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☆銀魂の小説(夜兎組/長編)
忘却と兎さん2






『ふぅ』



厨房の片付けも終わって
あとは…お茶でも飲もうかな
一息つこう…



ん?

食堂は消灯したのに誰か来た…?
あ、

『阿伏兎さん?』


阿伏兎「よぉ お疲れさん」


『どうしたんですか?こんな時間に…お腹、すきました?』


阿伏兎「いや…お茶でも貰おうと思ってな」


『わぁ 丁度良かった、私も一息つこうと思ってたんです』




パパッと用意したお茶とお茶受けを挟んで
席に着く



阿伏兎『これは…変わった味の茶だな』


『カモミールティーです、リラックス効果があるんですよ』


阿伏兎「前にも…飲んだ事はある…」


『え…それは…いつか、覚えてますか?』



━━
回想
━━



阿伏兎「眠れねぇ…」


『じゃあこのお茶はどうです?カモミールティー、リラックス効果があって寝る前にイイらしいですよ』


阿伏兎「ふーん…初めて飲んだ…クセがあるな」


『男の人には苦手なものでしたか、ホットミルクにします?』


阿伏兎「あァン?ミルクなんて飲んでられっか、この草の煮汁くらいが大人の味だろ
まさかこんなお嬢ちゃんにガキ扱いされるなんて思わなかったぜ オジサン」


『そういうつもりで言ったんじゃないんですが…煮汁って………ほら、このお茶受けをご一緒に』


阿伏兎「どれ…ふぅん、この甘ったるさには丁度良いな」



━━━━━
回想終わり
━━━━━



阿伏兎「いや…思い出せねぇ…が、」


お茶受けのクッキーを齧り


「この甘ったるさには丁度良いな」


『…!』




あの時と同じセリフ…



阿伏兎「どうした?」


『いえ…』



思い出して

早く、私のコト

思い出して



そんな想いが強く強く 胸を刺したけど
涙を必死で堪える

今は…。



抱き締め合えた時の為に取っておくんだから…


覚悟してね


『カモミールティー、苦手なんですね』


阿伏兎「この 草の煮汁みたいな風味が大人の嗜みなんだろ?」



今は…精一杯の笑顔を捧げる


阿伏兎「ときに あんたは明日、非番なのか?」


『え?まぁ…』


阿伏兎「じゃあ…出掛ける支度をして待ってろ」


『え?』


━━━
異星街
━━━


『な、な…なんでこんな…』


阿伏兎「この小型機のメンテ、そろそろかなぁ…ほら、買い物したかったんだろ」


『いやいやいや、小型機とは言え わざわざ別艦出してまで連れてきて下さらなくても良かったんですよ?!』


阿伏兎「あーん?そーなの?でももう到着しちゃったから、ほらほら 行くぞ」


そう言って 私の手を取って 引っ張り 歩き出した


阿伏兎「いやー、最寄りにそこそこのショッピングが出来る星があって良かった」



ぶっきらぼうな横顔だけど
優しい


朝食を済ませたら 私を小型機に乗せてひとっ飛び
あれよあれよと言う間にこの通りである


『あの…ありがとうございます!』



お礼を言うと 緩やかに振り返り
フッと 穏やかに微笑む


私の事を忘れてしまう前に見た笑顔

久しぶりに見た気がする



━━━


阿伏兎「で、何を買いに来たんだ?」


『う!』


まさか 阿伏兎さんに 私の下着を選んで貰おうと思ってたなんて
今の阿伏兎さんにはとても言えない…!


