてくれた。やっぱ、先輩がお兄ちゃんだったら、もう、本当に最高だよね!匠君がうらやましい! 「おい、相模!無視してんじゃねえ!」 「…ハア。で、何?」 「まあ、まあ、獄寺。落ちつけって。後でゆっくりでもいいんじゃねーの?」 「いいよ。どうせ、彼らに事情を聴かなきゃいけないからね」 「……こいつらが、夜這いかけた相手って誰かわかるか?」 「は?俺が知るわけ…、!!まさか…」 風とおしゃべりをしていたら、先輩が急に近寄ってきた。あたしは訳がわからずに頭にはてなを浮かべていた。 「せんぱい?」 「……獄寺君。なんともないんだよね?」 先輩はあたしの頭に手を載せてなでなでしながら、隼人を振り返る。なんの話してるの?? 「見たまんまだろ」 「ま、俺達も遊びに行ってて、そこにいたしな!」 「………それを見逃すことで貸し借りは無しだね」 「ケッ、てめえはさっさとテメエの仕事しやがれ」 「…空。隙なんてみせちゃだめだよ?」 「へ?」 どういう意味?というか、なんの隙?? でも、先輩は私の頭を再びポンポンと叩くと、舞台の上へと登って、指示を出し始めた。なんかよくわからないけど、かっこいいなあ先輩。 そのあと、生徒会の人たちに体育館から追い出されちゃった。 「あ、もしもし?」 風の突然の声に、驚いて振り返れば、携帯を耳に当てている風。あ、なんだ電話か…。 「あ、本当?どうだった?」 「おい、これから、どうするんだよ」 風を見ていたあたしは隼人の問いかけに、うーんと首をかしげる。今日は、文化祭の後片付けを午前中にして、午後からは休みになっている。明日からは普通の授業。 「あたしたちは、片付けって言う片付けないから、確か、一度教室にもどるんじゃなかったっけ?」 そんなことを離している間に、風の電話は終わったみたい。 「誰だったの?」 「んー…、ちょっと、ね。それより、これから教室に行くでしょ?」 「うん」 あたし達は、ゆっくりと教室に向かって歩き始めた。その間も談笑をしていたけど、風はどこかうわの空だった気がする。 「あ、おい!伊集院!」 「え、」 教室の前にいた男子に突然名前を呼ばれて、思わずビクッと肩が跳ねる。顔が引きつるのが分かった。 「道具片付けたいんだけど」 唐突にそう言われて、は?と首をかしげてしまう。というか、片付けたいなら片付ければいいじゃん。なんであたしに言う必要があるの?? 「道具って借りた奴は返すんだろ?」 「う、うん…」 目の前にいるのは、同じクラスの勝井利次(かついとしつぐ)。あたしの大っきらいな男子の一人。というか、なんであたしに話しかけるの!?声聞くだけでも、拒絶反応が出ると言うのに。 「その、リストは?」 「は、そ、んなの、知らないし…」 目の前に立つ勝井から視線をそらして、助けを求めるように風を見る。風はその視線を正しく受け取ってくれたのか、少しだけ眉根を寄せてから、溜息をついてあたしの横にたった。 「それは、大道具の人がもってるはずでしょう?」 「春日…。それが、誰も持ってないんだって」 チラッと、風からたけちゃんに視線を向ける。たけちゃんって確か大道具だったよね?知らないかな…。そう思っていると、上手いこと通じたのか、たけちゃんは風の隣に立った。 「それなら、田戸が持ってるはずだぜ?あいつ、リーダーだしな」 「山本…。じゃあ、田戸ってどこにいる?」 そんなの、自分で探せばいいじゃん!なんであたし達に聞いてくるの!?あーもう!苛々する! 「いや、それはさすがに知らねえな」 苦笑して申し訳なさそうにするたけちゃん。 「いいわ。私が探しておくから、」 「オレも、一緒に探すよ」 勝井がそう申し出るのを、風はやんわりと断った。オレも、じゃなくて、アンタだけで探せばいいのに。田戸は、勝井たちと仲がよくて、結構一緒にいるはずだから、居場所ぐらいすぐにわかるはずでしょ!? 「ありがとう。でも、探すのは一人でできるから、教室にある、片付けられるものを先にお願いしてもいい?」 「お、おー。わかった」 ぎこちなくうなずき、教室へと入っていく勝井を見送ってから、溜まっている苛々を吐き出そうと、盛大に溜息をついた。 「…空。挙動不審」 「う…っ。しょ、しょうがないじゃん。いきなり話しかけられるなんて思わなかったんだもん!もーっ、嫌!本当に、ダメ」 頭を振って否定していると、隼人が訝しげにこっちを見ていたから、あたしがあいつのことを嫌いだということを説明する。だって、授業中とか、うるさいんだよ?こっちは、集中したいって言うのに、ぶつぶつうるさいし、今だって自分で探してみればいいのに! 「ハア、じゃあ私は田戸を探してくるから、教室の方はお願いね。空」 「えーっ!?無理無理無理!あたしも一緒に行く」 「リーダーが二人も抜けてどうするのよ。獄寺たちもいるんだし大丈夫でしょう?」 「えーっ隼人ー?」 「……おい、」 「だって、隼人なんて、気が付いたらサボってるのが目に見えてるもん」 「テメエ、言いたい放題言いやがって…」 「だって、本当のことじゃん!」 「ハハ、まあ二人とも落ちつけって」 「じゃあ、田戸が帰ってきたら連絡して」 風はそう言うと、あたしの頭を人撫でして廊下の先へと走って行ってしまった。うーっ、田戸のバカヤロー!というか、勝井が話しかけてこなかったらこんなことにはならなかったんだ! 「さっさとやっちまおうぜ?」 たけちゃんのその一言で、あたしたちは教室に入って片づけをし始めた。それから15分後、風が田戸からリストのありかを聞いて帰ってきた。田戸は部活動の方にいたみたい。 「勝井。はい。これ、リスト」 風が差し出したリストを無言で受け取ると、彼は取り巻き連中と一緒に、そのまま帰るからと言って鞄と返す道具類を持って学校から出ていった。 ありがとうぐらい言えよ!!本当に、礼儀がなってないんだから!そのあとは、うるさい連中が全員勝井と一緒に行ってくれたおかげで、何事もなくスムーズに終わって家へと帰ることができた。 |