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NOVEL ROOM
獣VS武VS鉄 -狸-
タイトル:不完全の不完全(前編)


顔は猿。胴体は狸。大きな鷹の羽。2本の大きな前足は虎。後ろには前足より少し小さいが、同じ大きさの犬の足が、外側に2本、それに包まれるように、内側に2本。合計足は6本。そして、尻尾は猫のものが2本。根っこの方では繋がるように生えていた。全長は2メートル。そんな怪物が、彩加と千絵の前にいた。鵺のようであり、鵺ではない。雷獣のようであり、雷獣ではない。どっちも、正しそうだが、正しくない。そんな、不完全な怪物。二人は、絶句。ただ、見ていたことを、今更ながら、後悔する。声が、茜の声が聞こえる。

茜「さぁ、始めようか。わかってると、思うけど・・・嫌というほどに体感していると思うけど、本気ださないと、殺される、よ?殺されるったら、殺されるよ?・・・安心しなよ、火なんて、吐かないさ。ああ、訂正。殺すったら、殺す、よ」
見えたのは、4本の後ろの足を軽く折り曲げたところまで。二人は、身構える。が、おそらくは、同じ動きだったのだろうが、スピードもパワーも、桁違い。体当たりをくらった千絵でさえ、何が起こったのか、それを知ったのは、自分が、駅内の壁に押し付けられている状況からだった。おそらく、駅の構造は知るところではないが、確実に1枚は壁かガラスをぶち抜いているだろう。というか、外観を見たが、ぶち抜かずに、こいつが入れるわけがない。横幅がデカイのだから。そう冷静に頭を働かせている、千絵だった。そして、尚も壁に押し付けられる。次の1枚もぶち抜くかもしれない。幸いなことに、身体を鉄に変えていたので、ダメージはないが、普通の人間だったら、圧死していてもおかしくないだろう。鉄の身体。鈍い色。足に力を入れる。スニーカーを脱いでおけばよかったと、そう考えながら、両手を茜の、怪物の太い首に回す。力を込めて、‘うらぁぁーっ’と、気合の入った声をあげながら、左に思いっきり投げる。‘はぁ、はぁ・・・’と、辛そうな息が漏れる。対峙。身体的にダメージはないが・・・精神的にキツイ。プレッシャーが半端ではない。来る、そう直感。しかし、身体は反応しない。身体が動くよりも相手の攻撃の方が速い。首に衝撃。少し遅れて、今の状況を理解する。茜は前足を強引に、千絵の肩に乗せて、後ろの4本の足でうまくバランスをとって、千絵の首に噛みついている。千絵は、恐怖を感じる。そして、思う。鉄の身体をしていて、よかったと。それにしても、これって、猿の歯よね?猿って、噛まれても、あんまり痛くないイメージがあるんだけど・・・。牙ってあるのかな?何で、鉄の首なのに・・・こんなに、衝撃がくるんだろ?どんな顎なんだよ?ライオンじゃあるまいし。と、そんな場合じゃないのに、いや、こんな場合だから、考えてるのかな?と、少し、ありえない自分におかしくなる。そして、両手を使い、右手で上顎を、左手で下顎を掴んで、強引に開こうと力を込める。だが、ビクともしない。‘くっそっ’と、先ほどとは違い、大きな声は出ない。大きな声をあげる余裕すらない。‘く
ぅぅぅぅ’と。もはや、うめき声。それが、限界。同時に、両手に力を込める。少し、開いた感覚。が、見る余裕はない。さらに、力を込めようとした矢先、首に衝撃が走る。衝撃、いや、振動。見ると、彩加が茜の胴体に横から、蹴りを打ち込んでいた。蹴る度に振動。それが、重ねられていく毎に、だんだんと、口が開いてくる。‘もうちょい・・・’と、言った次の瞬間。茜が、首に噛みつくのをやめる。おそらく、彩加の攻撃に耐えかねたのだろう。‘はぁ、はぁ、はぁ’。極度の恐怖と緊張からの解放で、呼吸が荒くなり、へたり込んでしまう。その間にも、茜と彩加の戦闘は続く。彩加がジャンプ。茜の真上に。茜は、見ようとするが、視界が届かない。隙ができる。彩加はそう予想していた。そして、茜の首の少し後ろあたりに着地。両足で跨る。