4人で談笑していると、俺と獄寺は視線を交わした。外に気配がする…。2人、か?風と空を見ても、気づいていないようで、そのまま楽しそうに笑いあっている。 これで、二人を警戒させて相手に気付かせるのは得策ではない。目線だけでそう交わして、そのまま談笑を続けながら相手の気配を探る。それに、何も悪いことが起こるってわけじゃねえしな。やっぱ、癖ってのはなかなか抜けねえから、こういうのって、結構敏感になっちまうんだよなー。 「にしても、劇の時は本当に吃驚したんだからね?いつから決まってたのよ」 「あれは、前にたけちゃんが言ってきたんだよねー?」 「え、まあな…」 「もう、だったら、最初っからそうしてればよかったのに…。台詞は違うし、立ち位置も違うしで、皆困惑してたじゃない」 「良いじゃねえかよ。な!獄寺」 「俺に振るんじゃねえよ。つーか、声抑えやがれ。近所迷惑だ」 「近所って言うか、部室迷惑?」 空がそういって、ケラケラと笑った。俺と獄寺はその様子に苦笑を浮かべる。風は今日はテンションが高いのか、一緒になって笑っていた。学校で、ここまで笑ってるってのは久しぶりだな。つーか、俺がキスしたのってわすれられてるのか?今、掘り返すつもりはねーけど、それはそれでさみしーよな。だって、結構本気でやったんだぜ?言葉だって、まだ伝えるときじゃねえと思ったからイタリア語で言ったけど、言ったことは本気だったし。 「そろそろ寝る準備しよう?二人もここで寝るでしょ?そのために、寝袋持ってきたんだものね」 「4人で寝るのって、最初の時以来だね!」 「え、ああ、そういえばそうだな」 「なんか、楽しーね!!」 「ハッ、ガキかよ」 「ガキなんかじゃないから!立派な大人ですー!」 「フンッ」 「あ、今鼻で笑った―!風!ちょっと、なんか言ってやって!」 「あー、はいはい。空は大人だもんね?じゃあ、電気消すわよ」 「って、流されたっ!うわーん、隼人のせい…、だ…」 「空!?」 獄寺へと、攻撃にならない攻撃をしていた空の体がいきなり力が抜けたようにストン、と崩れ落ちた。それを獄寺が素早くキャッチする。 「おい、空!!」 「え?」 電気を消した瞬間、暗くなった中で、電気を消しに立ち上がった風の体が傾いた気配がした。とっさに立ち上がって、地面に倒れる前に体を支える。 「風!?」 「山本…」 腕の中におさまった風はスー、スー、と小さく寝息を立てていた。獄寺が小さく俺を呼ぶ。獄寺の方に視線を向けて、うなずいた。 「…ああ。どうやら、いいことが起こるってわけじゃあなさそうだな」 「催眠ガス、か…」 獄寺が呟いた言葉に、とりあえず風を寝かせる。俺と獄寺は、マフィア修行のために、それなりに耐性はつけられている。よっぽど強力なものじゃなかったら、平気なんだぜ。 獄寺も、空を抱えて、とりあえず寝袋の中に入れてやっていた。二人とも、電気をつけようとは思わなかった。ま、暗闇にはなれてるしな。 ドアの外の気配を探れば、先ほどの二人が少しずつ近づいてきていた。俺は獄寺と視線を交わして、ドアから死角になるような、暗がりに身をひそめて気配を消す。獄寺はドアの後ろになるように、俺は月明かりの届かない暗がりに。 ドアが、錆びた音を立ててゆっくりと開いた。 「おい、どうだ?」 「ちゃんと、寝てるぜ。さすが先輩だよなー」 ひそひそ声で話す二人は、どうやら1年みたいだな。靴の色がかろうじて1年のものだと分かる。 「にしても、大丈夫なのかよ。こんなことして」 「大丈夫だって。ばっちりカメラだってあるんだし。それに、逆らうと俺達があぶねえって」 二人の男は中へと忍び足で侵入してくると、寝袋の中におさまっている風と空へと近づいた。動きそうになるのを、獄寺が隠れている場所から視線だけを投げて静止させる。 「へへへ、言ってただろ?寝てりゃあかわいいもんだって」 「調合も上手く言ったみたいだな。ぐっすり寝てる」 そう言って、一人が風の方の寝袋のチャックをおろし始めた。獄寺に視線を向ければ、まだだ、と相手を睨みながら訴えられる。ぐっと拳を握って、憤りを追いやる。 「誰も来ないよな」 「待ってろ、今ドア閉めるから」 空側に立っていた男がドアの方に近づき、廊下をのぞいてから扉を閉める。俺達の目の前を通っていくこいつへと手を伸ばしそうになるのを耐えた。 「じゃあ、とっとと、やっちまおうぜ?」 「了解」 二人は、寝袋から風と空を引きづり出すと、二人を床へと寝かせた。まだか、と獄寺に視線をやれば、ようやく、獄寺がうなずいた。それを合図に、二人で、背後に忍び寄る。 こいつらが一度、風と空から手を離したすきに、片手で口を封じ、足を払いのけて地面へと倒す。こいつらから洩れる悲鳴は俺の手のせいでくぐもったものへと変わった。 「てめえら、何しに来た」 俺が抑えている奴が、息を大きく吸ったのが分かり、大声をだされても面倒だから、もう片手を喉元に持って行って、軽く押す。そうすれば、ヒクッ、と喉を鳴らしただけで、声を上げることはなかった。 「なあ、教えてくれねえか?」 柔らかく聞いてみる。つっても、喉元にある手はどかさずに。押さえつけたこいつの体は震えていた。それも、そうだよな。俺達は、一応マフィアだし。殺気こそ出してねえけど…。 なかなか答えない二人にだんだん獄寺は苛々してきたのか、舌打ちを一つした。そんな音にも、押さえつけているこいつの体は震えあがる。 「俺はあまり、気が長い方じゃねえ。痛い目みたくねえんだったら、はいた方が楽だぜ?」 ニヤリ、と笑うのが暗がりで見えた。まあ、俺たちだって一部始終を見たり聞いたりしていたから、何をやりに来たかなんて、分かってはいるんだけどな。それに、お世辞にも、風と空の態度は学校じゃよくない。つーか、普段本当に笑わねえしな、風。なのに、この二人はわざわざ風たちの部屋へと訪れた。 風、もっと笑えばいいのにな。いや、でも、俺だけ知ってるんだったら、やっぱりいいか。笑わなくて。 「ふ、二人は、裏じゃ結構人気があって…、それで、その、えっと…、一度、ねえ?」 「ねえ?…じゃねえよ!果たされてえのか!」 「ヒィ!ごめんなさい!」 「あまり、怒らせねえほうがいいぜ?こいつ、結構短気だから」 「お前に言われたかねえんだよ!」 「ハハハ!まあまあ、落ちつけって。それより、こいつらどうする?」 「ああ?…そうだな…―――」 そうして、不穏な雰囲気の中、全てが明かされるのは、全てが終わった後だった。 (あれ、あたしっていつの間に、寝た?) (フン、覚えてねえのかよ) (私も…、電気を消した、のは覚えてるんだけど…) (ハハハ!二人ともつかれてたから、覚えてねえんじゃねえの?) ((?)) |