絡み辛みの爪痕

「!…なんでこんなとこにいんだよ」


「今先輩に送ってもらってたのー!」


空がいきなり走りだしたから何かと思えば、また、こいつか…。ったく。いったい、どれだけ邪魔すれば気が済むんだか。せっかく今日はいい気分でデートできたと思ったのに。


「げ、テメエも一緒だったのか…」


「やあ、獄寺君。当り前だろ?今日は空とデートだったんだから」


「ケッ、んなもん俺が覚えてるわけねえだろ」


「あ、じゃあ、先輩。ここでいいですよ!ちょうどここで分かれ道ですし!」


「でも…」


「大丈夫です!隼人と帰りますね」


「……そう。わかった。じゃあ、また明日」


空が俺のため、と思って言ってくれていることは分かったから、とりあえずここは引き下がる、しかない。かなり不本意だけど。本当は嫌だけど。


二人が去っていく二人を見つめる。


「今から買い物?あたしも行く!アイスは書いてあるんでしょうね!?」


「あ?んなもん書いてねえよ。それはテメエで買え」


「えー!?書いてないなんて嘘だ!あたしが書くから、紙貸して!」


「ハッ、届くか?おら!」


獄寺君が、何か紙を頭上高くに掲げる。空がそれをとろうとして精いっぱい背伸びや、ジャンプをしてるけど、なかなか届かないみたいだね。


「ムー!!意地悪!馬鹿隼人!こうなったら、隼人のお小遣いから引いてやるんだから!」


「はあ!?ふざけんじゃねえ!自分で買いやがれ!」


バカのような言い争いをしながらも、二人は一緒に歩いていく。空は怒っているけど、あれは本当には怒っていない。遊びの内の一つのようなもの。そして、その目が向いている相手が俺じゃ無いことに、酷く苛立ちを感じた。


「チッ、」


「ほら〜、はやく行こうよ〜」


遠くの方で空の楽しそうな声が聞こえた。


ポケットに手を伸ばし、携帯のアドレス帳を開いて、ある一人に電話をかける。


「もしもし…」




***

今日、俺はバッティングセンターに行ったんだけど、やっぱ、いいよな!久しぶりに、思う存分打てたしな!


あの、カキーンってなるのとか、ポーンって飛んでくのとか、最高だぜ。風も来ればよかったのにな―。


バッティングをしてほてった体を冷やすために、コンビニでアイスを買う。これがわかったら、空あたりに怒られるな。


アイスを食いながら道を歩いていたら、向こうの方に匠の兄貴を見つけた。あれ?先輩って、今日空とデートだとか言ってなかったか?ってことは、あの隣にいる女って空か?でも、あんなピカピカしてたっけか?


