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詔くんが身近にいるせいか、理屈っぽい性格の人間は慣れていた。それを詔くんの彼女、早苗ちゃんに伝えたら本当に複雑そうな顔をする。
放課後、詔くんと早苗ちゃんの3人で一緒に帰っている時だ。
詔くんは相変わらず、イヤホンを付けながら一人黙々と前を歩いている。
「で、長谷川先輩はウザい人じゃないと苺先輩は言いたい訳っすね」
「私は多分恋をしたんです、彼はいい人です」
早苗ちゃんは、あいつの長いスピーチのせいで発売日のゲームが10時に買えなかった、とか散々長谷川さんについて理不尽な愚痴を重ねる。彼女も結局は私のクラスメイトと同じ、といった所だろうか。
愚痴を横で聞いていた詔くんは、片方だけイヤホンを外して後ろを向き、早苗ちゃんの顔をジト目で眺める。
「まだこの前のこと引き摺ってんのか」
「あいつ絶対許さない。色々と」
「この間からずっとこの調子なんだ。学先輩を見掛ける度に敵意剥き出しになる」
この間じゃなくてずっと前から嫌いだっつの、早苗ちゃんはとうとう地団駄を踏んだ。相当嫌いらしい。

今日は珍しく晴れていた。季節の変わり目は天気が変わりやすいとかよく言われるけど、ここ数日は晴れている。だから、もしかしたら参道に行けば猫に会えるかも知れない。
長谷川さんにも。

神社の前に到着した辺り、詔くんは家が逆だからそこで手を振って別れた。
歩いている早苗ちゃんを少し置いてきぼりにして私は遊歩道で猫を探しながら歩く。
「じゃあ、この次に寄ってきた猫の尻尾が白だったら私、告白します」
振り向いて早苗ちゃんに言うと、彼女は何か考えているようで、多分私の言葉は聞こえていない。

さらりと初夏の風が肌を撫でる。今日は本当にいい天気だ。
ケープもそろそろ夏用にしなければならない。詔くんに見ているだけで暑苦しいと言われたけれど、これは探偵ファンとして外せない私の一部である。
部活中にケープの話になった時、詔くんは「予知夢」を私に読めと差し出した。私は江戸川乱歩だったり、横溝正史だとか俗に言う「古典的でコテコテな探偵」が好きだったから、食わず嫌いで現代ミステリには疎かった。だから最初は嫌々読んでいたのだが、だんだん主人公の准教授に惹かれていく自分がいた。
彼のように理屈が通る推理をする探偵は今までで見たことがない。金田一にしろ毛利にしろ、彼らは「探偵の勘」に縋る時があるからだ。
そんなことを詔くんに喋ったところ、彼は嬉しそうに笑う。
「じゃあ金田先輩、その暑苦しいケープやめようか」
でもいくら准教授の白衣が格好良くても、やっぱりケープは探偵として譲れない。

そういえばスカートもまだ冬用だったな、重いスカートの素地を手繰り寄せると、足元にあの猫がいた。
相変わらず痩せている。
「早苗ちゃん、見てください」
猫を抱えて早苗ちゃんに見せると、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「あ、尻尾無いね。事故で無くしたのかな」
「早苗ちゃん知らないんですか?マンクスって種類の猫は、元々尻尾が短いか無いかのどっちかなんですよー」
どうせ長谷川さんから聞いたことだって言うと早苗ちゃんは嫌な顔をするだろうし、自分が知っていたかの如く自慢気に喋ってみた。
それを感じ取ったような猫は、私の顔を見て複雑そうににゃあと鳴く。
「え、じゃあどうするんすか、色がなんとかっていうあの占い」
早苗ちゃんは私の言葉を聞いていたらしい。そんならさっき反応してくれてもよかったのに。
私は猫を抱えて立ち上がると、猫はいつまでも先程まで自分が立っていた地面を覗き込んでいる。猫の見ているであろう地面に私も視線を送ると猫缶が置いてあった。下手くそで中途半端な開け方だ。
私の脳裏に長谷川さんの顔が過ぎる。ああ、彼が。
長谷川さんのこと、余り知らないけど。少なからず私は彼に恋をしている。
「告白します」
私が決意表明をすると、早苗ちゃんは何故か苦笑いでそれを流した。
やっぱり私には早苗ちゃんの長谷川さん毛嫌いは理解出来ない。


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