だって、遠征直前はそんな話をしてたから…
ノリとは言え なんて話をしてしまったんだ…


『あ、えと、服とか…靴とか…』


阿伏兎「女の子だねぇ」


そうして 入ったお店は無難そうな婦人服の店舗だった



━━━━━━━



『よし、コレでいいや』


阿伏兎「えっ もう決まったの?」


『え?ええ』


阿伏兎「女の子なんだからもっとゆっくり時間掛けても良いんだぞ?久しぶりのショッピングなんだろ?」


『うーん そんなに悩まないタチなんですよ』



阿伏兎さんを待たせるの、嫌だし


阿伏兎「ふーん…じゃあコレも追加だ、あ、コレ一緒の会計で」


店員「へい」


『ちょ 阿伏兎さん、私の買い物だからお金は…』


阿伏兎「イイじゃねぇか、お嬢ちゃんに寂しい思い させちまったしな、プレゼントだ」


『で、でも…』


阿伏兎「これからも美味いメシ、頼むぜ シェフ」



ニッと笑う


前にも同じように言ってくれた台詞

阿伏兎さんは阿伏兎さんだ
変わらない…

こうして また好意を持って接してくれるのなら
このまま 記憶が戻らなくても……
やっていけるかな

思い出なんて また作れば良い、って
阿伏兎さんなら言うかな?


『あの、買い物も終わったし、阿伏兎さん しっかり休んでくださいね』


阿伏兎「なんだァ?連れないこと言うなよ、折角職権乱用して別艦で来たんだぜ、今日は浪費するぞ」


『ええええええ』


阿伏兎「それとも何か?隣に居るのがこんなオジサンじゃ嫌かい?」


『滅相も無い!隣には阿伏兎さんが居て欲しいです!もっと!ずっと!』


阿伏兎「おっと…」


…あ…
しまった

いつもの調子で…


私も阿伏兎さんも 慌てて少し離れ、視線を泳がせる



鎮まれ、ドキドキ
うぇぇん 阿伏兎さん、嫌じゃないかな…気まず…



罪悪感でチラリと覗き見た阿伏兎さんの表情は見えなかった

けど、耳が少し赤く見える



阿伏兎「えーっと、喉が渇いたなぁ…あ、ああ お茶でも飲むか!カッッフェだ、カッッフェ」


『無理にカフェとか言わなくて良いんですよ、発音がヘン…』


阿伏兎「くっそ…オジサンだから良いんだよ」

「ま、あんたと俺は 部屋のカレンダーに落書きし合えるような仲みたいだしな」


あ、笑顔
嫌じゃない…のか…な?


阿伏兎「俺の隣に居たいの?」


『…もっかい言って欲しいんですか?』


阿伏兎「…言えよ…」


『ひ、秘密です…プフッ』


阿伏兎「秘密になってねぇよ…ッ」クスッ



━━━



それから街を練り歩いた後、駐車場に戻り
両手いっぱいの荷物を 乗って来た小型機に押し込んだ



阿伏兎「こんなモンか?」


『もう充分ですよ…ありがとうございます』


阿伏兎「ふーん…心残りは無いな?」


『はいっ』


阿伏兎「!!」


しかし、阿伏兎さんの目が何かを捉えた様だ
何を見たのだろう、一瞬 表情が険しく とても鋭く冷たく感じた


『?阿伏兎さ…』


阿伏兎「…心残りが出来た!走るぞ!」グイ


『え、わ!キャアアアア』



マフラーを首に掛ける用に
私の身体を 阿伏兎さんの首に巻き付けて
猛スピードで走り出す


いつもの お姫様抱っこじゃない所が記憶喪失の阿伏兎さんらしい



阿伏兎「しっかり捕まってろよ!」


『ひぇぇぇぇ』


ヒュンヒュンと建物の屋根や塀を越えて疾風の様に走る

怖い!風圧で吹き飛びそう!怖い!