「ん?あれって…、確か…」






家に帰ると、そこにはもう獄寺も空も帰ってるみたいで、靴があった。


「風、」


「あ、武。おかえり。どうだった?」


「ああ、楽しかったぜ!って、それより、今日、さ…」


キッチンに立っている風の横にいき、手を動かして夜ごはんを作っている様子を見る。獄寺は、椅子に座ってアイスを食っていた。


「今日?」


「あ、それより、空はどこにいるんだ?」


「空?空ならお風呂に入ってるわよ」


「そうか。あの、さ…。今日…。今日な」


「?何?」


作っていた手を止めて、武を見る。珍しく言い淀んでいる彼は、しきりに風呂場の方へと視線をやっては、私をみたりと、落ち着きがなかった。


「今日、帰りにみたんだ。匠の兄貴を」


「南先輩?空とのデート中?」


「いや、それが、一緒にいた奴が空じゃなくて…。えっと、なんつったかな?なんか、ピカピカしてる奴だ」


「…ピカピカ?」


ピカピカしてる奴、ってどんな表現よ。


「それって、学校の人?」


「ああ。同じクラスだぜ?」


「テメエの言い方だとわかりにくいんだよ」


獄寺は聞いていたのか、いきなり話に入ってきた。やっぱり、恋敵のことは気になるのかしら?っていっても、本人はどうやら無自覚みたいなんだけど…。


「本当に空じゃなかったの?」


「ああ。いつも爪とかピカピカさせてて…」


「ああ、あいつか。あのいつもぎゃーぎゃーうっせえ奴だな」


「そう!そいつ!」


二人の会話を聞いていたら、とりあえず効果音しか出てこないんだけど。しかも、なんでそれで誰だかわかるの?爪がピカピカしてる奴って言うのは、たぶんマニキュアしてる子だろうけど…。しかも、獄寺の印象はかなり悪いのね。


「えーっと、名前は、確か…」


「き、きり…、」


「桐島?」


きりで思い浮かぶ女子って桐島ゆりなしか思い浮かばないんだけど。


「そう!そいつだ!」


「で、それがどうしたんだよ」


「いや、そいつとさー」


武が話しを戻そうとした瞬間、なんとも絶妙なタイミングで空がお風呂からあがってきてしまった。


「お風呂あがったよー!アイスー!」


「空」


上がってきた空は、すぐに冷凍庫を開けてアイスを探し始めた。でも、なかなか見つからないのか、ずっとごそごそと探している。アレ?そういえば、さっき獄寺が食べていたのって空のじゃなかったかしら。


そう思って、机の上を見れば、やっぱり空がお風呂上がりに食べるんだーと言って冷凍庫の一番前のほうに置いていたものだ。


「ああ、そういえば、空のなら獄寺がたべちゃってたわよ」


「「はああ!?」」


獄寺と空の声が重なる。本当に息ぴったりだと思う。いっそのこと、先輩なんかやめて獄寺にしちゃえばいいのに。本気でそう思った。


「さっき俺が食ったのは違う奴だろ!」


「言い忘れてたけど、空がとっておいたものよ。獄寺のは、冷凍庫の一番上にあるやつ」


「はーやーとー?」


低い声を出して、獄寺の名前を呼ぶ空に、獄寺は一気に顔をひきつらせた。


「ちょ、待て!不可抗力だ!大体、てめえのなら名前でも書きやがれ!」


「問答無用!」


空は拳を振り上げながら、獄寺を追いかけまわす。それをよけるために、素早く椅子から立ち上がった獄寺は、ソファーを周り、対峙していた。


「なんで、たべたの!あたしの、至福のひと時を返せ!!」


「無茶言うな!だいたい、安っぽい至福を味わってんじゃねえよ!」


「あたしの至福をバカにするなー!!」


そういって、そこらへんにあったクッションとか、毛布とかを手当たり次第に投げていく空。


「空。物は壊さないようにね」


「わかってる!隼人!覚悟なさい!」


「痛っ!やめろ!おい!」


どんどん物を投げていく空にたじたじの獄寺をみて、お腹を抱えて笑いたくなるけど、それはさすがに我慢する。今、笑ったら、確実にこっちにも被害が来るからね。


「いいのか?止めなくて」


「いいわよ。食べ物の恨みほど恐ろしいものはないってね。あ、そうそう。貴重な情報ありがとう」


「?なんのことだ?」


「なんでもないわ」


桐島ゆりな、か。先輩については、結構うさんくさいから信用なんてこれっぽっちもしていなかったんだけど…。


ちょっと、調べてみるのもありかもしれないわね。






(これでもくらえ!)
(誰がくらうかっ!)((ガッシャーン))
((あ……))
(……あんたたち…)
(ギクッ!!)
(そこに座りなさい!)
((ヒィ!))
(物を壊すなって言ったはずよね!?それに、前にも同じことを言ったはずよ!)
(ごめんなさい…)
(罰として一週間皿洗い。よろしくね?(ニコ))

((もしかして、風って、これが狙いだったりなんて…しねえよ、な??))


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あきゅろす。
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