苛々は違う方向へ
「隼人!」
山本が言い聞かせるように話している声にイラついてその衝動に任せて立ち上がると同時に怒鳴っていた。
そのあとの沈黙。沈黙を消すように部屋から出てきたのはあの女だった。何もかも苛々する。つか、うるせえ、
「人が電話してるのに、大声出さないで!聞こえちゃうでしょ!?」
「知るか」
立ち上がった拍子に倒れてしまった椅子を起こしてドカっとそれに腰掛ける。
「悪い、悪い。あれ、俺が悪いんだわ」
「たけちゃんが謝る必要ないでしょ。声を出したのは隼人なんだから」
「フン」
山本が言ったことを否定して俺を指さしてくる女を鼻で笑う。
「ねえ、何をそんなに焦ってるの?」
いけ好かねえ女が野球馬鹿と同じことを聞いてきた。ますます苛々する。そいつを睨んでやるが、目を絶対にそらさねえし。気に食わねえ。
「ねえ、何を?」
俺が何も答えないのを見てもう一度聞いてきやがった。んなの、答える義理ねえだろ。
「じゃあ、何が気に入らないの?」
怪訝そうに歪めた顔を隠そうともせずに、それでも落ち着いた声でこの女は聞いてきた。気に入らない?そんなの当り前じゃねえか。
「ああ?」
「気に入らないんでしょ?」
睨んでも目をそらさないこの女。本当に苛々する。野球馬鹿も野球馬鹿だ。俺は右腕なのに、他の守護者に十代目を任せなきゃいけねえなんて。
イラつく心をそのままに、睨みながらも声を荒げていた。
「ああ、気に入らねえな。全部が気に入らねえ!ここの世界も、お前らも!全部!俺は、十代目の右腕だ!俺が十代目の傍にいなきゃいけねえんだよ!」
「だったらさ」
俺の荒げた声が部屋に余韻を残し、それさえも消えそうになったときにあの女が口を開いた。
「ここにいるのはその十代目と離れて右腕の隼人がどう対処するかを見極めるための試練なんじゃない?」
女は俺の目をまっすぐに見てきた。
何の確信もなく、あの女がいった言葉に不覚にもそうなんじゃないかと思ってしまった。そうで、あったらいいと…。
羨望にも近いそれに内心舌打ちをしつつも、苛々していたのがいつの間にか収まっていることに気づいた。
吐き出せたことで楽になれたのか、違う方向での考え方でなのか。両方かもしれねえけど…。
「よし!じゃあ、行くか!」
「は?どこにだよ」
「獄寺聞いてなかったのか?」
思考にはまっていたのを山本の声に我にかえり聞いてみれば、野球馬鹿に馬鹿にされたように言われて、反撃に出ようと口を開きかけた時に、いけすかねえ女が口をはさんだ。
「買い物よ。買い物。この家には、男物の物なんて何もないんだから。まあ、私は弓道だけどね」
「あ!あたしも道場だよ」
「…じゃあ、誰が案内するのよ」
「まあ、何とかなるって。高校生なんだし」
「うん。そうだね。遅刻したくないから、早く行こう!」

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