探りあいびきチャイルド

「お!やっと出番なのな!」


さっきから、そっけない桐島とともに、俺たちは先へと進む。まずは、保健室。夜の学校は暗いけど、いつも部活で夜遅くまでのこってっから、そこまで珍しくもねえんだよなー。


「なあなあ。この前、匠の兄貴と一緒にいなかったか?」


「誰のお兄さん?」


「えーっと、相模匠」


興味なさそうに聞き返してきた桐島の表情は一変して目を見開くものになった。驚いたその表情は、瞳の奥に少しだけ恐怖を滲ませている。俺、そんなに驚かれるようなこと言ったか?


「お、保健室だよな。しっつれいしまーす」


ガラッと保健室のドアを開けて中へと入る。後ろからついてきていた桐島は、下を向いたままだった。俺は中を探しまわる。


「ねえ、それ…、どこで見たの?」


「やっぱり、アレって桐島だったのか。バッティングセンターから帰るときに、街中で見かけただけだぜ?」


「……それは、私じゃないわよ。私が、彼といるなんて…」


表情を歪めて顔をそむける桐島。俺はそれを一瞥しただけで、すぐに紙を探しあてて次の場所へと向かうように促した。


聞いたのは、ただ風が何か言っていたからで、先輩は空と付き合ってるはずだし、今日だって一緒に回ってたらしいし、ちょっと気になっただけなんだよな。


「そのこと、空には言ったのかしら…」


「ん?言ってないぜ?」


「なぜ?」


「普通、自分が好きな奴が違う奴といたら嫌じゃねえか」


図書室へ入り、再び中を探す。桐島は探す気がないのか、図書室にある椅子にゆっくりと腰をおろしていた。


「探さねえの?」


「気分じゃないの」


「ハハハ…、そっか…」


まあすぐに見つけられそうだし、俺一人でもいいんだけどな。肝試しなんだし、もっと楽しんだ方がよくねえか?とりあえず先に進まなきゃいけないから、紙のありかを探す。それは一番奥にあった。次は生地実験室か。あれって、確か生物とかの実験で使うんだよな。


「桐島。あったぜ。次は生地実験室だってよ」


「………そう」


「怖いか?」


「なっ!怖くなんてないわよ!一緒にしないでくれる!?」


俺は怖くなんてねえんだけどな…。俺は苦笑いしながら、生地実験室へと向かった。行くときはほとんど無言だった。でも、階段を上っている途中で桐島はゆっくりと口を開いた。


「さっき、好きな人が違う人と一緒にいたら嫌だっていったわよね?」


「ん?言ったか?」


「言ったわよ!…ったく。あなた、春日さんが好きなのよね」


「!!…俺、バレバレなのか??」


「Mi piace tu.Io ho un dolore in lui vicino tu. Io non voglio ritornare.Io voglio toccarlo più. Io voglio darlo a nessuno.Io voglio che tu venga a piacere mi.…Come pensi a me, tu sai」


吃驚した。それは、確かに、俺が舞台の上で風に向かって言った台詞で、こいつどんだけ記憶力がいいんだ?


「どうして、あなたがイタリア語を話せるのか、なんて知らないわ。でも、日本語に訳して、『好きだ。お前の傍にいたい。帰りたくない。もっと触れたい。誰にも渡したくないんだ。俺のことを好きになってほしい。なあ、お前は、俺のことをどうおもってる?』なんて、こんな大胆な告白しておいて、バレないわけがないじゃない」


俺は、思わず口元を手で覆い隠した。こうやって、改めて自分の言ったことを日本語に直して聞かされると、俺ってすっげー恥ずかしいこといってねえか?


「随分と、お熱いじゃない?」


「ハハッ!まあな!それにしても、記憶力良いのな!」


頭の後ろに手をやってはずかしさを隠すように笑う俺を見て、桐島は深く溜息をついた。もう、暗いしな。疲れてんのか?


「ここだよな、生地実験室って」


「ええ、そうよ…」


「ここは、肝試しっぽいのな。ビン詰とかあって、おもしれー!」

「…………」


俺は、つかつかと中へと入って言って、紙がある場所を探す。引き出しの中を開ければ、お、懐中電灯発見。初めて入る生地実験室を、俺は目的なんか忘れて物色していた。部屋の隅に黒い布をかぶった何かがあって、それを撮ってみると、中からは人体模型が出てくる。


それと、手に持っている懐中電灯を見て、また椅子に座っている桐島を見た。そこで、俺は、昔ツナたちとやった肝試しを思い出して、もう一度やりてーなーと思いながら、教卓の後ろに人体模型を置く。


