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本当のところ、俺と早苗はなんで付き合っているのか解らない。恋人とは趣味が似ていたり、同じじゃなければやっていけないらしい。
ところが、俺と彼女は趣味が正反対である。全く、というほどではないが。
俺は早苗のやっている「ゲーム」に興味もないし、早苗はやっぱり「活字」に興味を持ってない。


人の家のソファーに寝そべり、気持ち良さそうに寝息をたてて目を瞑っている彼女、早苗を眺めた。ソファーからはみ出た彼女の腕は、床に置いてある携帯ゲーム機を求める様にだらりと垂れている。
俺は、脇に投げ捨ててあったブランケットを早苗に掛けると、彼女は身をよじってソファーから落ちぬよう器用に寝返りを打つ。
それと同時、床に放置された携帯ゲーム機の充電ランプが消えた。早苗はそれでも眠っている。
新しいゲーム機は、一度電池が切れると充電が終わるまで起動することが出来ないらしい。世間は最低のゲーム機と評価しているらしいが、早苗はむしろ落としても割れない、有機ELのタッチ画面を気に入っている。
そして充電した当の本人、早苗は電池が一杯になるまで休むと言って、そのまま人の部屋のソファーで寝てしまった。

特にやることも無くなってしまったから、早苗と同じくよく寝る部活の先輩から借りた本を読むことにする。
ハードカバーの本はあまり好きじゃない。持ち運ぶのに不便だし、場所と金が文庫本以上に取られるからだ。
それでも先輩はそこがいい、とか言っていた。

俺の部活の先輩はよく解らない人間が多い。特に本を貸してくれた先輩がよく解らない。
この間なんて、苗字が「金田」だったから「金田先輩」と呼んでいたら、
「折角下の名前が『苺』なんだから、『金田一先輩』って呼んでください!」
とか怒られる始末だった。何が折角なのだろうか。
だけどまあ、俺が横溝正史好きだということを伝えると、先輩はそれから俺に懐くようになった。ある種の迷惑に過ぎない。
流石に彼女がいる身だから、何度か早苗も誘って3人で帰ったり外食を取ったりしたのだが、いつのまにか先輩と2人きりで出掛けることが多くなってきていた。
これは世間的に見たら浮気、なのだろう。けれども早苗は、俺と先輩が2人でいる所を見たり聞いたりしても嫉妬したり怒ったりはしない。もしかしたら先輩以上に早苗はよく解らない人間なのかも知れない。
俺はというと、先輩みたいな人種はあまり好んで一緒に居ようとは思わない。不思議なかまってちゃんは嫌いだ。


「……あ、充電終わってる」
噂をすればなんとやら、のそりとソファーから起き上がった早苗。先程掛けたブランケットが彼女の背中から床に落ちる。
「おはよう」
「う、おはよ」
早苗は大きな欠伸を俺に見せると、涙目を細めて落ちたブランケットを畳み始めた。次に早苗の視線は、床のゲーム機に向けられる。起きてからの約1分間、俺の顔を1度も見ない。
「結局寝ちゃったよ。充電終わったら起こしてくれてもよかったのに」
「気持ち良さそうに寝てたから、起こそうにも起こせなかった」
そう俺が言うと、早苗は照れ臭そうに頭を掻いて笑う。ブランケットありがとうね、やっぱり彼女は俺の目を見ないで喋った。

このままだらだら関係を続けていても、何もならない。今日も俺は恋人同士らしくないこの関係について早苗に言えなかった。
勿論、早苗のことは好きだ。
だけれど、この関係維持は依存からくるものなのか別れたくない本心からくるものなのか、それが解らないから困っている。




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あきゅろす。
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