それぞれの思うところ

「じゃあ、行きましょう?」


「……」


何も言わない俺に苦笑しながら、こいつは歩き出した。めんどくせえ、なんでこんなもんに参加しなきゃなんねえんだ。


紙には保健室へと血文字で書かれていた。暗い学校の廊下を如月の隣に並んで歩く。静かな空間は嫌いではないものの、好きにもなれそうにない。


「不機嫌そうね?」


「うるせえ」


「…随分と嫌われていること」


呆れたように溜息をつくこいつを鼻で笑う。つーか、こんなん怖がるのは空ぐらいだろ。第一、俺にとっちゃ、暗闇なんて慣れてしまえば、かなり暗いところでも見えるわけで、あまり怖くない。マフィアが闇を怖がるなんておかしいだろうが。


「それにしても、劇は突然の配役変更だったのね?」


如月の方をちらりと見れば、こちらを興味津々とでもいうように見ていた。


「知るか。空が勝手にやったことだ」


「その割には上手くいっていたけど、あれって策略だったのかしら?」


俺はその問いには応えなかった。ただ、二人で並んで歩く。しばらく行けば保健室についた。中から人の気配はしないから、そのまま普通に入れば後ろからため息が聞こえた。


中に入って、一番奥にある薬だなの中で新たな紙を見つける。それを持って振り返れば、如月はもう見つけたの、と呟いた。


「どこだって書いてあったの?」


「…図書室」


「そう。また定番ね」


「高校の肝試しなんてこんなもんだろ」


「そうね」


何がおかしかったのか、忍び笑いを洩らすこいつをほうっておいて先へと進む。


「それにしても、劇は面白かったわ。とくに最後の告白シーンが」


「あ?告白なんて…」


「Io ho un dolore in lui vicino tu. Io non voglio ritornare.だったかしら?随分と情熱的ね。彼」


その言葉に、目を見開いた。こいつの口からすらすらと出てきたのはイタリア語で、しかも山本が劇の際にいった言葉のうちの一つだった。つーか、なんていう記憶力してやがる。もしかして、こいつもマフィアか?


「なんでテメエが、イタリア語をしゃべれる!」


「あら、言わなかったかしら?私はイタリアからの帰国子女だって」


その言葉に、思い当たる節があって黙り込む。確かこの学校に見学に無理矢理連れてこられたときに行っていたような気はしなくもない。


「それにしても、私の方が驚いたわ。貴方は帰国子女って聞いてたけど、彼からイタリア語が聞けるなんて」


「……何が言いてえ」


「いいえ?ただ、不思議だな―と思っただけよ?ああ、ついでに言うと、ゆりなもイタリア語を聞きとれるわ」


前を向いたまま言ったこいつを思わず凝視してしまう。ゆりなって、あいつだよな?山本とペアの奴。あの野球バカ、変なことしゃべっちまうんじゃねえか? 

「まあ、だからってどうだってことはないんだけど。ねえ、獄寺君。君は…、空のことが好きなの?」


「はあ?」


真剣な表情をして言うこいつに、俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。つーか、いきなりなんだよその質問。頭大丈夫か?こいつ。


「そんな、変な人を見るような目で睨まないでちょうだい。ただ、よく相模から話しを聞くのよ。貴方達に嫉妬する話し」


「あの野郎のことなんか知るか」


難なく紙を見つけていった俺達は、体育館と指定された紙を手にとって足を進め始める。


「私は貴方のことを聞いてるんだけど…。まあ、いいわ。応えたくないなら。それより、次でゴールみたいよ?案外つまらなかったわね。来年は脅かし役を作るように言っておこうかしら」


頬に手を当てて、本気でそのことについて悩んでいるらしいこの女を見る。わからねえ奴だ。こいつが何を考えているのか。俺は、空なんか好きじゃねえ。好きなんかにはならねえ。


