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NOVEL ROOM

タイトル:風の行方(最終話)



時刻はすでに2時をまわっていた。愛風は自宅のマンションの前までくると、携帯電話をポケットから取り出し、電話をかけた。数回コールの音を聞いた後に、眠たそうな声が帰ってきた。その声は次女の風音のものであった。

風音「もしもしー。おねぇちゃんーー?」
声の後に欠伸と口をムニャムニャさせる音が聞こえて、愛風は口元を緩めた。今までのことなど忘れたかのように。

愛風「うん。そう。今もう下まできてるの。だから、入り口のとこ開けて」

風音「うーん。わかったー」
少々、不安だったが、愛風は電話を切り、1つ目の自動ドアをくぐり抜けた。そして、2つ目の自動ドアの前で立ち止まった。しかし、なかなか開かないので、もう一度電話をかけようかと迷っていると自動ドアが開いた。“よしっ“と短く独り言を漏らすと、歩みを進めた。

七階にある712号室の自宅までくると、呼び鈴をならした。扉の内側でガチャガチャとがしたかと思うと、すぐに扉が開いた。ドアを開けたのは三女の風花だった。

風花「お帰りー。お姉ちゃんー」
とそのまま愛風に抱きついた。いつものことと思いながら、2、3度頭をなで、部屋の中に入った。そして、風花を右手で抱きしめたまま、反対の手でロックとチェーンをした。風花を抱きしめたままリビングにいくと、風音が電子レンジを使
っているところだった。帰ってきた姉を見つけると、声をかけた。

風音「お帰り。お姉ちゃん。今日は久々に遅かったね」
少し、叱責するような口調だった。特に、額に皺が寄っていた。

愛風「あー。うん。彼氏とちょっとね。大丈夫よ。健全なお付き合いだから。ちょっとケンカしただけ」
そう話すと、愛風に抱きしめられたまま眠っている風花を寝室に運んで行った。
そして、戻ってくると自分の部屋へ入って行った。その態度に不満な風音は声を大きくして、愛風に尋ねる。

風音「ホントにケンカなの?ヤバい人たちと関わってたりしないよね?」そういいながら、冷蔵庫からお茶のパックを取り出す。

風音「ねぇ、お姉ちゃん!」
部屋からでてきた愛風はパジャマだった。そして、唇に右手の人差し指を当てていた。風花を心配しているようだった。気づいた風音は“ゴメン“と小さな声でいい、棚から取り出したコップにお茶を注ぎ、座った愛風の前にさしだした。愛風はレンジに視線を向けたまま“そんなことするわけないでしょ“と風音の考えを一蹴した。しばらく二人が無言でい無言でいると、電子レンジのピー、ピーという音が響いた。風音は電子レンジからご飯とおかずの両方を乗せれるタイプのプレートを慎重に火傷にきをつけながら取り出した。そして、サランラップをとりはずし、愛風の前にだした。遅れて、箸を手渡した。愛風は“ありがとー“と言いながら、ご飯に手をつけ始めた。風音もその様子を嬉しそうに見ていたが、考えを改めた。

風音「ホントに大丈夫なのよね。絶対よね?」
声の調子があきらかに怒っているので、愛風は一度箸を置き、風音の目を見ながら、答えた。

愛風「ホントよ。ね。だから、安心して」
風音はしばらく愛風の目を見ていた。当然、愛風もその間は箸に手をつけなかった。しばらく、見ていたが、風音には愛風がホントの事を言っているのか、ウソをついているのか、見分けることはできなかった。ただ、愛風はその力強い目を風音に向けているだけだった。その目には何か、魔力のようなものがあったのか、風音は次第に安心感に満たされ、折れた。そして、“どうぞ“と手で食べるよう薦めた。愛風はまた笑みをこぼし食べ始めた。風音が嬉しそうにどんどん食べ物を胃袋にいれていく、愛風を見ていると、愛風が突然口を開いた。
愛風「そういえば、お父さんとお母さんは?仕事?」