茜が暴れる前に、両手を上で組み、ハンマーの形を作って、力一杯に茜の後ろ首あたりに振り下ろす。すぐさま、振り上げ、また、下ろす。暴れようが、おかまいなしに。しばらくすると、じわじわと効いてきたのか、奇妙な苦しそうな声を漏らす。さらに、暴れ、そして、翼を広げる。彩加は反応できない。気づいた時には、上空に。どうやら、駅の天井を天窓ごとぶち破ったらしかった。幸いなことに、特に、痛みはない。自分も、ある意味では、怪物ではないかと思う。回転。振り落とされそうになる。必死にしがみつくが、それも空しく、振り落とされる。逆さに落下。しかし、体制を変えようとしない。できるが、あえて変えない。おそらく、茜が攻撃を加えてくるであろうことを読んで。そして、それは当たる。自分の右真横から、突進。見える。彩加はこのことを疑問に思わない。そんな余裕すらないのだ。おそらく、今まで、見えていなかった攻撃が見えるということは、彩加に余裕ができ、それが、精神力の増大に繋がった、それか、これが、彩加の本気ということ。または、茜の精神に限界がきた。ただでさえ、ビースト・フォームを維持するのは、かなりの精神力を使うのである。さらに、彩加の思わぬ反撃で、精神的にぐらついた。もしかしたら、茜の作戦かもしれないが、おそらく、そこまで、考える余裕は、今の茜にはないだろう。茜の作戦を除く、いろいろな可能性を考えたところで、その全てが当てはまるかもしれないし、一部が当てはまるかもしれないし、また、全てが当てはまらないのかもしれない。いずれにしろ、はっきりしていることは、彩加にとって、好機であるということだ。茜が右前足を振り上げる。そして、彩加の身体を斜めから叩きつけ
るように、振り下ろす。が、彩加の身体には当たらない。彩加が右手を逆手の形にして、受け止めたからだ。茜の右前足の足首を持ったまま、身体をねじり、左手の裏拳を、茜の左顎にヒットさせる。渾身の一撃。ありえない、身体能力。これが、武の能力。たまらず、茜の身体が、ぐらつき、右寄りになる。すかさず、右手を離し、左手で持ち替える。それを軸に、身体を回転。右足をふりかぶる。茜の苦しそうな顔が正面に来る。そして、右足を右に傾いている茜の身体の左わき腹にいれる。悲鳴。さらに、右に傾く。茜は、ほぼ真横の体制に。右手で、茜の左前足の足首を掴む。意識する。茜が仰向けになるよう、そう意識しながら、右足でできるだけ、腹に近いあたりの右わき腹を蹴る。また、悲鳴。茜の体制が仰向けに近づく。彩加は茜の上に乗っているような感じ。今度は、踏みつけるような感じで、もう一発。悲鳴。そして、ほぼ、仰向けに。と、同時に。茜が上体を起こしてくる。血走った眼。反撃に。噛みつこうと、口を開く。二人の体制は、まるで、空中に、足で立っている様な。そんな体制に近づいてくる。彩加は両手を離す。そして、右足を真っ直ぐ上にあげる。茜は本能のままに動く。彩加の行動など、眼中にないかのように。タイミングを見計らって、振り下ろす。かかと落とし。茜は物凄い勢いで、落下。公園の地面に叩きつけられる。彩加は地面が近づいてきたところで、足に力を入れる。無事に着地。茜はまだ動かない。動く気配すらない。千絵がいるであろう、駅の中に入っていく。千絵はそこにいた。座り込んだままだ。肌はいつもと同じ色。鉄の、鈍い色ではない。彩加に気づいて、声をかける。

千絵「よっ。悪いけど、楽させてもらったよ。あれは、キツイね。精神的に参ったよ。もう、大丈夫だけどさ。アンタ、相当やるな。そこの、天窓から見てたけど・・・。後は、私に任せな。アンタじゃ、始末でき・・・」
と、地響き。驚いて、言葉が切れる。彩加と千絵がガラス越しに外の様子を伺うと、大きな足。二人は、驚いて、外に出る。そこには、巨大化した。茜。おそらく、全長10メートルはあるだろう、怪物。

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あきゅろす。
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