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☆銀魂の小説(夜兎組/長編)
兎とシェルショック
彼達が帰って来たのは1か月間余りの遠征だった


現地では物資も援軍も充分とは言えない、過酷な戦になったのだ
20人程で出発したはずだったが 帰って来たのは団長と副団長の2人だけ…


無事の知らせを聞いた私は二人を迎えに 通路を急ぐ


━━━
━━



『お帰りなさいませ!!団長、副団長』


神威「うん。 紫竹…お腹減ったな、余りモノで良いから いっぱい頂戴」


阿伏兎「久しぶりだなー 嬢ちゃん…元気だったかー」


『よ、よくぞ御無事で帰って来て下さいました!他の方々は残念でしたけど…』


神威「まぁね、今回は運が悪かったのさ」


阿伏兎「団長が突っ走るからってのも一因なんだからな…クソッタレ」


『お料理、持って来ますね!』パタパタ



━━━


神威「」ガツガツ

阿伏兎「」ガツガツ


…うーん……珍しいな。私のお料理で、お腹膨れなそう…
これは大変だ


2人の夜兎は超ミラクル激烈 飢えていた
戦場帰りだもの 当然…過酷な死地を潜り抜けて来たはずだから

残り物とさっき作ったばかりのチャーハンを奪い合う様は正に獣…

私はありったけの鍋にありったけの食材を詰め込んでフル稼働する


だけど 本当に 帰還してくれて、良かった…


━━━


阿伏兎「あのお嬢ちゃん てんてこ舞いだな」


神威「仕方ないよ、俺達腹ペコなんだもん」


『お待たせしましたー』


阿伏兎「 紫竹チャンよ さっきから涙目だぜ、大丈夫かァ」


『はい!待ってて下さいね!待ちに待ったお2人が無事にご帰還されたお祝いのご馳走…と言うには急ごしらえで雑かも知れませんが、今日は頑張りますよ!』


阿伏兎「……………そりゃドーモ…」


『あっ お鍋!ヤバい!』トタトタ


阿伏兎「…」


神威「おっさん、観すぎ」ムシャムシャ


阿伏兎「いや、今の聞いた?俺達が帰って来た…お祝いだとよ」ムシャ


神威「今まではコックにも嫌われて来たからなぁ。こーやって遠征帰りでキッチンが火を吹く度、[またくたばり損なったのかー]とか 聞こえてくるんだよねぇ」モグモグ


阿伏兎「聞こえて来る度に そのコック潰してりゃ素材のまんま食うしか無ぇんで 余計辛かったわ」モグ


神威「せめて料理を作り終えてから天寿を全うさせてやれば良かったよね」ムシャムシャ


阿伏兎「それは天寿とは言わねぇだろ」ムシャ


『はい お待たせしましたぁぁぁ』


阿伏兎「……お嬢ちゃん、さっきから…泣いてない?」


『えっ あっ えっと、た、タマネギ!です!』


阿伏兎「タマネギ、入ってねぇけど」


『う、えっと…』


阿伏兎「そんな半泣きにならなくても 取って食やしねぇよ、もちっとゆっくり作ってくれて良いんだぜ?」


『あ、ち、違うんです…わ、笑わないで下さいね?』


阿伏兎「?」


『お2人がご無事だった事…が、嬉しくて…』じわ


阿伏兎「…」


『ご、ごめんなさい、変なカオしてますよね 私!ヤキソバの様子見て来ます!!』バタバタ


阿伏兎「…」


神威「おっさん、観すぎ」モシャモシャ


阿伏兎「アレ 狙ってンの?素…じゃねぇよなぁ?」ジッ


神威「それ、要らないなら頂戴」パクパク



━━━
━━


━━━━━━
阿伏兎の部屋
━━━━━━


いつも この部屋のドアを叩く回数は5回

しかし 鼾が聞こえてきたので 遠慮がちに小さくドアを開き、団長から渡された書類を携え 忍び足でテーブルに近づく


『阿伏兎さーん………書類、置いておきますね』ヒソッ


小声で テーブルに 重みを預けた時だった


薄暗いその部屋で 何かが跳び跳ね、私を押し倒した

重い、鋼のような黒い影…

開け放したドアの隙間灯りから 私を押さえ付けた大きな影の正体を知る


『あ、阿伏兎さん!?』


阿伏兎「…」


目が…虚ろで 何か様子がおかしい
拳を振り上げ…
私、に…!!


ヒュッ と風を切る音が耳を掠めたかと思えば 顔の真横に 阿伏兎さんの振り下ろした鉄拳があった


寝惚けて…いる訳でも無そうだ
切れた頬の痛みも忘れる程度に 恐怖が胸に宿る

もしかして、シェルショック…?