「なあ、桐島!ちょっとこっちきてくれ」


桐島に、持っていた懐中電灯を当てて呼びかければ、眩しそうに顔をしかめ、手でその光を遮断しながらこっちに歩いてきた。近くに来たところで、懐中電灯を消して、声だけをかける。


「こっちこっち」


「眩しっ!ちょっと…どこに…―――」


桐島が教卓の裏を除いたところで、俺は、人体模型の顔の下から懐中電灯の光をあてた。浮かび上がる半分人形で、半分筋肉の顔。それを見た瞬間、桐島は、目を見開いた。


「キャーーーー!」


学校全体に響き渡るんじゃないかっていうような悲鳴を出して、桐島はその場に耳をふさいでうずくまった。


「ハハハハッ!!桐島。大丈夫だぜ?ほら。人体模型」


正体を言ってやれば、桐島は恐る恐る人体模型を見上げた。そして、しばらく固まった後、すくっと、立ち上がった。


「何するのよ!怖いじゃない!」


「だって、ただ回るなんてつまらないしな!」


「つまらなくていいのよ!あーっもう!」


「まあまあ、落ちつけって」


「ハア、ほら、さっさと探して終わらせるわよ!こんなくだらないものっ!」


桐島は怒ったようにそう言い捨てると、ここで初めて、紙を探した。オレも、一緒に探して二人で見つけた後ゴールへと向かった。




***

ついにあたしたちの番が来てしまった…。ああ、どうしようっ!だって、先輩と一緒だけど、一緒だけど…っ!怖いものは怖いんだもん!


「大丈夫だよ。空俺がいるから」


ぎゅっと手を握ってくれて、私は少し安心した。怖いのは怖いんだけどね。


先輩が持っている提灯には、中にろうそく型電気が入っている。そして、提灯によって、その光はおぼろげになっているから、余計に周りが見えなくて怖い。なんか、そこだけが浮き上がってるみたいなんだよね。


暗闇と言えば、一回停電したとき会ったよね。確か夏休みの最後。ブレーカーが落ちちゃって、あたし怖くて隼人にしがみついてたんだっけ。今、自分の行動振り返ると、はずかしいたらありゃしない!


あたしたちはまず最初の場所、保健室に入った。先輩は生徒会だし、どこに紙があるかとかなんて知ってるから、あたしが探さなきゃいけないんだよ。うぅ〜、怖いのにっ!


「先輩、どこにあるんですか?」


「それはいくら空でも言えないなあ。面白くないだろ?」


「だって〜;怖いんですもん!」


「大丈夫、大丈夫。俺はここにいるから」


「絶対に、いてくださいよ?」


もちろん、と応えた先輩はどこか嬉しそうだった。なんでこんな怖いところにいて、嬉しそうに笑ってられるのー?あたしなんて、怖くてもう涙目だよ!


「空って、暗いのも怖いの?」


「夜の暗さはまだ大丈夫なんですけど…。こういう、保健室なんてお化けでそうじゃないですか…」


「お化けなんて信じてるの?かわいいね」


「幽霊って本当にいるんですから!」


「そっか、そっか」

 
「もーっ!」


ほほえましいとでも、言うように微笑んだ先輩は、あたしの頭を子供に対するようにポンポンと撫でた。バカにしてくれちゃって!


でも、やっぱ、暗闇だったら隼人思いだすよね。なんか、今思えばいろいろと隼人に助けてもらってる気がしなくもないし…。火事の時も、なんだかんだいって傍にいてくれたし…。そういえば、隼人って波音先輩と一緒だっけ?大丈夫かなあ?波音先輩。


「ほら、そんな幽霊の話しなんてするから…―――」


「え…」


ふっ、とほのかに照らしていた灯りが消えた。驚いて振り返るとそこには広がる闇。え、なんで…、なんで…灯りがっ!


「幽霊が来ちゃったのかな?」


暗闇の中で楽しそうな声がする。私は、怖くなって、その場に直立不動になった。耳をふさいで、目も閉じる。


やだやだやだっ!怖いよっ!助けてっ!


「―――〜はやとっ」


「!!」


絞り出した声は、助けを求めるようにか細く、保健室に響いた。そして、立っているままのあたしの方へと足音が聞こえてくる。あたしは、怖くて怖くて、心の中で必死に隼人の名前を呼んだ。


「ねえ、なんで…、獄寺君に助けを求めるの?」


「え?」


近づいてきた気配から聞こえたのは、低い先輩の声だった。驚いて、ふさいでいた耳と、目を開けてみれば、その瞬間に肩を強く推されて勢いよく身体を壁に抑えつけられた。


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あきゅろす。
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