阿伏兎「あんな所に一人置いて行く訳にもいかねぇからなァ」


『ひぇぇぇぇ』


阿伏兎「そこの毛むくじゃら!久しぶりだなァッッ!」


たどり着いた標的
怒声と共に傘を突き付けて着地する



毛むくじゃら「おわっ!?」


身を翻し 傘をかわした、
黒衣の異星人はフードを脱いだ



阿伏兎「先日遠征した、オワズー@r星で見たツラだ…忘れたとは言わさねぇ」


毛むくじゃら「これはこれは…春雨第七師団副団長…あんたがこんなコジャレた街に御遠征とは…そのマフラーちゃんとデートかい?」


阿伏兎「ほっとけ、ちょっと小耳に挟んだから散歩しに来たんだよ」


阿伏兎「俺の記憶を一部 奪ってった胡散臭いドブネズミが この界隈をうろついてるってな」


『ええッッ?阿伏兎さん…こ、この人に記憶を…奪われたんですかッッ?』


阿伏兎「ああ…そうらしい、コイツは 人の記憶を奪う…」


「夜魔の種族だ」


『!』


毛むくじゃら「…そこの女、夜魔種か?ハハハこりゃいい」


「夜魔種の女との記憶を 夜魔種に奪われちまったんだからなぁァ!ハハハハハハ!」


『…阿伏兎さんから奪った記憶を…見たの…』


阿伏兎「ケッ、下品なヤツめ」


毛むくじゃら「折角頂いた人様の記憶だ、中古のコミックと一緒だ。読んじまうさ」
『…なさい』


阿伏兎さんの肩から降ろされた私は
怒りで頭が真っ白だ


『阿伏兎さんの記憶を 戻しなさい!』


━カッ━

殺気が翔んだ


周りに停泊している車や建物が ビリビリと少し振動する


毛むくじゃら「!」

阿伏兎「!」


『毛むくじゃらサン、出来るでしょ?』


毛むくじゃら「へっ、誰にクチ聞いてンだ、俺は夜魔一族でも有数の…」


『この街は良い街だね、人々が沢山いて…エネルギーに満ちてる』


毛むくじゃら「あン?」


『空腹の私でもそれなりに暴れられそうって言ってンの!』



阿伏兎さんから吸気はできてないものの、団長から貰った気で 余裕はある

人ごみの エネルギーを大量に吸った気で練り上げた翼が、背に生え 加速し ハイスピードを味方にする


毛むくじゃらの眼前に移動して
私よりも身長の低いヤツの手を掴み、小汚ない足と首を 触手の様に伸ばした髪で縛りつけた


毛むくじゃら「ひぃぃ!」


『ねぇ、お願い…彼の記憶を戻して?じゃないと…』


毛むくじゃら「ギャアァ!!」


『許さない』


ヤツの左手に力を込めて 握り潰す

ミシりと 鈍い音を立て 指の関節があらぬ方向へ曲がり 血が滴る


『返事は?』


毛むくじゃら「ちょ、ま ま 待っ、おまえ まさかクインメイプ族…」



『…お返事が遅いからお仕置きね。この指もーらい』


毛むくじゃら「グギャアァァッッ!」


小指を千切る


『ね、まだ?もっと痛いコトしようか?』


毛むくじゃら「わ、わか、解った あの夜兎から奪った記憶、戻してやりゃ良いんだな」


『解ってるなら、早く』


毛むくじゃら「クッ…右手を離してくれ…あ、あいつに向き直らせてくれ」


『これ以上 阿伏兎さんに変な真似したら…もっと痛いコトするからね』


毛むくじゃら「わ、解ってるって…クインメイプ族に喧嘩なんか売れるか…
記憶を戻してやれば俺は解放されンだな?」


『いいよ』


毛むくじゃら「よ、よし…*.f○waω●mp∀!」



毛むくじゃらが何か唱える

その瞬間阿伏兎さんが頭を抱えて呻いた


阿伏兎「…ぐ…」


『阿伏兎さん…大丈夫?』


阿伏兎「あ…紫竹 か…大丈夫だ…」


毛むくじゃら「ほ、ほらなウソじゃねぇ!早く放してくれよ!」


『…阿伏兎さん、どうしよう?』


阿伏兎「……放してやって良いぞ…」


『…阿伏兎さん、操られたりとかしてないでしょうねぇ?』


毛むくじゃら「あんたじゃあるまいし、そんな高等技術ねぇよ!」


阿伏兎「…ああ…とりあえず充分だろ」


パッと 戒めを解いたら
毛むくじゃらはそそくさと逃げて行った


『阿伏兎さん…思い出せました?』


阿伏兎「ああ、 紫竹…」


『よ、良かったぁ…』


阿伏兎「心配させちまったな…それにしても、やり過ぎじゃねぇの?」


『だって、だって…阿伏兎さん…』ヒック


阿伏兎「解った解った、泣くなって…強ぇんだか弱いんだかわかんねぇな」


やっと抱き締め合えた


『お帰りなさい、阿伏兎さん…』


阿伏兎「ああ、ただいま」



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