風音「うん。いつも通り。帰ってきてたら、こっちに顔だすはずだし、物音もしなかったし」
特に寂しいという表情ではなく、たいして関心がないという表情だった。三人の両親は医者であるため多忙なのだ。家族がそろうのは月に数回くらいだった。その時も、二人ともがかなり疲れているので家族水入らずの時間はほとんどない。そのうえ、呼び出しがかかる時もあるくらいだ。普段はすれ違いが多い。両親は彼女 たちが学校に行っている時に帰ってきているのだ。両親の部屋は隣の711号室で、分かれている理由としては、彼女たちが思春期であったり、両親としては自分たちの仕事の邪魔をされたくないし、自分たちもしたくないし、なおかつ、自分たちが仕事でうまくいっていない時にはけ口にしてしまうかもしれないという危惧があったからだ。今は、少ないコミュニケーションがあるだけだが、円満な家庭を築けている。

愛風「そういえばさ。風花だけどさ。ドア開ける時、チェーンつけなかったんだよね。寝てたから、言わなかったけど・・・」
渋い顔を風音に向けた。風音は言いたい事がわかったのか、頷く。そして口を開いた。

風音「うん。ちょっと、あれだね。でも、風花がそうするのは、お姉ちゃんってわかってる時だけだよ」
そして、’ね’と笑いかけた。しかし、愛風は応じなかった。

愛風「でも、やっぱり、危ないじゃない・・・」
なおも愚痴を続けようとしたが、風音が割り込む。

風音「それに、私だって、ちゃんとお姉ちゃんって確認しないで開けたし。お姉ちゃんもカメラ覗かなかったでしょ?いいじゃない。家族なんだし。それだけ信用してるってことよ」
そう言い終わって、風音は席を立った。’じゃ、私、もう寝るね。片づけといてよ’と言い残して、そそくさと部屋に入って行った。リビングには愛風が残された。誰に言うでもなく、’ウブなんだから’と言うと、自分で言ったことが気に行ったのか何度か頷き、また、食事を再開した。

半年後。事件は起こった。
その日、愛風は友達二人と地元のショッピングモールに買い物に来ていた。昼頃、ウインドウショッピングをしていた時、後ろから女性の悲鳴が上がった。その声に驚いた三人が後ろを振り向くと、三人に向かって、無表情の女性が走ってきていた。距離は10メートルもない。愛風の瞳は相手の顔を見たまま。そして。その まま、その女性は愛風にぶつかった。その瞬間、愛風の体に衝撃が走った。女性はすぐに愛風から体を離すと、そのまま走り去った。愛風は茫然としていた。となりの友達が悲鳴をあげた。遅れて、もうひとりも。愛風の体は友達に寄りかかるように倒れた。後ろではまた悲鳴が上がっていた。愛風の体は友達に揺らされていた。しかし。何も感じなかった。友達が愛風に呼び掛けていた。しかし、それは言葉ではなく、雑音として彼女の耳は実感していた。愛風は気づいた。刺されたと。しかし、どこかわからなかった。周りには多くの人間。愛風の頭は冷静だった。経験によるものだった。’そうか・・・刺されたか。そうか。この体ももう終わりか。未練は ない。さっさと、別の体に・・・’そこで、彼女は。愛風ではない、彼女は。思考が停止した。’何で・・・出られない。どうして・・・。でられない。何で。今まで、何度も・・・・・・。だって・・・もし、かして。能力のせい?そんな・・・。そんな。嘘でしょ。能力が。縛られて。待って、待ちなさいよ。私は二度も生き残 ったのよ。あの人だって、やっと見つけたのに・・・。・・・黙れ、うるさい。どけ。触るな。くそ、くそ。どうしてよ・・・’そこで、彼女の思考は途切れた。そして、彼女の体は光の粒子へとなった。その光はどこかえと飛び去って行った。同じころ、彼女がいたマンションからも14の光が飛び去っていた。


712号室。
風音と風花はソファーでぐったりいていた。そんな時、訪問をつげるチャイムが鳴った。しかし、二人とも動かなかった。しばらくすると、鍵の音。続いて、扉が開けられた。二人が玄関を見ると、そこには両親が立っていた。二人は両親のところへ駆けていった。
風音「どうしたの?二人とも」
風音も風花も笑顔だった。先ほどまでのブルーな気持ちなどどこにもなかった。母親は笑いかける。
母「久しぶりに家族で食事に行こうと思ってね。いそがしい」
風花は首を横に振った。
風花「ううん。だいじょうぶ!どこいくの?」

父親「フランス料理のレストランだよ。もう、4人分予約してある。家族水入らずでゆっくりしよう」
そうして、風花の頭をなでた。風音も嬉しそうだった。
そのまま、4人は部屋を出て行った。静かに扉が閉められ、鍵がかけられた。4人の声はだんだん遠ざかっていった。

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