過酷で劣悪な環境…戦場から帰還直後の傭兵…
などという考えが過る


マズい、相手は夜兎…
本当に一撃食らったら…


しかし 私の下半身は阿伏兎さんの足で抑えられ 身動きは難しい…

とか考えてる内に また拳が振り上げられた


『ちょ!阿伏兎さ…』


間に合わない


諦めた私はエプロンに挟んでおいたオタマに、全身の気を纏わせて硬質化。
咄嗟に防御する


『くっ…ぐッッ!』


この歴戦の夜兎の重たい一撃は両手でも押し返せそうにない


ここは 私の最大の切り札の方が良かったか!どうして阿伏兎さんの一撃を受けようと思ったんだ!私のバカ……
そう後悔した時に ヒュッと頭上に 風を感じた


━ドン━

そんな音をさせて 一陣の風は 阿伏兎さんを蹴ったように見えた

次に目にした阿伏兎さんの巨体は ベッドの上に吹っ飛んでいたのだ


神威「ウチの大事なコック 潰さないでくれませんか?」


『だ、団長!!』


神威「いやぁゴメンゴメン、阿伏兎はホントに稀に こーゆー状態(シェルショック)になるみたいでさ。
戦場での昂りが収まらないのか ストレスか、寝惚けてんのか…
最近はならないから 忘れてたよ。
まぁ今回みたいなピンチになることも久しぶりだからさー
いやぁ、面倒だからって何でも 紫竹にお願いするもんじゃないね」


『それは…団長が良くないハッスルしちゃうからじゃ…?』


神威「まぁね…しかし残念。もうちょっとで貴重な阿伏兎のレイプシーンとか見られるのかなって思ったんだけど」


『レイプシーンじゃなくて殺人現場ですからね!』


神威「しかし 面白い技を使うね。それにしてもオタマって!あはははは」


『笑ってる場合じゃなくて団長!阿伏兎さん起き上がった!』


神威「おい阿伏兎」


起き上がった阿伏兎さんがふらりと瞳を揺らす


阿伏兎「ん…団ちょ」


神威「起きろよ阿伏兎ー」ゴシャア


阿伏兎「ごぶらぁ!?」


『あ、あの団長 阿伏兎さん今正気に戻ってたんじゃ…』


神威「ん?そうなの?」


阿伏兎「何すんだ団長コノヤロ!!」


『あ 戻ってる』


━━━
━━



━━━
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正気に戻った阿伏兎さんには 超謝罪された

正直 プライドが高そうな人だと思っていたから、何度も何度も謝ってくれる姿を見ると 申し訳ない気分にすらなった


『ほ、本当に大丈夫ですよ、びっくりしただけですし…』


阿伏兎「…女の面に傷を付ける趣味も無ぇし…その、悪かった…」


『遠征でお疲れだったんですもの、仕方ないですよ…団長、人使い荒いし』


阿伏兎「…その団長に今回は助けられたんじゃねぇか」


『うん…今の 団長にはナイショで』


阿伏兎「ははっ…あんた相当な物好きだ…こんな船にスカウトされて本当についてくるしなぁ」

「寝惚けた俺に頬まで切られて逃げもしなかったんだって?…肝が据わってると言うか何と言うか…」


『団長には感謝してるんですよ。ここに、誘って貰えて…このお仕事、楽しいし』


阿伏兎「…」


『なんでそんなヘンな顔してるんですか?』


阿伏兎「ん…つくづく…変わってるなぁーと…」


『謝りに来たのか貶しに来たのか どっちなんですか?』


阿伏兎「ゴメンナサイ…コレをお納め下さいお姫様」スッ


『…何コレ…うおケーキ!?』


阿伏兎「そう…ケーキだ」


『わぁい!!ありがとうございます!!美味しそ!阿伏兎さんも一緒に食べましょ!』


阿伏兎「…俺、お詫びのつもりで買って来たんだけど…なんで一緒に…」


『量多いし…1人で食べるのも寂しいから!この大きさなら、2人で分けて丁度くらいじゃないです?』


阿伏兎「…………はい」


━━━


『んー、美味しい!!』


阿伏兎「あんたの部屋には食器もあったんだな」


『たまたまです♪ラッキー♪』


阿伏兎「…旨そうに食うねぇ」


『美味しいじゃないですか。もしや阿伏兎さんは甘いの、苦手ですか?』


阿伏兎「そんなに得意って訳でもねぇな…」


『まぁ…ブラックコーヒーとかスパイシーなお肉好きそうなイメージだし』


阿伏兎「オジサンだからな」


『そーゆーつもりで言ったんじゃないですよー』


そんなとりとめの無い話をして お茶会は終わった

確かに、怖い思いはしたけど、阿伏兎さんは優しい人だと思う

海賊かも知れないけど 凶悪狂暴なる夜兎だと言われているけど…
私の 心はゆっくりゆっくり、彼に 惹かれていく


水面に反射した月が、波間に浮かぶみたいにゆらゆらと踊る
そんな速度で…


━━━
━━


━━━
彼目線
━━━


━━心が未だ、戦場に居るみてぇなんだわ━━
そう謝った時も、ヘラっと笑って俺を許した。
緊張感無ぇな…
つまり、寝惚けてやらかしちまったって事じゃねぇか

参ったな

何だってんだ あのお嬢ちゃんは
甘っちょろいお子ちゃまじゃねぇか

この船に不釣り合いだろ

大丈夫かよ


そんな事より
…調子が 狂うぜ

さっきの甘ったるい生クリームみてぇに 砂糖みてぇに ふんわりじわり

口ン中で溶けていく感覚

口ン中に広がってく甘味

密やかに侵食していく様な…


嗚呼、調子が狂う。


end



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