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「チロルちゃんって何者なの」

スタジオ練習の休憩中、ギターの上田さんが缶コーヒーを飲みながら、僕にそう聞いた。
僕はDTMの調子を確認している宮瀬さんと日根さんを遠目で眺め、ぼんやりと自分のことを考える。
「自分でも分からないです」
僕の返事を聞いたとき、上田さんがくすりと笑った。
「や、真面目に答えなくっていいって。宮瀬さん自体よく分からない人なんだし。あの人、バンドとか音楽の話以外しないから」
「上田さんにもそうなんですか」
「あれ、チロルちゃんならなんか知ってると思ったんだけど」
そうなんだ、上田さんが意外そうに首を傾げた。
謎の彼女の話とか、僕の母親の知り合いが宮瀬さんだった、とか喋りたいことは沢山あるけれども、僕が話したところで上田さんが得することはなにもない。僕の正体が上田さんにバレてしまったら、確実に受け入れられなくてメンバーとおさらばだろう。話してしまったら、むしろデメリットまみれだ。
「あ、チロルちゃんが宮瀬さんの奥さんとか、そーゆーのはある?」
「無いです」
「即答かあー」
けらけら笑った上田さんは、立ち上がってギターを背負う。
DTMの確認を終えた宮瀬さんがこちらを見て笑った。多分、話は聞こえていないだろう。
宮瀬さんは相当世話好きだから、彼女さんはきっと世話され好きだ。



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あきゅろす。
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