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「じゃあ、この次に寄ってきた猫の尻尾が白だったら私、告白します」
猫に好かれやすい苺先輩は、神社の遊歩道をくるくると楽しげに歩く。

苺先輩は熱狂的な探偵ファン(悪く言えば痛い探偵オタク)で、彼女自身も探偵風のケープを制服の上から掛けている。疑いもなく、外見も中身も探偵オタクと取れる風貌だ。
私の彼氏が文芸部の2年部長で、苺先輩も文芸部に所属している。だから私と彼女の関係は謎に等しい。
けれど帰る方面が同じなので、こうやってよく部活帰りに一緒になるのだ。そうして一緒に帰る回数を重ねて行く度に波長が合ったりして、私たちは少なくとも友達ぐらいの関係にはなった。

彼女がくるくる回る程恋しているのは、私から見たら3年の先輩で、生徒会長の長谷川学。如何にも「理系の男」の、曲がったことが大嫌いのお堅い人間だ。ただ、容姿端麗な眼鏡男子なため、彼の中身を知らない女子は、大抵最初見ただけで苺先輩の様に恋い焦がれる。

神社の境内はびっくりする程静かで、遊歩道の両脇の笹がさわさわと揺れている。葉に透かされた緑の光が風と共に初夏を薫らせた。猫はまだ居ない。

よく私の彼氏と苺先輩が一緒に居る所を見掛ける。特に嫉妬とかはないのだが、ミステリ小説の話題で盛り上がっているところを見ると、たまに彼女としての私の存在価値が解らなくなってしまう。
前に私の彼氏について聞いたところ、苺先輩は凄く幸せそうな顔で、趣味の合う「男の後輩」と答えていた。男として意識している、ということだろうか。
趣味の合わない私と趣味の合う苺先輩では、彼はどちらと居た方が気が楽なのだろう。
そんなことを最近はぼんやり考えては沈み、彼氏と良いことがあると浮いて悩みを忘れる。まるで水槽に浮かぶ死んだ魚みたいだ。
いっそ、私の彼氏じゃなくて長谷川先輩で良いのかと聞いてみた方が気が楽になるかも知れない、と思い立ち顔を上げる。

苺先輩は遊歩道の脇にしゃがみ込んでいた。
彼女の傍らには、牛のような斑模様の猫がそっと寄り添っている。問題の尻尾は、こちらからでは見えない。
「早苗ちゃん、見てください」
猫を抱えた苺先輩が、私に尻尾を見せるように猫の背中を見せた。
尻尾が、ない。
「あ、尻尾無いね。事故で無くしたのかな」
「早苗ちゃん知らないんですか?マンクスって種類の猫は、元々尻尾が短いか無いかのどっちかなんですよー」
自慢気に話す苺先輩に応えるように、尻尾の無い猫がにゃあと鳴いた。
「え、じゃあどうするんすか、色がなんとかっていうあの占い」
「うーん、」
そうですねえ、苺先輩は目を伏せて長い睫毛を私に見せた。猫は大人しく彼女の腕に収まっている。
「告白します」
苺先輩が猫を撫でながら喋る。彼女の視線が少し泳いだのを私は見逃さなかった。
何を考えて、決めた尻尾占いを放り投げてまで、どういう理由で、何故告白する決意を固めたのか、私には理解ができない。だだ、彼女の目が泳いだ理由は少し解った気がする。



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あきゅろす。
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