第一、俺達は帰らなきゃいけねえんだ。だから、山本だって劇であんな台詞…。


「いつか、隼人たちも、帰っちゃうんだね…」


震える声で、そういった空の声が脳裏によみがえってきた。


「チッ、まだ、……帰れねえよ」


「ん?なんかいった?」


俺は、それには答えずに、先にゴールとなる場所へとむかった。




***

「よし、やっと俺達の番だぜ!」


「じゃあ、空。行ってきます」


私と匠はそう言って、暗い道のりをロウソクほどの明るさがつけられている提灯を持って歩き出した。学校に提灯って…と思いつつも、それを手にもつ匠を見る。


「なんだ?怖いのか?」


「ううん。夜の学校って新鮮で好きよ」


「そこは、嘘でも怖いって言えよ」


「えー…。きゃーこわーい」


「……棒読みかよ…。あの劇での演技力はどこにいった」


思いっきり無表情のまま、要望通りの台詞を言ってみればものすごく呆れられた。匠の求めているものはわかるんだけど、本当に怖いとは感じないんだから怖がれない。


「にしても、俺のときは拒んだくせになんで武はオッケーしてるんだよ」


「それは、空に言って。私だって武が出てくるなんて知らなかったわよ。というより、獄寺と変わってることすら知らなかったわ」


「その割には普通に進めてたじゃねえか。本当は練習してたんじゃねーの?」


「バカ言わないで。ほら、最初は保健室でしょ?」


「バカとは失礼な…」


学校の廊下に、私たちの声だけが不気味に響く。トイレの前を通る際、そこをのぞいたら、トイレにつながっているのかさえもわからないような闇が広がっていた。そこに呑まれそうな気分になる。そこを通り過ぎて保健室へと入り、戸棚で紙を見つけた後そこの指定場所図書室に向かう。


「図書室って、俺初めてだ」


「…2年間学校にいて?」


「俺が本を読まないのは知ってるだろ。俺が読むのは、マンガと、攻略本のみ!」


「ゲーム好き」


「俺にとってはほめ言葉だよ」


匠と話していて、口で勝てる気がしないのはなぜだろう。ああ言えばこういう、という感じよね。匠って。その点は南先輩に似てるのかもしれない。


図書室に入って、紙がどこにあるのかを探す。静かな室内だからか、普通に話しているだけでも結構声が響いて聞きとれる。


「あ、ねえ?南先輩って、誰かと付き合ってる?」


「え?知らねえの?伊集院と付き合ってるだろ」


「あー、まあ…それは」


それは知ってるのよ。そうじゃなくて、前に武が言っていた事が気になる。桐島ゆりなと一緒にいたっていうことが。先輩は、まあルックスはそれなりにいいからモテるし、あることないこと噂だってたくさんある。


どこまでが本当かなんてわかったもんじゃないけど、嘘だと言ってしまうにはあり得そうなことばかり。もちろんその噂は女関係のものが多いわけで…。だからこそ、匠なら知ってるかと思ったんだけど…。でも、匠にそんなこと話すわけないわよね…。


「第一、最近よく伊集院と電話してただろ。兄貴」


電話?そんなのしてたかしら。部屋だとしても、獄寺がいるし、リビングにいたとしたらそれなりの音は聞こえてくると思うのよね。それに、空の性格から言って、そういうときはたいてい報告してくる気がするんだけど…。


「…どんな会話?」


「さあ?盗み聞きは趣味じゃねえ。でも、次いつ会えるとかっていう話しはしてたぜ?でも恋人なら普通だろ」


「……そうね」


「何?兄貴を好きになったとか?」


「匠って、そうやって恋バナに持っていくの好きよね」


あ、見つけた。私が見つけたのは、図書室の一番奥。机の上にそれが置いてあった。次の場所は生地実験室と書いてある。匠の方へ行き、その紙を見せてから、一緒にそこへ向かう。


「まあ、幼馴染の恋路は気になるんだよ」


「匠こそどうなのよ。先輩同様モテるでしょう?」


覗き込むようにして匠のほうを向けば、顔を逸らされた。これじゃあ、反応がみれないじゃない。


「俺のことはいいんだよ。風は好きなやついねえの?あ、兄貴はやめた方がいいぜ?あれで、嫉妬深いから」


「嫉妬深いのは知ってるわ。見てればわかるもの。空と獄寺ぐらいじゃない?気づいていないのなんて。まあ、先輩は獄寺のことを好いてないみたいだけど」


「あいつは誰にもだろ。最近になって、俺もすこーし話すぐらいだぜ?それも、武と一緒に」


「ああ、武と獄寺は腐れ縁みたいな感じよね。あの二人って、なんだかんだいって性格が似てるから衝突するけど、なんだかんだでお互いのこと一番理解してるのよ」


「よく見てる、ってかんじだな…。空のいとこなんだろ?」


匠が私の方を覗き込むようにして顔を見てくるから、今度は私が顔をそむける番だった。そういえば、そういう設定にしてたかしら。随分と前のことだったから忘れるところだった。


「ええ、まあ、そうね」


「武は好きな奴とか、付き合ってる奴いねえの?」


「……さあ。いない、んじゃないかしら?聞いたことないもの」


「ま、そうだよな」


「何よ、その反応」


「いやいや、やっぱ、風って妙なところで鈍感だよなっておもって」


本当にどういう意味?匠の発言に首をかしげながらも、どこか楽しそうな匠を不思議そうに見ることしかできなかった。


「ほら、次ゴールだぜ?」


「あっけないものよね。お化け役がいた方がいいんじゃない?」


「今度兄貴にでも言っといてやるよ」


「……別にいいわ」


「ハア、風って兄貴のこと嫌いだよな」


「嫌いというか、いけすかないのよ」


「それを嫌ってるって言うんだよ」


再び溜息をつく匠を横目に、私たちはゴール地点へと到着したのだった。


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