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NOVEL ROOM
THE BEGINNIG OF HIS NEW LIFE
1990年 イギリス ラッテルルン第二邸

総資産は世界でも、指折りのラッテルルン家の一室、その中央には、周りにある様々な機械と繋がれていて、さらに、それ自体も複雑な機械でできているであろう、かなりゴツイ椅子がそびえ立っていた。そして、その椅子に座っている少年は、頭から目のあたりまでをすっぽりと覆う、半円系のものをかぶりながら、両手で、椅子の両側に備え付けられている、パソコンを同時に扱っていた。

カタカタカタカタカタカタ…タン

最後に少年が、左側のパソコンのエンターキーを押すと、左側にはパスワード入力の画面、右側には英語で様々な文字が画面いっぱいに表示されていた。
数秒、間があくと、少年は、なにかしら声をあげたい衝動に駆られながらも抑え、微かに震える左手を動かすのに全神経を集中させながら、キーをゆっくりと、人差し指で、順番に押していった。

********

パスワードを入力すると、しばらく画面を見つめていたが、意を決したように、一度、軽く頷くと、エンターキーを力強く押した。
ヴーン、と音がしだすと、椅子に繋がっている、全てのモニターやパソコンの画面には‘OK’と、表示された。そして、椅子の隅々の場所が光りだし、それと連動するように、先ほどモニターやパソコンの画面に表示されていた‘OK’、という文字は、消え、それぞれに、様々な英語が映し出されていった。暫くすると、左側のパソコンに‘BLISS’の文字が映し出され、全ての機能はダウンしていった。

監視室

深夜、男は夜食も終え、いつも通り、ビタミン剤を飲もうと、新しいビタミン剤を開けている途中、50はあるだろうモニターの中央あたりの一つが明らかにおかしいのに気付き、身を乗り出して見ていた。男の行動に気付いて、違うモニターに目をやっていたもう一人の男が、「まさか…完成したのか?」、と、心此処にあらずといった感じで呟くと、暫く呆然としていたが、すぐに我を取り戻し180度向きを変え、部屋を出ようとした。が、その時、もう一人の男から、「待て!」といった怒鳴り声が聞こえ、内心、舌打ちをしながらも、渋々、振り向いた。その次にかかってきた言葉は、予想だにしないものだった。「おかしいぞ…」。独り言ともとれるその言葉に、疑問を投げ掛けてやりたい気持ちは山々だったが、ふと、モニターに目をやると、すぐに、その言葉の意味を理解した。先ほどまで、輝いていたモニターは、今は、砂嵐状態だった。暫く見続けていると、モニターが回復し、そこに見られた光景は、先ほどとは、一転、少年が倒れている光景だった。さらに、頭の方には血のようなものが浮かんできていた。二人の男は、慌てて少年の部屋を目指し、駆け出していった。

二人が部屋の前に着くと、息を整える時間も惜しいとばかりに、「待て!」と声をかけた男は扉の横に設置されているロックのための装置にカードキーを差し込んだ。そして、暗証番号を素早く押し、カードを抜いた。すると、同時にピーという電子がなり、前のドアが、シュン、と音を立て、左側に開いた。男たちは一心不乱に突っ込んでいき、少年が倒れているであろう場所に駆け寄った。だが、そこには、少年は倒れておらず、さらには、血の跡もなかった。何がどうなっているのか、わからずにいると二人の後ろで物音がした。二人が、すぐさま振り向くと、一瞬、少年の後ろ姿が、確認できただけであり、‘しまった’と、頭で思った時には、ドアが閉じられ、閉じ込められていた。もう一人の男は、すぐに扉のそばに行ったが、開かないのを確認すると、‘どうする?’と、言いたげな目で振り向いた。男は、その視線を受け流すと、携帯電話を取出し、電話をかけた。2コールすると、すぐに、相手は‘何があった?’と、威圧的な声で電話に出た。
「申し訳ありません。Mr.ティート。例の、スカッダー社長の、3番目のご子息に逃げられました。」
電話越しにではあるが、先ほどの威圧的な声に圧倒され、声が少し震えていた。「貴様ら…。すぐに確保しろ。非常放送で、全職員に連絡しろ。」
冷静な口調ではあったが、男は怒りをひしひしと感じていた。
「いえ、それが…ご子息の部屋に閉じこめられまして…」
すでに、男は精神を何とか、保っている状態だった。「チッ。放送の方はこちらでなんとかする。貴様らは、そこを動くな!」
そういうと、Mr.ティートは一方的に電話をきった。

少年は全速力で走っていた。少年の頭の中は、すでに、死ぬことでいっぱいだった。死んで自由になる。やっと、解放される。それだけが、頭の中を巡っていた。肩で息をし、転びそうにもなったが、なんとか踏ん張り、そして、何度目の角を曲がっただろう、遂に、少年は、先ほど男たちがいた、部屋の前まで来た。が、その時、非常放送がかかった。だが、少年は、耳すら傾けず、一呼吸置くと、一歩踏み出した。すると、ドアのロックは、自動で解除され、少年は部屋に足を踏み入れた。ドアが、締まり、再び、ロックされる音を聞きながら、少年は机の上の新しくあけたであろう、ビタミン剤のビンをとると、それを、ところどころ、こぼしながらもほとんどを口にいれ、飲み込んだ…。

イギリス ラッテルルン第一邸

数時間後、ほぼ、徹夜で仕事をしていたスカッダーの携帯に電話がかかった。仕事の邪魔になるため、携帯は電源を切りたい性格の男だったが、やはり、立場上、それはできないので電源を入れていたが、それでも、明け方になったことは、今までにもなかったので、少し顔をしかめながら、電話にでた。
「私だ」
少し、不機嫌な口調で、一言そう告げた。
「何!?」
スカッダーはその時、右手から、携帯がすり抜けるのを感じた。ガッっと床にあたる音を聞き我にかえると、すぐさま、携帯をひろい耳に当てた。
「すまない…それで、データの方は?」
「はい。データの方は、全て消去されていたのですが…ご子息も、我々が仕掛けておいた、コピーウィルスには、気付かなかったらしく、全てコピーされていました。それも…どうやら、完成しているようです」
「……そうか。完成していたか…」
そのスカッダーのらしくない口調にティートもスカッダーと彼の義息子の普段の交流を思い出し、懐かしむように呟いた。
「…彼は、社長のお気に入りでしたからね…」少し間をおくと、スカッダーは呟くように「ああ」と、答えた。
「すぐにそっちに行く」
そう告げると、電話を切った。そして、大きなため息をつくと、目頭を押さえ、今はもうこの世にいない少年を思い浮かべながら、呟いた。
「バカ義息子が…」

2010年 日本 千葉県 宮城家

ジリリリリ ジリリリリ
目覚ましの音で起きた少年は、手を伸ばし、目覚ましを掴むと、ベッドの中に引き込み、上についているボタンを押し音を切った。そして、再び、夢の中へと戻っていった。そう、彼は、母親に叩き起こされる方を選択したのだ。そして、5分後、宮城神路は母親に叩き起こされるのだった。


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